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水瀬千尋はエースではない―青嵐女学院バレーボール部―  作者: まるちーるだ
第一章 あそこへ

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3/13

第二話 青嵐女学院


 青嵐女学院へ見学に行くことが決まったのは、それから2週間ほど後のことだった。


 当日の朝、うちの玄関先には、出発前から凜の声が響いていた。


「千尋、準備できた!?」


「できてるよ」


「シューズ持った!?」


「持った」


「サポーター!」


「持った」


「飲み物!」


「持ったって」


「タオル!」


「凜」


「何?」


「自分の心配して」


「あ」


 凜は足元に置いていたスポーツバッグを開くと、そのまま固まった。


「……シューズない」


「ほらね」


「取ってくる!」


「行ってらっしゃい」


 凜は勢いよく立ち上がると、そのまま3軒先にある自宅へ全力で走っていった。


 朝から元気だ。


 というより、今日に限っては昨日の夜からずっと元気だった。


 今日は青嵐女学院の学校見学に加えて、女子バレー部の練習も体験させてもらえる。凜はそれが楽しみで仕方がないらしく、昨日から私の持ち物まで何度も確認していた。


「相変わらずだねえ」


 車の運転席から、父が笑う。


「今日だけで3回目だよ、忘れ物」


「それでよく自分より千尋の心配ができるな」


「凜だから」


「なるほど」


 父はそれだけで納得した。


「昨日もあれだけ確認してたのにね」


「自分のじゃなくて、私の荷物をね」


「凜らしい」


「父さんまで、それで済ませるのやめてよ」


 数分後、シューズ袋を振り回しながら凜が戻ってきた。


「お待たせー!」


「今度こそ全部持った?」


「たぶん!」


「たぶんって言うな」


「大丈夫! シューズある!」


「最低条件を満たしただけで誇らないで」


 凜が助手席へ乗り込み、私は後部座席へ座る。全員が乗ったのを確認してから、父が車を出した。


     ◇


 青嵐女学院は、東京都内にある中高一貫の私立女子校だ。


 全国的に最も知られているのは、やはり女子バレー部だと思う。少なくとも、私にとって青嵐といえば、真っ先に女子バレー部の名前が浮かぶ。


「うわ、広い!」


 車で正門をくぐった途端、凜が窓に張りついた。


「凜、窓に跡つくよ」


「見て、千尋! 体育館、あっちかな!?」


「まだ分かんない」


「絶対あれだよ!」


「校舎かもしれないでしょ」


「体育館!」


「なんで言い切れるの」


「勘!」


 ちなみに、凜の勘はそれほど当たらない。


 今回も普通に外れた。凜が自信満々に指差していた建物は講堂だった。


「体育館、反対側だって」


「似てるじゃん」


「似てないよ」


「大きい建物という意味では似てる」


「その分類なら、校舎も全部一緒になるでしょ」


 父が車を駐車場に止めたあと、受付を済ませて校舎へ入る。


 休日だったけれど、校内には部活動へ向かう生徒が何人も歩いていた。女子校へ入るのは初めてだったから、多少は緊張するかと思っていたのだけれど。


「千尋」


「ん?」


「自販機いっぱいある」


「最初に見るところ、そこ?」


「大事じゃん」


「何が?」


「3年間通うかもしれないんだよ?」


