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愛及屋烏花軍  作者: 司馬示朗
◾️花晨月夕──風斎の章
12/32

梔子の花信

朝から、空はよく晴れていた。


ようやく長雨が途切れたばかりで、庭の草木はまだ水を含んだ色をしている。

葉は洗われたように艶を持ち、池の水面はまばゆく日を返して、白くゆるやかに揺れていた。

風が渡るたび、土の湿りに混じってどこか甘い匂いが流れてくる。

花の盛りはすでに庭を去っていたが、その代わり、若葉の濃さと雨あがりの明るさが今の季節にはあった。


そういう朝なのに、愛護は落ち着かなかった。


朝餉では箸の進みがいつもより遅く、侍女に髪を梳かれているあいだも返事が半拍ずつ遅れる。

手習いを広げても、ひと文字書いては止まり、硯の縁へ筆を置いたまま庭を眺める。

何か言いたいことがあるのだろうと、女房たちにはすぐに分かった。

だが当の愛護は問われても首を振るばかりで、どうにも口を割らない。


欲しいものがあるのかと思えば違う。

拗ねているのでもない。

ただ、胸の中にあるものを、どう言葉へ変えればよいのか迷っているような顔だった。


朝凪は、その様子を朝から見ていた。


見ていたが、あえて触れなかった。

姫が自分で口にするまで待つべき事柄というものがある。

愛護は幼い。幼いが、近頃はもう、ただ思いついたことをそのまま転がすだけの子ではない。

言うべきことを自分で抱え、順番を考え、言い出す刻を見計らうようになってきている。

そこを急かせば、かえって筋が乱れる。


昼を少し過ぎて、ようやく人払いのきく小さな座敷へ朝凪が呼ばれた。


書見の間に続く、縁に近い一間だった。

障子は半ば開けられ、外の光がそのまま畳へ差している。

明るいのに、奥向きらしい静けさは崩れない。

愛護はその真ん中へちんまりと膝を揃えて座っていた。

呼んだくせに、朝凪が入ってきてもすぐには口を開かない。


朝凪は敷居際で一礼し、進み出て膝をついた。


「姫様、御用件を」


愛護は曖昧に頷く。

それから、袖口を指で弄った。

そういう仕草も、近頃は少し増えた。

幼いなりに、考えをまとめているのだ。


朝凪は黙って待つ。


外では風がひとつ、庭の木々を渡った。

濡れを残した葉が触れ合い、さらさらと涼しい音を立てる。

その音が過ぎてから、愛護はようやく顔を上げた。


「あのひと」


声は小さかった。障子の外で控える侍女の耳には届かぬほどに。


朝凪の表情は動かない。


「あのおうちから、出ないの」


やはり、その話かと思った。


この二週間、愛護が妙にぼんやりすることがあるのを、朝凪は見ている。

いっときは山の家のことをすべて胸の奥へしまいこみ、約束どおり一言も漏らさずにいた。

けれど、それは忘れたという意味ではなかったらしい。

むしろ忘れられぬからこそ、何日も言い出せずにいたのだろう。


朝凪は一拍置いて答える。


「はい」


簡潔な返答だった。

愛護は目を瞬かせた。


「ほんとうに」


「はい。あれは、あの家から出ません」


口調は固い。姫に向ける側付きの声音である。

けれど以前より突き放す響きは薄かった。

愛護もそれに気づいたのだろう、ほんの少しだけ肩の力を抜いた。


「……そうなんだ」


その呟きには、詮索の色が薄かった。

朝凪はそこで気づく。

知りたいのではない。知ったうえで、どうするかに迷っている顔だ。


