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ほくそ笑む大悪党 アルバロ・デ・モリーナ  作者: ひまえび
第七章――「黄金海岸の砦、奪われるポルトガルの旗」

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第18話(前編)――「乾いた朝の港、オスマンの名」

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

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挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


――――――――――――――――――

登場人物

ディエゴ〈30〉(新大陸皇帝アルバロ・デ・モリーナ〈29〉の仮名)

――――――――――――――――――

ディエゴの側室(そくしつ)

クダクワシェ・ムリロ〈36〉。トルワ国王の元正妻。

 王妃らしい誇りと礼節を持ち、へつらわずに筋を通す。根は明るく、冗談と皮肉で場を軽くできる。暮らしの段取りを整えるのが好きで、侍女を褒めて菓子を分けるような面倒見もある。


ディエゴの側女(そばめ)。参謀兼公爵

ニャシャ〈24〉

 肌は深く黒く、瞳の黒が濃い。姿勢と歩みが崩れず、言葉が速く正確だ。状況を読むのが早く、地形と人の心を同時に扱う。腕力も俊敏さも備えている。


ディエゴの側女(そばめ)

ルテンデ〈35〉。マンウェ川方面の金の谷の首長の元妻。

 ムタパ国本拠の縁戚から嫁いだ政治の婚姻で、婚礼の贈り物に牛と鉄器を受け取っている。元夫の代わりに人質や贈答の段取りを決めることが多く、周辺の首長たちとも顔が利いた。抵抗の連携が始まったときも、矢を集める村と食糧を隠す村の名を知っていたため、捕縛後は黙り込み、唇を噛んだ。


 〔侍女1〕タリロ〈28〉。ルヤ川沿いの金の谷を束ねる首長の妻だ。陶器を焼く一族の出で、採り分けと勘定を任されていた。襲撃の日、倉の裏で子を抱えたまま捕えられ、喉に土埃の渇きが残った。

 〔侍女2〕ルド〈19〉。サビ川支流の小さな金の谷の首長の妻だ。飾りのように扱われた反面、帳の内側で聞く話が多く、補給や見張り交代の数を指で覚える癖がついた。捕えられた直後、泣き声が途切れた静けさが怖く、声が出ず震えた。

 〔侍女3〕チポ〈30〉。北の峠を押さえる首長の妻だ。蜂蜜と薬草に通じ、屋敷では見張りの食と水を回していた。襲撃の瞬間、戸口で子を押し戻し、土間に爪を立てて踏ん張ったが、縄がかかった。

 〔侍女4〕ファライ〈41〉。南の峠を押さえる首長の妻だ。成人した息子が2人いる。布と塩の出入りを管理し、家を回してきた。夫が倒れた後、声が枯れるまで泣いた。

 〔侍女5〕ニャメンダ〈27〉。上流の渡し場を押さえる首長の妻だ。漁と舟の一族の出で、舟の順番と渡しの間合いを作る実務を担っていた。襲撃の日、泥に足を取られて転ぶ女たちを見て叫び、捕縛後は子の名を呼び続けた。

 〔侍女6〕マサシ〈22〉。下流の渡し場を押さえる首長の妻だ。商人の言葉に囲まれて育ち、スワヒリ語の挨拶とポルトガル語の数詞を少し知る。矢筒の受け渡しを一度だけ手伝ったことが弱みになり、砲声の後は唇を結んで目を伏せた。

 〔侍女7〕ムニャンガ〈34〉。金の量と相場を決める仲介の家の妻だ。秤と目方が身に染みつき、取引では相手の手元を黙って見てきた。結託を止めたが聞かれず、捕縛の瞬間は夫の袖を握ったまま指が白くなるまで震えていた。

――――――――――――――――――


 (1523年11月下旬。モンパサ)


 モンパサの朝は、海からの湿り気が薄く、空気が少し乾いていた。北東から風が入ると、港の水面には細いさざ波が立ち、焼けた木材の匂いが漂った。城壁の外では、落ちた家の梁がまだ黒く、灰の粉が足の甲にまとわりついた。


 ディエゴは港の高い場所に立ち、船の数と帆の形を確かめた。昨夜の見張り交代は落ち着き、矢の音も聞こえない。だが、静かに見える時間ほど、逃げた者や隠れた者が別の場所で動くことがある。


 クダクワシェ・ムリロが肩に薄布を掛け、ディエゴの横に来た。彼女は港の石段を見下ろし、口元を少し上げた。


「この町の男たちは、よく歯を食いしばる。昨日、こちらが水を配ったときも、礼を言うより先に、何杯あるのかを目で数えていた。家が焼けたなら、次は水だと思っているのだろう」


「よく見ている。お前は、言葉より先に目で状況をつかむ」


「女は家の中でも数を数える。食い扶持が増えると、鍋の底が先に見えるからね。だから私は、港の目の動きで腹の事情が分かる」


 ムリロはそこで一度言葉を切り、わざと大げさに肩をすくめた。


「それで、あなたは次にどこへ行く。ここまで西から回って北へ上がり、港を押さえてきた。海の端まで集めるつもりか。それとも、ここで腰を据えるのか」


「腰は据えない。ここは押さえた。だが、押さえただけでは終わらない。ポルトガルの根を抜くつもりだ」


 ムリロは笑い、声を低くして言った。


「根を抜くなら、土の持ち主とも話をしなさい。港は海だけでは守れない。背後の村と市場が、誰に物を回すかを決める。そこが揺れると、港も揺れる」


◇ ◇ ◇


 昼前、会議の場所に選んだのは、港に近い石造りの屋敷だった。元は豪商の家で、床には椰子の敷物が残り、香料の壺が割れたまま置かれていた。甘い匂いと、割れた陶片の粉が混ざり、鼻の奥が少し痺れた。


