第十話 経験上
午後の練習試合の組み合わせが貼り出されると、凜は真っ先に人だかりへ突っ込んでいった。
戻ってきた時には、もう顔を見れば結果が分かった。
「千尋! 椿山!」
「よかったね」
「一年生主体の試合! 栞とやれる!」
「うん。すごくよかったね」
「千尋も嬉しいでしょ?」
「まあ、久しぶりだし」
「温度差!」
でも、楽しみなのは本当だった。
栞とは小学生の頃から何度も試合をしている。練習試合だけじゃなく、招待試合で当たったことも何度もあった。勝ったり負けたりを繰り返して、中学に上がってからも同じようなグループに入ることが多かった。
なのに、不思議なことに公式戦では一度も当たっていない。
「どっちが勝ち越してるの?」
横から組み合わせ表を覗き込んだ伊織に聞かれて、私は凜と顔を見合わせた。
「……どっちだろ」
「分かんない!」
「そんなにやってるのに?」
「たぶん同じくらいだよ。勝ったり負けたりだから」
「へえ。じゃあ本当にライバルなのね」
「そうなのかな」
「そうだよ!」
凜だけは即答だった。
青嵐は、歓迎試合と同じ七人で出ることになった。
私たち一年生五人に、梓先輩と瑞穂先輩。
「またよろしくねー」
梓先輩が手を振る。
「今度はこっちも一年生側なんだね」
瑞穂先輩も楽しそうだった。
椿山も一年生だけでは人数が足りないらしく、二年生が二人入るという。
その二人の顔には見覚えがあった。
「あ」
椿山のコートを見て、私は声を上げた。
「どうしたの?」
「伊織、あの二人。栞たちの中学の先輩」
「そうなの?」
「うん。椿山第二中」
栞たちより一学年上。
つまり、栞が中学一年生だった時に、同じバレー部にいた先輩たちだ。
椿山のコートへ近づくと、最初に凜が栞を見つけた。
「栞!」
「……久しぶり」
「昨日会った!」
「……じゃあ、昨日ぶり」
「そういうことじゃない!」
相変わらずだ。
その少し後ろに杏奈がいた。
目が合う。
杏奈が片手を上げた。
「久しぶり、千尋」
「久しぶり」
それからほとんど同時に、凜と栞を見る。
「……高校でも子守りか」
「高校でも子守りだね」
杏奈と顔を見合わせた。
「大変だね」
「そっちもね」
「聞こえてるよ!?」
凜がすぐに振り返る。
栞もこちらを見た。
「……悪口?」
「自覚あるんだ」
杏奈が言う。
中学時代、凜はうちのキャプテンで、栞は椿山第二のキャプテンだった。
そして私は副キャプテン。
杏奈も、たぶん似たようなものだった。
キャプテンが前でチームを引っ張って、その後ろで集合時間を確認したり、提出物を集めたり、先生に話を通したりするのは、だいたい私たちだった。
高校になって学校が変わっても、どうやら関係性までは変わらないらしい。
「結子!」
凜が今度は毛利さんを見つけた。
「もう完全にその呼び方なの?」
「だって栞が結子って呼んでるから!」
「栞はチームメイト」
「じゃあ私も今日から!」
「昨日も同じ話したよね?」
毛利さんが呆れる。
私はその横を見た。
見慣れない一年生が、一人いる。
大きい。
榊原さんよりさらに少し高い。182cmくらいはありそうだった。肩幅もしっかりしていて、立っているだけなら、むしろ一番バレー選手らしい。
でも。
「茉里奈、そこじゃないよ」
「え?」
椿山の二年生が呼ぶ。
「次、前だから。こっち」
「ここですか?」
「違う違う。もう一個右」
「こっち!?」
「そう」
「分かりました!」
見慣れない一年生――茉里奈と呼ばれた子が、慌てて立ち位置を変える。
もう一人の二年生が笑った。
「懐かしいわ、この感じ」
「ね。ローテーション変わるたびに場所教えるやつ」
「え、また回るんですか?」