「何か、お考えがございましたか」


尋ねると、愛護は今度こそ露骨に困った顔をした。

言ってしまえば簡単なのに、言ってしまうまでが難しい。

子どもらしい、率直な逡巡だった。


「……あのね」


「はい」


「愛護、あのひとに、なにかしたくて」


朝凪は黙って続きを待つ。

愛護は少しずつ、言葉を繋いだ。


「このあいだ、勝手に行っちゃったでしょう。朝凪にはごめんなさいなんだけど、でも、あのひと、やさしかったでしょう」


その「やさしかった」の中には、たぶん水を差し出されたことも、泣きそうになった自分を抱擁して宥めてくれたことも、全部入っているのだろうと朝凪は思った。

愛護にとって、あの短い時間は想像以上に深く残ったらしい。


「あのとき、愛護、すごくうれしかったの」


ぽつりと言う。


「……そうですか」


「うん。だから、お礼がしたいの」


そこで朝凪はようやく、本題を正しく掴んだ。


会いたいのではない。

返したいのだ。


してもらったことに対して、自分も何か返すべきだと思っている。

幼いくせに、そういう筋だけは妙に立てようとする。

そこが、この姫の子どもらしくないところだった。


愛護は言葉を続ける。


「ほんとはね、屋敷に呼んで、お茶とか、お菓子とか、ちゃんとして、愛護がおもてなしするのがいいのかなって思ったの。でも」


そこで、あからさまにしゅんとした。


「朝凪、だめって言うでしょ」


朝凪はごく薄く息を吐く。


「はい」


「……やっぱり」


落胆はしている。だが驚いてはいない。

最初から半分は分かっていたのだろう。

それでも言わずにいられなかった、その切実さの方が朝凪には見えた。


「申し訳ございません。あれを屋敷へお連れすることはできません」


「うん。そうだよね」


愛護は素直に頷いた。


「隠してるんだもんね」


朝凪は、そこで言葉を切らなかった。


「はい」


短く認める。


以前ならそれで会話を終えていたかもしれない。

だが今は、そこで打ち切る方がよくないと分かっている。

愛護が自分の中で筋を立てようとしているのなら、立てる先を用意した方がましだ。


愛護はしばらく黙り込み、自分の袖を指先でなぞっていた。

障子の外では、雨を越えたあとの明るい庭が風に揺れている。

葉の色は濃く、濡れを含んだ青さが目にしみるほどだった。


やがて、愛護がまた口を開く。


「じゃあ、なにか欲しいもの、ある?」


「欲しいもの、ですか」


「うん。お礼だもん。お菓子とか、布とか、きれいな器とか」


いかにも姫らしい発想だった。

もてなしも贈り物も、愛護はまだ六つなりに見て育っている。

礼を返すなら形にするものだと、そういうところだけはもうよく知っていた。


だが朝凪は首を振る。


「お受けいたしかねます」


愛護の肩が、また少し落ちる。


「……どうして」


「金品のやりとりにすべきことではございません」


言葉を選びながら、しかしはっきり告げる。


「また、あれ自身にも、物欲というほどのものはございません」


それは事実だった。

美菊は与えられれば受け取るが、自ら求めない。

衣も食も器も、必要なだけあれば足りてしまう。

その在り方は朝凪にとって今さらだが、姫にとっては理解しづらいのだろう。


「なにも? ほんとうに? そんなひと、いるの?」


朝凪は少しだけ考え、それから答える。


「おります」


