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星脈の契約者  作者: 靉庭かさね
第2章「赤い心臓」

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第8話「人の形」


 赤く染まった術式が、第七灯台の外壁を這うように明滅した。


 足元から突き上げた振動は一度で収まらず、岩盤の奥を何か大きなものがゆっくりと動いているように、間を置いてもう一度続いた。整備足場を支える金具が軋み、白い雲海へ張り出した鉄板が細かく震える。


「全員、塔側へ寄れ! 外縁から離れろ!」


 ガレンの声に、リセアは壁へ身体を寄せた。さっきまで男が倒れていた場所では、赤い光が胸元から滲んだまま消えず、蒼重域に押さえられているはずの身体がゆっくりと起き上がっていく。


 ノアが片手を前へ伸ばした。蒼い光が男の足元を中心に広がり、濡れた鉄板へ溜まった水が薄く押し潰される。先ほどまで塔全体へ掛けていたものより狭く、その分だけ強く重さを集中させたのだと、リセアにも見て分かった。


 男の膝が沈み、肩も下がって片腕が鉄板へついた。それでも完全には倒れず、歯を食いしばる様子すらないまま、ただ何かに引かれるように顔を持ち上げた。


「効いてはいる。でも、止まらない」

 ノアの声から、いつもの軽さが消えていた。

「止めなくていい。動きを遅らせろ」


 ガレンは錨鎖を足場へ打ち込んだまま、もう一本を腰から引き抜いた。鈍い銀色の鎖が鉄板の上を滑り、男と塔の間へ弧を描く。


「塔の中へ入れるな。ティナ、扉を維持」

「了解。カシル、右側空けて」

「分かった」


 ティナの符糸が鉄扉の周囲へ走った。細い光の糸が蝶番と術式錠、それから扉を囲む石壁へ絡み、さっきの衝撃で歪み始めていた境界を仮留めしていく。カシルはその横を抜け、外壁へ刻まれた術式のうち、赤く明滅している線から距離を取った。


 全員の動きが速かった。任命された日の午後、訓練盤の上で見た時には一つ一つの役割を追う余裕があったが、今は違う。ガレンの指示が飛んだ時にはもうノアが動き、ティナがその先を支え、カシルは二人が作った隙間へ自分の役目を差し込んでいる。


 リセアは一歩遅れて状況を理解しながら、それでも命じられた位置から離れないよう足元を確かめた。怖さを考えている余裕がなくなっていることに、少し遅れて気づく。


「……かえ……」


 風に掻き消されそうな声を発したのは、男だった。顔は上がっているのに視線はガレンにもノアにも向いておらず、青白い唇だけが僅かに動き、ひどく乾いた声が喉から漏れている。


「聞こえるか! 名前を言え! 俺たちは封鎖局だ。お前を保護できる!」

 返事はない。

「どこから来た! 分かるなら答えろ!」


 男の頭が僅かに傾いた。


 一瞬だけ、聞いているように見えた。


 もし言葉が通じるのなら。もし、この人がまだ何かを伝えられるのなら。そんな考えが浮かび、リセアは思わず息を詰めた。


「……かえせ」


 今度は、はっきり聞こえた。


 次の瞬間、男の胸で赤が脈打った。


「来る!」


 ノアが叫ぶ。


 蒼重域の中心が沈んだ。男が何かをしたようには見えなかったが、胸元の赤が強くなった瞬間、周囲へ見えない力が膨らみ、押し返すように広がった。ノアの蒼い光とぶつかると、濡れた足場の上で水滴が一斉に跳ね上がる。