「自販機で進路を決めるな」


 凜があまりにもいつも通りなので、私まで緊張するのを忘れてしまった。


「千尋、凜!」


 聞き覚えのある声に、私たちは揃って振り返った。


「由梨先輩!」


 三上由梨先輩が、廊下の向こうから手を振っていた。


 私たちの1つ上で、去年まで同じ中学のバレー部に所属していた先輩だ。卒業後は推薦で青嵐へ進学し、今もバレー部で競技を続けている。


「久しぶり。2人とも大きくなった?」


「私は1cm!」


「私はそんなに」


「凜はもう十分だから」


「まだ欲しいです!」


「何cmを目指してるの?」


「180cm!」


「あと1cmじゃん」


「そうなんですよ!」


 由梨先輩が楽しそうに笑った。


「千尋は?」


「168.8cmです」


「細かい」


「169cmって言ってもいい範囲だと思ってます」


「それはもう、169cmでいいんじゃない?」


「ですよね?」


「千尋、盛った!」


「0.2cmくらい許して」


 そんなやり取りをしていると、由梨先輩が私たちの後ろへ目を向けた。


「水瀬さんのお父さんも、お久しぶりです」


「久しぶり、由梨ちゃん。元気そうだね」


「はい。おかげさまで」


「大変?」


「すっごく」


 由梨先輩は即答した。


 父が笑う。


「いい学校だ」


「そこ、喜ぶところですか?」


「大変なのに楽しいなら、いいところでしょ」


「……まあ、それはそうですけど」


 由梨先輩は少しだけ考えてから、納得したように笑った。


「先生たちが待ってるから、先に案内しますね」


「お願いします!」


「凜、声」


「はい!」


「もっと大きくなった」


「返事だけは昔からいいんですよ」


「千尋!」


 由梨先輩の後ろについて校舎を歩く。


 廊下を曲がったところで、私は前から気になっていたことを聞いた。


「先輩、青嵐はどうですか?」


「うーん」


 由梨先輩は少しだけ考えた。


「楽しいよ」


「即答じゃないんですね」


「楽しいけど、楽ではないからね。中学の時より練習は当然きついし、周りは上手い子ばっかり。私も推薦で来たけど、推薦だから試合に出られるなんてことは全然ないし」


「ですよね」


「それに、内部の子たちも必死だよ」


 青嵐は中高一貫校だけれど、中等部でバレー部に所属していた選手全員が、高等部でも同じように競技を続けられるわけではない。


 高校バレーで全国を目指す選手として残れるのか。そこはかなり厳しく見られると聞いていた。


 内部生だからといって、何かが保証されているわけではない。むしろ小さい頃から青嵐にいる分、ずっと評価され続けることになる。


「でも」


 由梨先輩が振り返った。


「本気で強くなりたいなら、いいところだと思う」


「はい!」


「凜は返事が早いね」


「もう、だいぶ来る気なので」


「千尋は?」


「私は……見てからです」


「うん。それがいいよ」


 由梨先輩は笑った。


「今日は遠慮しないで、思いきりやってきな」


     ◇


 最初に通されたのは、体育館ではなく小さなミーティングルームだった。


 中には、既に1人の女の子が座っていた。


 最初に目についたのは、その小ささだった。


 私や凜と比べたから、というだけではない。女子バレー選手として見ても、かなり小柄だと思う。短めの髪に、感情のあまり見えない顔。座っているから正確には分からないけれど、160cmはなさそうだった。