「サーブ権移ったらね」
「さっきも回ったのに!」
「毎回回るよ」
「難しい!」
凜の目が輝いた。
「初心者!?」
「声が大きい」
毛利さんが言う。
「だって180cm超えてるじゃん!」
「182cmある初心者」
「なんで今までバレーやってなかったの!?」
「水泳やってたからです!」
本人が元気よく答えた。
「初めまして!前田茉里奈です!」
「茉里奈ね!私、神崎凜!」
「知ってます!」
「じゃあよろしく!茉里奈!」
「はい!」
「凜」
毛利さんが額を押さえた。
「何?」
「なんで名前聞いた瞬間に呼び捨てなの」
「だって名前教えてくれたから」
「私は教えてないのに結子だけどね」
私は前田さんに軽く頭を下げた。
「水瀬千尋。よろしく、前田さん」
「よろしくお願いします!」
凜がすぐ横から言う。
「千尋も茉里奈でいいじゃん」
「今日会ったばっかりだから」
「私も今日会ったばっかり!」
「凜がおかしいの」
「なんで!?」
向こうで栞が小さく頷いた。
「……凜、こういう感じ」
「栞まで!」
伊織が、愛梨、多恵子、杏奈を順番に見た。
「この三人が、昨日言ってた幼馴染?」
「そう」
「みんな小学校からバレーやってたの?」
「いや」
私は首を振った。
「やってたのは栞だけ」
「え?」
「愛梨も、多恵子も、杏奈も、中学からだよ」
伊織の顔が変わる。
速水さんも榊原さんも、椿山の三人を見た。
一番小さい愛梨はリベロ。多恵子は165cmのセッター。杏奈は176cmで、中学時代には栞の対角エースだった。
今の三人を見て、中学から始めたと言われても、たぶんすぐには信じにくい。
「三人とも?」
榊原さんが確認する。
「三人とも」
「それで全国大会に?」
「うん」
私は少し考えてから言った。
「何が怖いって、中学から始めた初心者三人がレギュラー取って、関東勝ち抜いて全国まで行ったことだよね」
「……それは怖いわ」
伊織が即答した。
椿山第二中は、もともと弱い学校ではなかった。
関東大会までは何度も行っている。
ただ、全国には届かない。
栞たちの代が、初めてその壁を越えた。
「でも最初から三人ともレギュラーだったわけじゃないよ。中一の最初は、栞だけ」
部員数はぎりぎりだったけれど、杏奈たちはまだバレーを始めたばかりだった。
最初はベンチに座っていた。
試合を見ながら、ローテーションを覚えて、何が起きているのかを必死に理解しようとしていた。
それでも新人戦の時期になると、もう三人を使わないわけにはいかなくなった。
「人数が足りないから?」
「うん。そこからは三人ともコートに出てた」
最初の頃なんて、本当に今の前田さんみたいなものだった。
立つ位置を間違える。
サーブ順が分からない。
レシーブに追いついても、とんでもないところへ飛ばす。
それでも三人は必死にボールを追いかけた。
「その時に一緒にやってたのが、今、前田さんに場所教えてる二年生の先輩たち……もう一人いたけど」
「なるほど」
伊織が納得したように頷く。
当時の先輩たちは、三人が本気で覚えようとしているのを見ていた。
だから、少しでも上手くなるように教えた。
新人戦で一緒にコートへ入り、次の年には関東大会まで進んだ。
その翌年、栞たちが三年生になった時には、三人はもう立派なレギュラーだった。
そして、関東を勝ち抜いて全国へ行った。
「だからあの先輩たち、初心者が試合に入ってても全然慌てないんだね」
速水さんが言った。
「たぶん」
ちょうどその時、前田さんがまた位置を間違えた。
「茉里奈、逆」
「えっ!?」
二年生が肩をつかんで向きを変える。
「こっち」
「すみません!」
「謝らなくていいよ」