 ガレンの錨鎖が激しく鳴った。


「固定する!」


 鎖が男の左右へ走り、足場の二点へ深く食い込む。男そのものを縛るのではなく、その周囲の鉄板と岩盤へ固定点を増やし、広がろうとする力の逃げ方を限定していく。


 リセアは反射的に手すりを掴んだ。衝撃が腕を伝い、肩まで震える。ここで転べば邪魔になると思った瞬間、背後からティナの符糸が腰へ巻きついた。


「新人、足元!」

「すみません!」

「謝るのは後!」


 ティナはリセアを見もしなかった。両手の指を開いたまま、扉と壁、それから四人の退路へ伸びた符糸を同時に維持している。


 その横で、カシルが外壁へ手を向けた。


「赤い反応、塔へ戻ってる!」

「切れるか?」

「切るんじゃない。逃がす!」


 指先から細い雷が走った。


 青白い電光は男へ向かわず、赤く明滅する外壁の術式へ触れる直前で幾つもの細い筋へ分かれた。余分な魔力の流れへ別の道を作り、塔の内側へ集中する前に外へ逃がすための雷導線だった。


 雷が外壁を走り、一瞬だけ塔を覆っていた赤が薄くなる。


「通った!」


 カシルが叫んだ直後、男の胸が再び赤く光った。先ほどカシルが作った雷の道へ逆向きの明滅が走る。


「カシル!」

 ティナの声と同時に、カシルが手を離した。


 雷導線が切れ、赤い光が途中で弾ける。火花が足場へ散り、一部が雲海へ吸い込まれていった。


「……っ、今の何だ」


 カシルが自分の手を振る。火傷をした様子はなかったが、顔からさっきまでの余裕が消えていた。


「俺の雷に乗ったんじゃない。作った流路へ、何か別のものが入り込んできた」

「分からないなら追うな。今は塔と人命優先だ」

「了解」


 リセアは男の胸元を見る。赤い光はまだ消えていないが、今の現象が灯室で感じた二つの圧と関係しているかどうかは分からなかった。目の前で実際に見えている赤と、触れた時の感触を結びつけるには、まだ何も足りない。


 分からないまま戦わなければならない。その事実が、遅れて胃の奥を冷たくした。


 候補生時代の実技では、必ず最初に対象の条件が与えられた。何が暴走しているのか、どこを封鎖するのか、何を守れば成功なのか。知らされていない情報があったとしても、それは試験問題として用意された「分からないこと」だった。


 今、目の前にあるものは違う。誰も答えを持っていない。


「リセア」


 ガレンに呼ばれ、顔を上げる。


「はい」

「管理棟までの退路、目で確認しろ。符糸が切れた場合の代替を探せ」

「分かりました」


 戦うことではなかった。それでも、自分にできることを与えられたことで、ほんの僅かだけ呼吸が戻った。


 リセアは男から完全に意識を逸らさないよう注意しながら、塔内へ続く扉と通路を見た。ティナの符糸はまだ生きている。その奥、螺旋階段へ戻る道には途中で分岐が二つあったが、ここへ来るまでに塞がっている場所はない。