 女の子はこちらを見ると、まず私を見て、次に凜を見た。


 凜の顔が一瞬だけ、


 ――ちっちゃ。


 と言いそうになった。


 私は無言で凜の腕をつねった。


「痛っ」


「何も言わないで」


「まだ何も言ってない!」


「顔で言った」


「何の話?」


 小柄な女の子が、淡々と聞いてくる。


「何でもないです」


「そう」


 その子の隣には女性が座っていた。たぶん母親だろう。


速水(はやみ)さんも、もう来てたんだね」


 由梨先輩の言葉に、女の子が頷いた。


「はい」


 速水。


 どこかで聞いたことがある気がしたけれど、すぐには思い出せなかった。


「3人とも揃ったわね」


 奥から声がして、私たちはそちらへ顔を向けた。


 青嵐女子バレー部の監督。その隣には、男性のコーチもいる。


 私と凜、小柄な女の子とその保護者、それから父。全員が席についた。


「今日は来てくれてありがとう」


 監督は落ち着いた雰囲気の女性だった。こちらを緊張させないためなのか、口調も柔らかい。


 ただ、その目はよく私たちを見ていた。


 座り方や返事だけではない。誰かが話している時に、どこを見ているのか。そんなところまで観察されているような気がした。


「神崎凜さん」


「はい!」


「水瀬千尋さん」


「はい」


「速水美緒(みお)さん」


「はい」


 小柄な女の子――速水美緒が、短く答えた。


「今日は学校の見学だけではなく、せっかくだから午後の練習にも入ってもらいます。無理に良く見せようとしなくていいから、普段通りにやってみて」


「分かりました!」


「神崎さんは緊張していなさそうね」


「はい!」


 監督が少し笑った。


 速水さんが横から凜を見る。


「元気だね」


「うん!」


「そこは返事しなくてもいいと思う」


「そう?」


 速水美緒。たぶん私たちと同い年だと思うけれど、少なくとも緊張して固まるタイプではなさそうだった。


 監督の隣では、男性コーチも笑っている。


 背が高い。190cm近くありそうだ。現役を離れてしばらく経っていそうなのに、肩回りは今でもかなりがっしりしている。


 どこかで見たことがある気がして首を傾げていると、コーチが父へ顔を向けた。


「お久しぶりです、尋長(ひろなが)さん」


「久しぶり」


「全然変わりませんね」


「そっちは少し老けたね」


「会って最初に言います?」


 どうやら知り合いらしい。


「父さん、知ってるの?」


「昔ね」


 父の答えはそれだけだった。


「昔って?」


「一緒にバレーしてた」


 コーチが苦笑する。


「同じチームだったんだよ。お父さんがセッターで、俺がオポジット」


「へえ」


 私は父とコーチを見比べた。


「父さんのトス、打ちにくくなかったですか?」


「千尋」


「いや」


 コーチが真顔になった。


「打ちにくかった」


「ですよね」


「おい」


 思わず笑うと、凜まで横から話に入ってきた。


「やっぱり、おじさんは昔から変なトス上げてたんだ」


「凜まで何を言うの」


「だって、千尋もよく言ってるじゃん」


「言ってるけど」


「変なトスって何?」


 速水さんが聞いた。


「普通なら上げないところに上げたりするの」


「打てるの?」


「打てる人なら」


「嫌なセッターだね」


「でしょ?」


「千尋。父親を初対面の子に売るの、やめない?」


 監督が軽く咳払いした。


「昔話は、その辺にしてもらって」


「すみません」


 コーチが素直に頭を下げる。


 父はまったく悪びれていない。たぶん、こういうところが昔から変わっていないのだと思う。


「青嵐のことは、どのくらい知ってる?」


 監督に聞かれると、凜が真っ先に手を挙げた。


「全国大会によく出てる!」


「間違ってはいないわね」


「あと、最後まで拾う!」


「それは誰から聞いたの?」


「千尋のおじさん」


 監督とコーチが揃って父を見る。


「余計なことは教えてませんよ」


「褒めてました」


 私が代わりに答えた。


「『こういうチームは嫌だねえ。なかなかボールが落ちない』って」


「ああ」


 コーチが笑う。


「尋長さんなら、間違いなく褒め言葉だ」


 監督も少し笑ってから、改めて私たちを見た。


「青嵐が昔から大事にしていることは、それほど難しいものじゃないの」


 そこで一旦、言葉を切る。


「最後の1球まで、絶対に諦めないこと」


 それだけだった。


「高さがある選手も欲しい。強く打てる選手も欲しい。速い選手も、頭のいい選手も欲しい。当然ね。でも、どれだけ才能があっても、ボールが落ちる前に諦める選手は青嵐には合わない」