愛護は困った顔になった。

礼をしたい。けれど招けない。物も贈れない。では何を返せばいいのか。

小さな頭の中で、その答えがうまく見つからないらしい。


沈黙が流れる。


朝凪は急かさない。

こういう時、先回りして答えを出してやるのは簡単だ。

だが、それでは愛護が自分で考えたことにならない。

姫として立つ子には、自分の中で道を見つける癖が要る。

朝凪はそれを知っていた。


しばらくして、愛護がふと顔を上げる。


「……じゃあ」


「はい」


「外のものを、持っていくのは?」


朝凪は眉をわずかに動かした。


「外のもの、とは」


「だって、あのひと、おうちから出ないんでしょう。だったら、おうちの外にある、きれいなものとか、いましかないものとか、そういうのを持っていったら、楽しいかなって」


そう言いながら、愛護の視線が庭へ向く。

朝凪もつられて外を見る。


雨の季節を抜けたばかりの庭は、花の盛りこそ春ほど華やかではない。

だが葉は濃く、光は明るく、ところどころに季節の匂いが満ちていた。

縁近くの低木には、白い梔子がいくつも咲いている。

濡れを脱いだばかりの甘い香が、風に乗って障子の内へ流れ込んでいた。


愛護もそれに気づいたらしい。


「くちなし」


小さく呟く。


「あれ、すごくいいにおいするでしょう」


朝凪は何も言わず、その案を胸の中で転がした。


金品ではない。

大仰な贈答でもない。

この季節の気配を、少し届けるだけだ。


花はやがて萎れる。香も消える。長く残る証拠にはならない。

それでいて、愛護の「返したい」という気持ちによく合う容をしている。


そして――と、朝凪はそこで思う。


これは、ちょうどよい。


愛護が自分から礼をしたいと思っている。

勝手に会いたいのではなく、然るべき理由を立てようとしている。

屋敷へ招くのでもなく、偶然を装って山へ入るのでもなく、こちらの管理の下で会わせるための口実として、これ以上穏当なものはない。


二週間前の夜、美菊と話したことが胸の内で静かに重なる。

どうせ接点が生じるなら、自分の見ているところで。

そう決めたばかりだった。


朝凪は視線を戻す。


「……梔子の花であれば」


愛護の顔がぱっと明るくなる。


「いいの?」


「はい。それくらいであれば、差し支えございません」


「ほんと?」


「はい」


愛護は目に見えて嬉しそうになる。けれど朝凪は、そこで終わらせなかった。


「加えて」


「うん?」


「もし姫様がよろしければ、その花は、姫様ご自身でお持ちになるのがよろしいかと存じます」


愛護は目を丸くした。


「え」


「先方への礼としては、その方が自然にございます。私が取り次ぎ、私の付き添いのもとで短くお渡しになるのであれば、問題は少ないかと」


言葉は固い。だが意味するところは、明白だった。


愛護は、しばらく言葉を失っていた。

嬉しいより先に、戸惑いが来たらしい。

自分から行っていいのか。朝凪がそれを言うのか。

驚きと、疑いと、期待とが、小さな顔の上をめまぐるしく過ぎていく。


「……いいの?」


ようやく出たのは、それだけだった。


「はい」


朝凪は静かに答える。


「先日のような無断の外出ではございません。礼を尽くすための訪いであり、私も同道いたします」


愛護はまだ半信半疑のようだった。


「ほんとうに、怒らない?」


「姫様が、然るべき形を守ってくださるのであれば」