「塔内へ戻る経路は生きています。入口から管理棟側へ出られます。ただ、この扉が歪んだら――」


 言い終える前に、男が動いた。今までの緩慢な動きとは違い、蒼重域の中で上体が沈んだ次の瞬間、鉄板を蹴る音が響く。


「ノア!」


 男の身体がガレンへ向かって前へ出た。


 ノアが重さを増したが、完全には止まらない。男の足元の鉄板が大きく凹み、それでも一歩、二歩と前へ進む。


 ガレンは退かなかった。


 錨鎖を横へ振る。


 銀色の鎖が男の腕へ巻きつき、そのまま足場の固定点へ引かれた。男の身体が横へ崩れ、肩から鉄板へ叩きつけられる。


「ガレン!」

「まだだ!」


 ガレンが鎖を引くと、男が片膝をついた。胸元の布がさらにずれ、赤い光が露わになる。


 リセアの目に、一瞬だけ硬い輪郭が見えた。


 皮膚の表面が光っているのではない。もっと内側、胸の中央に何かがあるように見える。そう思った直後、男が自分の胸元を掴んだ。


「……せ」


 指が濡れた布を強く握る。


「返せ……」


 声には、さっきまでとは違うものが混じっていた。


 怒りなのか、苦しさなのか、リセアには分からない。ただ、初めてそこに人間らしい感情が滲んだように聞こえた。


「何を返す! 誰に取られた!」


 ガレンが問い返す。


 男は顔を上げた。


 初めて、その視線がガレンへ合った。


 青白い顔に浮かぶ表情は乏しい。それでも目の奥にあったものを見た瞬間、リセアは背筋が冷えるのを感じた。敵意とは少し違う。ひどく長い間、何かを探し続けてきた者の目に見えた。


「……かえせ」


 鎖が鳴り、ガレンの腕が強く引かれる。


「っ!」


 男が錨鎖を腕に巻きつけたまま立ち上がった。固定点の一つが鉄板ごと持ち上がり、太い金属音を立てて外れかける。


「ノア、落とせ!」

「やってる!」


 蒼い光が濃くなる。周囲の霧が足元へ沈み、男の身体へ掛かる重さが増したのが見えた。それでも男は立っていた。呼吸を荒くすることもなく、ただ胸元を片手で押さえながら、もう片方の腕に絡んだ錨鎖を引いている。


 ガレンの靴が鉄板の上を滑った。


 リセアの身体が動きかけた。何をするつもりだったのか、自分でも分からない。


「来るな!」


 ガレンの声に、踏み出しかけた足が止まる。


「お前の仕事はそこじゃない!」


 鋭い声だった。


 リセアは唇を噛み、足を戻した。


「ティナ!」

「分かってる!」


 符糸がガレンの腰へ巻きつき、塔側へ強く張られる。ガレン、ティナ、塔の三点が一つの線で繋がったことで、錨鎖を引く男の力がそのままガレン一人へ集中しなくなる。


「カシル、足場を残せる?」

「残すしかないだろ!」


 カシルが再び雷を放つ。


 今度は男の周囲へは近づけず、足場の下を走る補助術式へ雷導線を通した。赤い明滅の流れ込んでいない場所だけを選び、過剰になった魔力を外側の排出部へ逃がしていく。


 鉄板の震えが僅かに弱まる。


「今!」


 ノアが腕を振り下ろし、蒼重域を一点へ集中させた。


 男の身体が今度こそ膝から落ちる。ガレンも同時に錨鎖を引いて男の腕を背後へ流し、ティナの符糸がさらに二本伸びて、鎖と男の衣服の上から絡みついた。


 数秒の間、男の動きが止まり、風の音だけが戻ってきた。リセアは自分が息を止めていたことに気づき、ゆっくりと吐く。


「……固定できた?」

 カシルが測定具を確認しながら言う。

「まだ。重さに逆らってる。少しずつ」


 ノアの返事に男を見ると、肩が僅かに持ち上がっていた。


「冗談だろ」


 カシルが呟く。


 蒼重域と錨鎖、符糸。第二実働班の三人が同時に押さえて、それでも完全には止まっていない。


 濡れた髪も、青白い顔も、胸元を押さえる指も、見た目だけなら人間のものだった。それなのに、蒼重域と錨鎖と符糸に同時に押さえられてなお起き上がろうとする姿だけが、リセアの知る人間からあまりにも遠い。