 その言葉を聞いた時、少しだけ父の言葉を思い出した。


 6人で強い方が勝つ。


 エース1人で勝ったなんて言う人間がいたら、笑ってやれ。


 まったく同じことを言っているわけではない。それでも、どこか似ているような気がした。


「今の高等部には、かなり強い選手がいるわよ。九条(くじょう)沙耶(さや)は知ってる?」


「知ってます!」


 凜が即答し、私も頷いた。


 九条沙耶。


 その名前は、さすがに私でも知っていた。


 青嵐女学院高等部のアウトサイドで、私たちより1つ上。高校生になってまだ1年目なのに、既に全国大会でも名前を聞く選手だ。


 185cmの高身長から放たれる、強烈なスパイク。世代別代表の候補にも名前が挙がる、全国でも有名なスーパーエースだった。


 テレビで何度かプレーを見たことがある。


「すごいですよね!」


 凜の声が一段高くなる。


「凜、楽しそうだね」


「だって、一緒に練習できるんでしょ!?」


「今日だけならね」


「入学すれば毎日!」


「まだ決めてない」


「私はだいぶ決めてる!」


「知ってる」


「九条さんって、レセプションにも入る人ですよね」


 それまで黙っていた速水さんが言った。


 監督が速水さんを見る。


「よく見てるわね」


「リベロなので」


 それだけ答えると、速水さんはまた黙った。


 凜は九条先輩のスパイクを知っていて、速水さんは九条先輩がレセプションに入ることを知っている。


 同じ選手を見ていても、目につくところが違うらしい。


「もう1人、一ノ瀬(いちのせ)怜奈(れな)。セッター」


 その名前にも聞き覚えがあった。


「ユースの選考に入ってる人ですよね」


 私が聞くと、監督が頷いた。


「そう。九条と同じ学年」


「九条先輩と一ノ瀬先輩が、同じ学年なんだ……」


 凜が小さく呟いた。


 その2人が同じコートにいるというだけでも、十分すぎるほど怖い。


「もちろん、2人だけでやっているチームじゃないわ」


 監督は続けた。


「それは実際に、体育館で見てもらった方が早いと思う」


 その言い方が、少しだけ気になった。


     ◇


 着替えを済ませて体育館へ入った瞬間、最初に感じたのは音の違いだった。


「1本!」


「カバー!」


「まだ!」


 シューズが床を踏み鳴らす音。スパイクが叩き込まれる音。豪速球のようなボールをレシーブで受け止める、重い音。


 そのすべてが大きく、何より、選手たちの声が途切れない。


 そして、なかなかボールが落ちなかった。


 強打をレシーブで上げ、もう一度打つ。ブロックに弾かれても、そのボールを追う。


 コートの外へ大きく飛んだボールに、1人の選手が全力で走った。


「まだ!」


 床へ落ちる寸前、その腕がボールの下へ滑り込む。高く上がったボールを別の選手がさらに追いかけた。


「返して!」


 3本目は、攻撃にできるようなボールではなかった。それでも相手コートへ返した瞬間には、全員が既に次の守備へ戻っている。


 相手が打つ。


 また上がる。


「うわ」


 隣で凜が声を漏らした。


「何?」


「楽しそう」


「そこなんだ」


「だって見て! まだ続いてる!」


 確かに長い。


 そして、しつこい。


 強い学校だとは知っていた。全国大会の常連で、有名な選手もいる。


 それでも、実際に見て最初に抱いた青嵐の印象は――しつこい、だった。


 もちろん、最高の褒め言葉として。


「落ちないね」


 反対側から声がした。


 速水さんだった。


「うん」


「さっきの、普通なら2回くらい終わってる」


「2回?」


「最初の強打と、その次のブロック」


「ああ」


 速水さんはラリーから目を離さない。


 リベロだからなのか、それとも速水さん自身がそうなのか。さっきからスパイクを打つ選手よりも、ボールが打たれた先を見ていることが多い。


「あ!」


 凜が私の腕を叩いた。


「千尋、九条先輩!」


「どこ?」


「あそこ!」


 言われなくても、すぐに分かった。


 高い。


 ネット際に立っているだけで、他の選手の中でも目立つ。


 九条先輩がレセプションへ入り、きれいにボールを返す。そのまま素早く切り替えて助走へ入った。


 セッターへボールが返り、トスが上がる。


 ブロックは2枚。完全に揃っているように見えた。


 それなのに、九条先輩の手は、そのさらに上から出た。


 バンッ!