 ディエゴの前には、ニャシャとルテンデが座り、端にムリロが腰を下ろした。侍女たちは戸口の外で控え、必要な時だけ入ることになっていた。


 ニャシャが地図を広げた。紙ではなく、布に炭で線を引いたもので、港と岬の名が並び、風の向きが矢で描かれている。


「今の季節は北東の風が強い。沿岸を北へ上がる船は、進む日もあれば、港で待つ日もある。だが、ダウ船の船頭はこの風を知っている。彼らは潮の向きと港の浅瀬を頭に入れている。こちらが頼めば、道案内だけでなく、噂の流れも教える」


 ディエゴは頷き、指でモンパサの位置を押さえた。


「この先で、ポルトガルの拠点はどこに残っている。ここで敵を追い払っても、別の港から戻ってくるなら意味が薄い」


 ニャシャは迷わず答えた。


「残りは海の向こうにある。アラビアの海峡の口、そしてインドの大きい港だ。こちらの沿岸は、あなたが西から回って北へ上がる間に、次々に折れていった。キルワも済んでいる。だから、沿岸だけを見て終わるのではなく、海の中央を押さえる必要がある」


 ルテンデが口を開いた。声は落ち着いているが、言葉の端が鋭い。


「この町の人間は、商いで生きている。港が落ちても、商いの道が生きていれば、また別の旗に寄る。ポルトガルの船が来れば、そちらに寄る者も出る。だから、恐れだけで縛るのは危うい。次に来る旗がどれなのかを、はっきり見せてやる必要がある」


「次に来る旗か」


 ディエゴが言うと、ムリロが口元を押さえて笑った。


「あなたの旗は派手すぎる。港の者は、派手な旗を見ると税を思い出す。まず懐が痛くなるから、顔がこわばる」


「税の話はやめてくれ。聞くだけで頭が痛くなる」


 ディエゴが言うと、ムリロはさらに笑い、今度はわざと真面目な顔をした。


「では、頭が痛くならない話をする。オスマン帝国だ。あの国はエジプトを取っている。紅海の入口に関心がある。ポルトガルの船が海を荒らすのは、あちらも嫌がる。こちらが話を持ち込めば、利害が合う」


 ニャシャが続けた。


「同盟は現実的だ。ただし、言葉だけでは動かない。相手が欲しいものを並べ、こちらが守れる約束を出す。それから、使者が安全に往復できることも示す。書状の文面と、持参する品がそろって初めて、相手は動く」


 ディエゴは侍女の方へ視線を向け、戸口の外に声を掛けた。


「タリロ。中へ来い」


 タリロが入ってきた。目はまだ警戒しているが、背筋は伸ばしている。手には板と炭がある。


「ここに来るまで、お前は勘定を任されていたと聞いた。もし違うなら今言え。今は見栄の話をしている時ではない」


 タリロは唾を飲み、声を絞るように出した。


「違いません。倉の品と、支払いの記録をつけていました。数が合わないと責められるので、毎日確認していました」


「よし。怖かっただろうが、よくやった。今度は、使者に持たせる品を数で落とせ。布、塩、胡椒、鉄、そして礼としての金銀だ。相手が何を重く見るかは国で違うが、数が曖昧だと交渉が崩れる。お前の仕事は、交渉を支える土台だ」


 タリロは一度だけ頷き、炭を動かし始めた。


 ディエゴはルドの名も呼んだ。


「ルド。お前は数詞を少し知っていると聞いた。ポルトガル語が混じっても構わない。使者が港で値を聞かれた時、混乱しない程度に教えてやれ。相手の言葉を少しでも聞き取れれば、余計な争いを減らせる」


 ルドは目を上げた。恐れは残っているが、役目が与えられると肩が少し落ち着いた。


「やります。ただ、私は間違えるかもしれません。もし分からなくなったら、もう一度言わせてください」


「何度でも聞け。命に関わる場面では、聞き返す方が正しい。分かったふりをして失う方が、よほど高くつく」


 ルテンデが小さく息を吐いた。


「この男は、女に仕事を投げるのがうまい」


 ディエゴは苦笑し、言い返した。


「投げているつもりはない。頼んでいる。頼む以上は、できたら必ず礼を言う」


 ムリロが指を立てた。


「頼むなら言い方がある。今のは悪くない。もう少し柔らかくできるが、戦の最中にそこまで求めるのは酷だ。ただ、あなたは女に優しくすると決めたのだろう。なら、せめて声は乱暴にしない」


 ディエゴは肩をすくめ、わざと明るく言った。


「俺も練習する。今夜、ムリロが採点しろ。点が低かったら罰にしてくれ。俺は罰を受ける時だけ、きちんと覚える」


「罰の内容は私が決める」


 ムリロは即答し、ニャシャが鼻で笑った。場の空気が少し緩んだ。

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