 候補生時代に見た堕星体の記録が頭を過った。それでも、まだ目の前の男と完全には重ならなかった。


「管理棟、聞こえるか」


 ガレンが通信札を開いた。


『聞こえています!』

「管理員全員を発着場の飛空艇へ移せ。医療班が到着してるなら一緒に乗せろ」

『でも、灯台は――』

「設備は捨てろ。人を先に出せ」

『……了解!』


 通信が切れる。


「こっちの船も使う?」

 ティナが尋ねる。

「必要なら使う。ただし操縦士だけ先に離脱準備させろ。俺たちはここを離れない」


 腰の通信札が小さく振動した。


「特異体管理局からです」


 リセアが言うと、ガレンが片手を差し出した。


「繋げ」


 通信札を起動する。


『特異体管理局、アイゼル・クロウ。ガレン・ローク、状況を』


 覚えのある低い声が、風の向こうから届いた。


「人型堕星体の可能性あり。現時点で身元不明。通常供給停止後も灯台設備と連動する異常反応を確認。本人からも複数の魔力反応が重なって出ています」

『現場維持は』

「第二実働班で拘束中。ただし長くは持ちません」

『負傷者』

「管理員一名に魔力曝露疑い。こっちは現状なし」

『アルヴェインは』

「後方。接触させてない」

『直近で魔力焼けを起こしている。そのまま接触させるな』

「了解」


 リセアは通信札へ一瞬視線を落とした。星牢でルゼンの魔力へ触れてから、まだ日も経っていない。アイゼルが気にしているのは、その身体でもう一度、正体の分からない魔力へ触れることなのだと分かった。


『第二段階投入待機は受理している。搬出準備も始めている』

「……まだ投入は必要ないって伝えただろ」


 ガレンの返事に、通信の向こうで短い間が空いた。


『だからだ』

「は?」

『お前が「まだ必要ない」と言う時は、大抵ぎりぎりまで自分たちで持たせる。今回は新人まで連れていることを忘れるな』

「分かってる」

『分かっている人間は、現場が崩れ始めてから増援を考えない』

「まだ崩れてねえよ」

『だから先に動いている』


 ガレンの眉間に皺が寄った。


『アルヴェインは任命されたばかりだ。そこを新人の墓場にする気か』

「……するわけねえだろ」

『なら、意地と判断を取り違えるな。投入判断が出てから星牢を出していたら間に合わん。ルゼンはすでに搬出手順へ移している。専用艇も発着準備に入った。現場要請が出るまでは飛ばさない』

「……勝手に先回りしやがって」

『お前にだけは言われたくない』


 低い声のまま返され、ガレンは一瞬だけ黙った。長い付き合いがあるのだろうか、とリセアが思う程度には、そのやり取りには説明の要らない慣れがあった。


「まだいらない。今はこっちで――」


 男の胸が光った。


 さっきまでとは違い、赤が一度明滅したあとも消えない。


「ガレン!」


 リセアの声と同時に、男の身体を拘束していた符糸が一斉に張り詰めた。


 ティナの顔色が変わる。


「まずい、全部来る!」

「離せ!」


 ガレンの指示と同時に、ティナが符糸を切ったが、一本だけ遅れた。赤い光が糸を伝うように走り、ティナの手元まで迫る。


「ティナ!」


 カシルの雷が横から入り、符糸を途中で焼き切った。光が弾け、ティナが数歩後ろへよろめいて壁へ手をつく。


「平気! 触れてない!」

「ノア!」


 ガレンが振り向く。


 ノアは返事をせず、蒼重域を維持したまま男だけを見ていた。額には、この冷たい場所には似つかわしくない汗が浮いている。


「ノア?」

 リセアが呼ぶ。

「……効き方が安定しない」

「どういうことだ」

「同じ重さを掛けてるのに、赤が脈打つたびに押し返される」

「押し返される?」

「分からない。でも、さっきまで沈めてた分が少しずつ戻されてる!」


 ノアが奥歯を噛む。


 リセアには何が起きているのかをすべて理解することはできなかったが、蒼重域の中で男の肩が少しずつ持ち上がっていくのは見えた。片膝が浮き、次に腰が上がり、ゆっくりと再び立ち上がっていく。