先輩は笑っていた。
「三か月あれば、ある程度にはなるから」
「本当ですか!?」
「うん」
もう一人の先輩が、栞たちを指差した。
「経験上」
「私たちを教材みたいに言わないでください」
愛梨が抗議する。
「最高の実例じゃん」
「私、そんなに酷かったですか?」
「愛梨はボール追いかけて隣のコートまで行ってた」
「それは言わなくていいです!」
「多恵子は?」
「その頃は一日練習したら次の日休んでました」
「そこは自分で言うんだ」
「事実なので」
「杏奈はローテーション間違えてても堂々としてた」
「それ、もう忘れてください」
杏奈がため息をつく。
前田さんは目を丸くして三人を見た。
「本当に初心者だったんですか?」
「その反応、地味に傷つくな」
杏奈が言う。
「でも大丈夫だよ」
先輩が前田さんの背中を軽く叩いた。
「分かんなかったら毎回聞けばいい。最初なんて、分からなくて当たり前だから」
「はい!」
「ボール追えるだけ、かなり偉い」
「はい!」
「返す場所はこれから覚えればいいよ」
「はい!」
前田さんの返事は、全部同じくらい元気だった。
その姿を見て、先輩たちはまた笑う。
本当に、懐かしいのだろう。
試合が始まった。
青嵐は、セッターが伊織。アウトサイドに凜と私。オポジットに瑞穂先輩、ミドルに榊原さんと梓先輩、リベロに速水さん。
椿山も二年生二人を交代で使いながら、一年生をできるだけコートに入れていた。
私のサーブから始まる。
まずは短く。
前へ落とす。
「愛梨」
栞が一言だけ言った。
愛梨がすっと前へ出る。
小さな身体が低く沈み、腕が伸びた。
ボールはほとんどぶれず、多恵子の頭上へ返る。
「うわ、きれい」
思わず声が出た。
多恵子は165cm。
セッターとして高さがあるわけではない。でも、ボールの下へ入るまでに余計な一歩がほとんどない。
栞が左から入る。
毛利さんも反対から走る。
杏奈も右からきっちり助走に入った。
「三枚!」
伊織の声。
誰に上がる。
多恵子は最後まで正面を崩さず、毛利さんへ上げた。
「毛利さん!」
跳んだ。
やっぱり高い。
私とほとんど変わらない身長なのに、打点はずっと上だった。
ブロックの外からストレート。
速水さんが反応したが、腕を弾かれた。
「ナイス、結子!」
「ありがと」
「結子!」
凜がすぐネット越しに呼ぶ。
「何?」
「やっぱ高い!」
「試合中に感想言わなくていい!」
その隣で栞も頷く。
「……高い」
「栞は昨日から何回言うの?」
「……かなり」
「追加しなくていい!」
椿山のコートに笑いが起きる。
凜も笑っていた。
昔から、栞と試合をするとこうなる。
次のラリーで、凜が思い切り打った。
栞のブロックに触れ、ボールが大きく後ろへ跳ねる。
「奥」
栞が言った。
それだけ。
でも愛梨と杏奈は同時に動いた。
愛梨が一歩下がり、杏奈が外側を埋める。二人の間に落ちるはずだったボールを、杏奈がきれいに拾った。
「……今ので分かるの?」
伊織が露骨に嫌そうな顔をした。
「昔からあんな感じ」
「『奥』しか言ってないけど」
「中一の頃は通じてなかったよ」
「え?」
「栞が『奥』って言ったら、三人が別々の方向に走ってた」
伊織が向こうを見る。
「そこからこれ?」
「三年間一緒にやってるからね」
「本当に嫌なチーム」
「褒めてる?」
「かなり」
乱れたボールを多恵子が追う。
速くはない。
でも、最短だった。
必要なところへだけ動いて、崩れた姿勢から片手で上げる。
「杏奈」
「はいはい」
杏奈が右から打った。
強引に決めにいかない。
ブロックの外側へ当てて、ボールを自分たちのコートへ戻す。
「もう一回!」