それは了承であると同時に、条件でもある。

だが愛護にはそれで十分だった。


「守る!」


即座に返ってくる。


「勝手に行かないし、ちゃんとするし、変なこと言わないし、おとなしくする」


朝凪はその勢いに押されるように、ごく小さく目を伏せた。


「左様でございますか」


「うん!」


つい先ほどまで上の空でもじもじしていたのが嘘みたいに、愛護の顔は生気づいていた。

年相応の、隠しようのない喜びだった。


「じゃあ、お手紙、書いていい?」


「手紙、でございますか」


「だって、先に言っておいたほうがいいでしょ。いきなり行ったらびっくりするもん」


それはたしかにその通りだった。

愛護にとっては、礼として形を整える意味もあるのだろう。

いきなり渡すより、前もって伝える方が姫らしいと、幼いなりに考えたに違いない。


「差し支えございません」


朝凪が答えると、愛護はもう身体ごと前のめりになった。


「紙! 筆!」


控えていた侍女が慌てて道具を運んでくる。

先ほどまで何を考えているのか分からず気を揉んでいた姫が急に晴れた顔で動き出したものだから、侍女たちも内心では不思議に思っているだろう。

だが、そこは訓練された者たちだった。余計な顔はしない。


文机が引き寄せられ、白い紙が広げられる。

愛護は筆を持ったところで、はたと止まった。


「……あ」


「いかがなさいました」


「お名前、知らない」


朝凪は一瞬だけ迷う。

完全に秘し通すことは、もう難しいだろうと分かっている。

とはいえ、何でも一度に与える必要はない。

けれど、手紙の宛先がないのも不自然だった。


「……美菊、と申します」


愛護がその名をそっと口の中で転がす。


「よしあき」


「はい」


「きれいなお名前」


朝凪は何も答えない。

だが、その言葉が不快ではなかった。


愛護はさっそく筆を下ろした。

最初の一文字を書くだけで、もう頬がほんの少し赤い。

何を書けばよいのか、頭の中で言葉が渋滞しているのだろう。

書いては止まり、首をひねり、また書く。

姫らしく整えたい気持ちと、子どもらしい嬉しさとが、そのまま筆先の迷いになっていた。


朝凪はその様子を眺めながら、別のことを考え始めていた。


万事、滞りなく運ぶには、手を回すべきことがいくつもある。


まず日取りだ。屋敷の目が比較的緩み、玄冬の視線も他へ向きやすい日を選ばなければならない。

愛護の外出に全く人をつけぬわけにはいかないが、多すぎても困る。

途中までを年若い侍女ひとりとし、山裾の東屋あたりで待機させるか。

それとも「花を供える」とでも名目をつくり、庭方の者を一人つけ、適当なところで外してもらうか。


庭の梔子にも手を回す必要がある。

姫の思いつきで勝手に切ったと見られれば面倒だ。

庭師へ事前に話を通し、「姫様が香のよい花を一枝所望された」とでもしておけば角は立たないだろう。


そして何より、美菊の側の準備だ。

家の中をいつも以上に整え、防ぎの綾の具合も見直す。

滞在は短く、会う場所は縁に近いところに限る。

奥へは通さない。

愛護に余計なものを見せず、それでいて不自然にはならぬように。


朝凪の思考は、そういう細部を一つずつ積み上げていく。


その一方で、愛護は「『このあいだはありがとうございました』でいいかな」「でもそれだけじゃへんかな」「愛護より、って書くの、変じゃない?」と、小声でぶつぶつ言っていた。