 ガレンの錨鎖だけがまだ腕へ絡んでいる。


「固定点、もう一本!」


 ガレンが新しい錨鎖を抜き、床へ打ち込もうとした瞬間、岩盤が揺れた。


 先ほどまでとは比べものにならない。灯台全体が横へ大きく振られ、塔内から石の砕ける音が響く。リセアは壁へ肩をぶつけ、咄嗟に手すりを掴んだ。


「外縁術式が切れる!」


 カシルが叫ぶ。


 塔の外壁を走る青白い線が、上から順番に消えていった。一本消え、そのすぐ下も暗くなり、外壁を支えていた光が次々と失われていく中で、赤だけが残った。


「ティナ、塔を支えろ! カシル、残った導線全部そっちへ回せ!」

「やってる!」


 二人が動く。


 その瞬間、男の腕から錨鎖が外れた。鎖そのものが切れたのではなく、固定していた鉄板ごと足場から引き剥がされ、大きな金属片が白い雲海へ落ちていく。


 ガレンが体勢を崩す。


 男はノアの蒼重域の中を、一歩踏み出した。


 さらに、もう一歩。


「ガレン、下がって!」


 ティナが叫んだ直後、男の胸元から赤が溢れた。


 今度は光だけではない。周囲の空気が歪み、外壁を走る術式が男の方へ引かれるように曲がる。カシルが逃がしていた雷導線までが方向を変え、赤の近くで不規則に揺れた。


「全部切れ! 塔との接続を切れ! 持っていかれる!」


 ガレンの声に、カシルが両腕を払う。雷導線が消え、ティナも残していた符糸を塔から外して、自分たちへ繋いだ退路分だけを残した。


 途端に、第七灯台の明かりがすべて消えた。


 外壁も、整備足場も、通路の奥も闇へ沈み、一瞬だけ白い雲海と男の胸で脈打つ赤だけが残った。


 リセアの喉が鳴る。


 男が顔を上げた。


「……返せ」


 赤い光が脈打つ。


「返せ」


 今度の声は、はっきりしていた。


「俺の……」


 そこで言葉が途切れた。


 男は胸を押さえ、指先を布へ食い込ませた。まるでその内側にある何かを自分の手で掴み出そうとしているように、強く握り込んでいる。


 リセアは目を離せなかった。


 赤い光の奥に、何か硬いものがあるように見える。


 けれど、それが何なのかまでは分からない。


「ガレン」


 ノアの荒い呼吸が聞こえた。


「これ以上は、塔ごと押さえられない」


 ガレンは男を見たまま答えなかった。


「錨もあと二本です」


 ティナが続ける。


「退路維持に一本は必要。ここで全部使ったら、崩れた時に戻れない」

「俺の方も、まともに逃がせる経路がもうない」


 カシルが手の中の測定具を見る。針は振り切れたまま戻っていなかった。


「次に同じの来たら、どこへ流れるか分からない」


 ガレンの視線が一瞬だけリセアへ向いた。何を確認したのかは分からなかったが、その目はすぐ男へ戻る。


「クロウ、聞こえてるな」

『聞いている』


 通信札からアイゼルの声が返る。


 ガレンは短く息を吐いた。


「現場から第二段階投入を要請する。現行戦力での封鎖維持は困難」


 リセアの指先に力が入る。


 通信の向こうで、ほんの僅かな間があった。


『了解した』


 それだけだった。


 続いて、遠くで誰かへ指示を出す声と、金属音が通信越しに僅かに混じる。


『ルゼン・ヴァルハルト、第二段階投入へ移行する。専用艇は準備済みだ。即時発進させる』


 先ほどの会話の意味が、ここで初めて現実になった。


 アイゼルは、ガレンが投入を求めるより前からこの瞬間へ備えていた。


 今朝まで黒い扉の向こうにいた少年の姿が、リセアの脳裏へ浮かんだ。


 星牢の中で見た金色の炎。


 帰れ、と言った声。


 まだ間に合う、と。


 あの力が、ここへ来る。白い雲海の上へ。


 リセアは男の胸で脈打つ赤を見つめながら、自分がそれを待っているのか、それとも来てほしくないと思っているのか、まだ分からなかった。


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