愛梨が上げ、多恵子が組み直す。
今度は栞。
決まった。
「うわ、嫌だ」
「何が?」
凜が楽しそうに聞く。
「全部」
「楽しいじゃん!」
「凜は強い相手だとすぐ楽しそうになるよね」
「千尋もでしょ!」
「まあね」
向こうで栞がこちらを見た。
「……私も楽しい」
「栞!」
「何」
「久しぶりだね、こういうの!」
「……うん」
何年も前から、変わらないところもある。
点差はほとんど開かなかった。
8-8から、榊原さんの声で一本拾う。
「ライト!」
「了解!」
私が寄る。
速水さんがその後ろを埋める。
伊織が凜へ。
凜がブロックアウトを取った。
9-8。
そこで椿山のローテーションが回る。
「茉里奈、次前」
「はい!」
前田さんが自信満々に移動した。
「逆」
「えっ」
「そっちは後ろ」
「はい!?」
二年生が前田さんの肩をつかんで向きを変える。
「こっち」
「さっき覚えたのに!」
「また覚えればいいよ」
「はい!」
「懐かしいな」
「ね」
二年生二人がしみじみ言う。
「そんなにですか?」
「昔はこれが三人いたから」
前田さんが栞たちを見る。
「三人も!?」
「その驚き方、まだ腹立つな」
杏奈が言った。
笛が鳴る。
全員が一瞬で切り替えた。
椿山のレセプションが少し乱れる。
多恵子が走り、ネットから離れた場所でボールの下へ入った。
普通なら外へ高く上げる。
でも。
「茉里奈」
「はい!」
前田さんが走る。
速い。
いや。
「早い早い!」
トスが上がる前に助走を終えそうになる。
「待って」
栞が言った。
前田さんが足を緩める。
「……今」
そこからもう一度踏み込んだ。
完全には合っていない。
でも182cmが跳ぶと、それだけで高い。
「高っ!」
凜が叫ぶ。
腕が振られる。
梓先輩のブロックに当たり、ボールが大きく後ろへ飛んだ。
「触った!」
速水さんが追いつく。
「ナイス速水さん!」
伊織がつないで、私へ上げる。
ブロックの後ろへ落とす。
決まる。
そう思った。
「っ!」
前田さんが走り込んできた。
「そこまで来る!?」
片腕が届く。
ボールは上がった。
ただし、セッター方向とは全然違う。
ものすごい高さで後方へ飛んでいった。
「あっ!」
前田さんが固まる。
「すみません!」
「上がったからいい!」
二年生の先輩が走りながら笑った。
「懐かしいわ、この感じ!」
「ボールには追いつくのに、返す場所分かってないやつ!」
「すみません!」
「だから謝らなくていいって。次は腕の面だけ気をつけて!」
杏奈が落ちてきたボールの下へ入る。
「はいはい、こっちはやるから」
大きなアンダートス。
「結子!」
毛利さんが走る。
跳ぶ。
決める。
9-9。
「すごい!」
凜が前田さんに向かって笑う。
「今のよく拾ったね!」
「ありがとうございます!」
「敵に褒められて喜ばない」
毛利さんが呆れる。
「だって嬉しいので!」
「前田さん」
今度は榊原さんが小さく呟いた。
「何?」
「……あの人、身体が先に追いつくんですね」
言われて、私も気づいた。
榊原さんとは正反対だった。
榊原さんは見えている。
どこへ行けばいいのか、何が起きそうなのかも分かっている。
でも、身体が間に合わない。
前田さんは、まだ何が起きているか分からない。
それなのに身体だけなら先にボールへ届いてしまう。
「榊原さんと前田さん、足して二で割ったらすごそう」
「できたらいいですね」
「できないけど」
「知っています」
榊原さんは真顔で答えてから、ほんの少し笑った。
第1セットは、最後まで点差が開かなかった。
25-23。
青嵐が取った。
「惜しい!」
凜が笑う。
「勝った側が言う?」