時折朝凪を見上げ、答えを求める。

そのたび朝凪は必要最小限だけ返す。


「礼は十分に尽くされております。あとは、姫様のお言葉で自然なように」


「自然って、むずかしい……」


困った顔をしながらも、嬉しさの方が勝っているのは明らかだった。

最後には半ば勢いで書き上げ筆を置くと、満足そうに紙を掲げて眺める。


「できた」


「拝見いたします」


「うん」


朝凪は差し出された文を見る。


文字にはまだ子どもらしい危うさがある。けれど内容は悪くなかった。

先日の礼。梔子を届けたいこと。もし迷惑でなければ、少しだけ顔を見せてほしいこと。

余計な踏み込みもなく、馴れ馴れしさもない。

愛護なりによく考えた文だった。


「問題ございません」


そう告げると、愛護はほっと息をついた。


「よかったぁ」


それから、ふと思い出したように言う。


「朝凪」


「はい」


「美菊、よろこんでくれるかな」


朝凪は一瞬だけ、美菊が花を受け取る様子を思い浮かべた。

おそらく大きくは変わらない。

ただ、白い花を見て、香を確かめるようにほんの少し目を細めるだろう。

その静かな変化は、たぶん愛護が想像しているものからそう遠くない。


「……そういう顔は、するかもしれません」


愛護の目が輝いた。


「どういう顔?」


「少しだけ、目がやわらぎます」


それは朝凪にしか分からないほどの変化だ。

けれど愛護は、ひとつ秘密を教わったみたいに嬉しそうに頷いた。


「見たい」


その一言に、朝凪は胸の内でひそかに息を吐く。


だからこそ、整えねばならない。


ひとつ綻べば、面倒は大きくなる。

愛護の好意を妙なこじれへ変えるのも面倒だったし、美菊の穏やかさも、そういう粗い手つきで乱したくはなかった。


愛護はもう侍女に封を用意させている。

文を丁寧に畳み、小さな手で何度も位置を直し、やがて満足した顔でそれを包ませた。

紐の色を白にするか薄黄にするかで迷うあたりが、いかにも姫らしい。


朝凪はその様子を見ながら、明日以降の動きを組み立てる。


まずは文を届けること。届けるのは自分しかいない。

そこで美菊に話をし、日取りを決める。

屋敷では外出理由を穏当に整える。

侍女の選別、山道の確認、防ぎの綾の手入れ。

考えることは多い。

だが、その煩雑さ自体は苦ではなかった。


先回りして、不都合の芽を潰すこと。

万事が問題なく進むよう、順を決めておくこと。

それは朝凪の得意とするところでもある。


「朝凪」


また愛護が呼ぶ。


「はい」


「ありがとう」


唐突な言葉だった。


朝凪は少しだけ視線を上げる。


愛護は封を両手で抱えるように持ったまま、こちらを見ていた。

幼いのに、時々こうして妙にまっすぐな目をする。


「愛護、だめって言われると思ってた」


「……そうですか」


「でも、ちゃんと考えてくれたでしょう」


朝凪はすぐには答えなかった。

褒められたような気もするし、見透かされたような気もする。

結局、口にしたのはいつも通り、無難で固い言葉だった。


「姫様のお気持ちに、筋が通っておりましたので」


愛護はにこっと笑う。


「うん」


それで十分だというふうに。


その笑みを見て、朝凪は改めて思う。

やはりこの子は、ただ守られているだけではない。

幼くとも、自分の中で道理を立てようとする。

だからこちらも、ただ拒むだけでは済まないのだろう。


障子の外で、風がまたひとつ梔子の枝を揺らす。

白い花弁はまだ厚く、香は雨の名残を含んで甘い。

この時季は長くない。

届けるなら、早い方がいい。


朝凪は静かに立ち上がった。


「では、こちらは私がお預かりいたします」


愛護は大事そうに封を差し出す。


「うん。よろしくね」


「は」


受け取った封は軽い。

けれど、その軽さのわりに、中に収まったものは小さくない。


愛護はもう次のことを考えているらしかった。


「花は、いちばん匂いのいいのがいいな」

「蕾もついてるほうがきれいかな」

「花瓶、あのおうちにもあるかな」


ぽろぽろ零れる言葉を聞き流しながら、朝凪は一つずつ段取りを組み上げていく。

表に見せる顔はいつも通りで、心の内だけが静かに忙しい。


まずは今日のうちに必ず山へ戻ること。

美菊に話し、防ぎの綾を見直すこと。

屋敷で不自然のない口実を整えること。

愛護が余計な目にとまらぬよう、動線をつくること。


すべてが万事問題なく進むように、先に先に手を打つこと。


それは骨の折れる仕事だ。

だが同時に、どこか腑に落ちる仕事でもあった。


避けようとして避けきれないなら、整えて迎えるしかない。

その方が、美菊にとって安全だ。

そして、愛護の好意も、角の立たぬ形で収められる。


愛護は文机の前で、まだ何か考えている。

たぶん花に結ぶ短い詞でも添えたいのだろう。

嬉しさが全身から滲んでいて、見ているだけで分かる。


朝凪はその様子をしばらく眺め、それから静かに踵を返した。


雨を越えたばかりの初夏の光は明るい。

けれど、その明るさの下で動かすべきことは存外多い。

朝凪の頭の中では、すでにいくつもの手順が過不足なく組み上がり始めていた。




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