 体育館に音が響き、ボールが相手コートの奥へ突き刺さる。


「……高」


 思わず声が漏れた。


「すごい!」


 凜の目が完全に輝いている。


「私、あの人と打ちたい!」


「敵としてじゃなくて?」


「同じチームで!」


「気が早いよ」


「絶対楽しい!」


 でも、その気持ちは分かる。


 あれを間近で見たら、同じコートに立ってみたいと思う。


 私も九条先輩から目を離せなかった。


 次のラリーでも、九条先輩へトスが上がる。今度は相手のブロックに触られ、ボールが真下へ落ちた。


「カバー!」


 1人の選手が飛び込む。


 床ぎりぎりでボールが上がり、別の選手がつないだ。


 そして、もう一度、九条先輩へトスが上がる。


 今度は決まった。


「ナイス!」


 体育館に歓声が響く。


「すっご!」


 凜は九条先輩を見ていた。


 私も九条先輩を見ていた。


 ただ、その少し手前で起きていたことも見ていた。


 1回目のスパイクを、九条先輩は決められなかった。


 それでも、誰かがそのボールを落とさなかった。


 だから、九条先輩はもう一度打つことができた。


「……なるほど」


「何が?」


 凜が聞く。


「いや」


 私は少し笑った。


「父さんが好きそうだなって」


「何が?」


「このチーム」


「あー」


 凜も納得したらしい。


「好きそう」


「私も好きかも」


 速水さんがぽつりと言った。


「美緒も?」


 凜が振り返ると、速水さんが少しだけ眉を寄せた。


「もう名前で呼ぶの?」


「え? 嫌だった?」


「……別にいいけど」


「じゃあ、美緒!」


「距離を縮めるの、早いね」


「凜だから」


 私が言う。


「なるほど」


 速水さんまでそれで納得した。


「なんで、みんなそれで納得するの!?」


 凜だけが不満そうだった。


 その時、由梨先輩に呼ばれた。


「3人とも! そろそろ入るよ!」


「はい!」


 凜がすぐに飛んでいく。


「凜、まだ説明!」


「あ」


「本当に変わらないねえ」


 由梨先輩が笑った。


 速水さんが私を見る。


「いつもあんな感じ?」


「だいたい」


「大変だね」


「慣れた」


「聞こえてるよー!」


「地獄耳」


 私と速水さんも、凜を追ってコートへ向かった。


     ◇


 最初はポジションごとに分かれて練習した。


 凜はアウトサイド。私も基本はアウトサイド側へ入り、速水さんはリベロの先輩たちのところへ連れていかれた。


 青嵐の練習は、単純にきつかった。


 球数が多く、休む時間も少ない。それだけではなく、何をするにも1本では終わらない。


 スパイク練習でも、打ったあとはすぐにカバーへ入る。ブロックに当たってボールが戻ってきた想定で、もう一度助走へ開き、今度は切り返しから打つ。


「凜、遅れてる!」


「はい!」


「水瀬さん、打って終わらない!」


「はい!」


 言われていることは分かる。


 それでも、今までの癖が残っていて、身体がすぐには追いつかなかった。


 1本打って着地したら、すぐに助走へ開く。もう一度入って打ち、さらにカバーへ回る。


 息を整えながら、隣に並んだ凜を見る。


「これ……」


「何?」


「しつこいね」


「うん!」


 凜は楽しそうに笑っていた。


 私もつられて笑った。


 たぶん、こういうところなのだ。


 父が青嵐を嫌なチームだと言う理由。


 1回止めても終わらない。もう1回。そのボールも返せば、さらにもう1回。


 最後に床へ落ちるまで、ずっと続く。


     ◇


「じゃあ、ここからゲーム形式」


 練習が一区切りついたところで、監督が声をかけた。


 選手たちが集まってくる。


「体験の3人も入って」


「はい!」


「はい」


「はい」


 高校生ばかりが並ぶコートを見回す。


 さすがに少し緊張した。


 それでも、怖いという気持ちより、ここでやってみたいという気持ちの方が強かった。


「神崎さん」


「はい!」


「最初はA側」


 凜が嬉しそうに返事をする。


「速水さん」


「はい」


「あなたも最初はA。リベロの桜井(さくらい)と途中で代わって」


「分かりました」


 速水さんが頷いた。


 A側ということは、凜と速水さんは同じコートだ。


「水瀬さん」


「はい」


「あなたはB側」


「分かりました」


 凜が私を見る。


「千尋、別なんだ」


「その方が、いろいろ見てもらえるでしょ」


「そっか」


「数時間くらい離れてても死なないから」


「死なないけど」


「後でね」


「うん!」


 凜はA側へ向かい、速水さんもリベロの先輩の後ろについていった。


「水瀬さん」


 今度はコーチに呼ばれた。


「はい」


「Bのセッターと、先に顔合わせしておいて」


「分かりました」


 コーチがコートへ顔を向ける。


黒川(くろかわ)


「はい」


 短い返事が聞こえ、選手たちの間から1人の女の子が出てきた。


 私たちと同じくらいの年に見える。着ているジャージは青嵐中等部のものだったから、たぶん私たちと同じ中学3年生だ。


 背が高い。


 170cm台後半はありそうだった。もしかしたら、私より10cm近く高いかもしれない。


 手にはボールを持っている。


 セッター。


 その子はこちらへ歩いてくると、私の足元から頭までを、一度じっと見た。


 完全に値踏みされた。


「黒川伊織(いおり)


 女の子が言った。


「セッターやってる」


「水瀬千尋。アウトサイド。一応」


「一応?」


「まあ、だいたい何でもやるから」


「ふうん」


 短い。


 愛想も、あまりない。


「よろしく」


「よろしく」


 黒川伊織はそれだけ言うと、すぐにコートへ戻っていった。


 私はその背中を見送りながら、素直に思った。


 ――なんか、感じ悪いな。この子。


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