毛利さんも息を弾ませながら笑っていた。
「次は取る」
栞が言う。
「取らせない!」
いつものやり取りだった。
給水に入ると、凜が椿山のメンバーを眺めた。
「ねえ栞」
「……何」
「会うたび仲間増えてない?」
栞が少し考え、自分の周りを見る。
「……増えた」
「ずるい!」
「何が?」
「私も増やす!」
「別にいいじゃん」
私が言うと、凜が振り返った。
「何が?」
「こっちだって伊織と速水さんと榊原さんが増えてるから」
三人が同時に私を見る。
「私たち、増えた扱いなの?」
伊織が聞いた。
「高校で会ったんだから増えたでしょ」
「まあ、そうだけど」
「梓先輩と瑞穂先輩も今日はいるし」
「私たちは今日だけの助っ人だけどね」
瑞穂先輩が笑う。
「でも数えてくれるなら嬉しい」
「ねー」
梓先輩も頷いた。
凜はしばらく考えて、それから満足したらしい。
「じゃあいい!」
「結局、何がずるかったの?」
伊織が呆れる。
私も分からない。
「千尋」
横から杏奈に呼ばれた。
「何?」
「そっち、増えたね」
凜の方を見ながら言う。
「そっちもね」
杏奈の視線の先には、毛利さんと前田さんがいる。
「高校でも大変そう」
「杏奈も」
「まあね」
少し間を置いて、二人で笑った。
「高校でも子守りか」
「高校でも子守りだね」
「聞こえてる!」
凜がまた反応する。
栞も遠くからこちらを見た。
「……杏奈」
「何?」
「私は子どもじゃない」
「そういうところだよ」
杏奈は慣れた顔で返していた。
私は水を飲みながら、もう一度椿山を見る。
最初は栞しかいなかった。
そこへ、バレーなんてやったこともなかった愛梨、多恵子、杏奈が入った。
ベンチから始めた三人は、新人戦ではもうコートに立っていた。
分からないことだらけのまま必死にボールを追い、先輩たちに教わって、一年後には関東へ行った。
その次の年には、全国まで行った。
人数合わせで誘われただけだった三人は、それでもバレーボールを続けた。
今度は毛利さんがいる。
そして、前田さんがいる。
「……やっぱり椿山って怖いよね」
「初心者三人が全国まで行った話?」
伊織が聞く。
「それも。でもさ」
向こうでは、前田さんがまた二年生の先輩にローテーションを確認していた。
「栞って、バレーやってなかった人を連れてきて、その人がいつの間にかバレー選手になってるんだよね」
伊織も前田さんを見る。
182cm。
走れる。
跳べる。
今はまだ、自分が次にどこへ立つのかも分からない。
「三か月後、どうなってると思う?」
「……想像したくない」
「でしょ?」
笛が鳴る。
休憩が終わった。
「千尋、行くよ!」
「うん」
凜が先にコートへ戻る。
向こうでも栞が立ち上がり、愛梨、多恵子、杏奈、毛利さんが続いた。
前田さんだけは、最後にもう一度先輩に立ち位置を直されている。
「今度こそここね」
「はい!」
「分かんなくなったらまた聞いて」
「はい!」
「大丈夫。三か月あれば、ある程度にはなるから」
「経験上ですね!」
「そう。経験上」
二年生たちが笑った。
昔は、栞だけを見ていればよかった。
中学になったら三人増えた。
高校では毛利さんが増えて、今度は前田さんまでいる。
でも、それならこっちだって同じだ。
中学まで隣にいたのは凜だった。
今は伊織がいる。速水さんがいる。榊原さんがいる。
向こうが会うたびに変わるなら、私たちだって変わればいい。
「千尋!」
伊織のトスが上がった。
「はい!」
助走へ入る。
次に椿山と会う時、前田さんがどこまでバレー選手になっているかは分からない。
その時、私たちがどこまで強くなっているのかも、まだ誰にも分からなかった。




