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ほくそ笑む大悪党 アルバロ・デ・モリーナ  作者: ひまえび
第七章――「黄金海岸の砦、奪われるポルトガルの旗」

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第15話――「側女の誓い、ゾンゴンベの反乱」

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


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登場人物

ディエゴ〈30〉(新大陸皇帝アルバロ・デ・モリーナ〈29〉の仮名)

――――――――――――――――――

 ディエゴの参謀兼公爵

 ニャシャ〈24〉

 肌は深く黒く、瞳の黒が濃い。姿勢と歩みが崩れず、言葉が速く正確だ。状況を読むのが早く、地形と人の心を同時に扱う。腕力も俊敏さも備えている。

――――――――――――――――――

 〔侍女1〕タリロ〈28〉。ルヤ川沿いの金の谷を束ねる首長の妻だ。陶器を焼く一族の出で、幼いころから川砂の重さと流れを体で覚えてきた。夫の屋敷では女たちの採り分けを仕切り、砂金の袋を数える役も担っていた。襲撃の日は倉の裏で子を抱え、砲声で耳が塞がり、土埃で喉が焼けたまま縄を掛けられた。


 〔侍女2〕ルテンデ〈35〉。マンウェ川方面の金の谷の首長の妻だ。ムタパ国本拠の縁戚から嫁いだ政治の婚姻で、婚礼の贈り物に牛と鉄器を受け取っている。夫の代わりに人質や贈答の段取りを決めることが多く、道の首長たちとも顔が利いた。抵抗の連携が始まったときも、矢を集める村と食糧を隠す村の名を知っていたため、捕縛後は黙り込んで唇を噛んだ。


 〔侍女3〕ルド〈19〉。サビ川支流の小さな金の谷の首長の妻だ。隣村の首長家から差し出された娘で、嫁入りの時点で「戻れない」立場に置かれていた。夫の屋敷では若さを飾りに使われる一方、帳の中で耳に入る話だけは多かった。弓矢の補給や見張りの交代を夫が口にするたび、数を指で覚えてしまう癖がある。捕えられた直後、泣き声が止まると逆に周囲が不気味に感じられ、声を出せず震えた。


 〔侍女4〕チポ〈30〉。北の峠を押さえる首長の妻だ。森の縁の村で育ち、蜂蜜と薬草の扱いに長けている。夫の屋敷では見張りの食と水を回し、夜番の交代に合わせて火を消す役も担った。矢の毒に使う草の名も知っているが、使い方を口にしたのは一度だけだ。襲撃の瞬間は戸口で子を押し戻し、縄を掛けられるまで土間に爪を立てて踏ん張った。


 〔侍女5〕ファライ〈41〉。南の峠を押さえる首長の妻だ。歳の離れた夫に嫁ぎ、すでに成人した息子が2人いる。峠の通行から得る布と塩を管理し、夫が酒に溺れても家が回るように支えてきた。抵抗が始まると、若者たちの虚勢を煽る言葉を口にしたのは彼女だと噂されている。夫が倒れた後、顔を両手で覆い、土に額を打ちつけて泣いたが、途中から声が枯れて息だけが漏れた。


 〔侍女6〕ニャメンダ〈27〉。上流の渡し場を押さえる首長の妻だ。漁と舟の一族の出で、縄の結びと流れの癖に詳しい。夫の仕事は通行人から小さな税を取ることだが、実際には彼女が舟の順番を決め、渡しの間合いを作っていた。襲撃の日、川の泥が足に吸い付き、逃げようとした女たちが転ぶのを見て叫んだ。捕縛されると、泥にまみれたまま子の名を繰り返し呼んだ。


 〔侍女7〕マサシ〈22〉。下流の渡し場を押さえる首長の妻だ。ソファラへ下る荷を見送りに来た商人たちの言葉を聞いて育ち、スワヒリ語の挨拶とポルトガル語の数詞を少しだけ知っている。夫はそれを誇りにして客の前へ出したが、彼女は値切りの匂いを嫌っていた。抵抗の連絡役として矢筒の受け渡しを一度だけ手伝い、それが後で足枷になった。砲声の後、彼女は泣きながらも口を真一文字に結び、誰にも目を合わせなかった。


 〔侍女8〕ムニャンガ〈34〉。金の量と相場を決める仲介の家の妻だ。父も母も商いの家の出で、布の目方と砂金の量を量る癖が体に染みついている。夫の横で袋の口を縛り、秤皿を磨き、取引の場では黙って相手の手元を見ていた。首長たちが結託すると、彼女は「道が荒れれば商いが死ぬ」と止めたが聞かれなかった。捕縛されたときは、夫の袖を握ったまま離さず、指が白くなるまで震えていた。

――――――――――――――――――


 (1523年8月上旬。マニカ国)


 会議の場は、獣脂の灯りと乾いた木の匂いが混じり、暑さで空気が重かった。外では荷車の軋みと、牛の鳴き声が途切れずに聞こえていた。


 侍女のルテンデ〈35〉は、座を乱さないように膝をそろえたまま、静かに口を開いた。

 ルテンデはこう言った。「私の実家はムタパ国本拠の縁戚であり、チクヨ・チサマレング〈50〉の叔父筋に当たります。もし私の父、タテンダ・ムクワナジ〈58〉をムタパ国王〈ムウェネ・ムタパ〉として立ててくださるなら、私はその縁を使って人と道を動かし、ディエゴ様のお役に立てます」


 ディエゴは指先で机の木目をなぞり、しばらく黙っていた。汗が背に張りつき、革の鎧の内側が熱を持っている。

 ディエゴは心の中で考えた。いずれ、ムタパの玉座にはこちらの言うことを聞く者を座らせねばならない。だが、約束だけでは足りない。裏切りの芽は、最初の夜に摘み取っておく必要がある。


 ディエゴは顔を上げ、声の調子を変えずに言った。

 「ルテンデ〈35〉。お前が俺の側女となり、俺の指示を受けたら迷わず動き、その指示を父にもそのまま伝えて父を動かせるなら、その話に乗る。今ここで、俺に逆らわないと約束しろ」


 ルテンデ〈35〉は迷いを見せなかった。目だけが鋭く、声は落ち着いていた。

 ルテンデはこう答えた。「勿論でございます。私は今日からディエゴ様の側におります。そして父にも、ディエゴ様の意志をそのまま伝えます。私の口から伝えるからこそ、父も決断できます」


 話がひとまず決まったところで、参謀のニャシャ〈24〉の表情が硬くなった。これまで戦の段取りも、諸部族の扱いも、自分が先に握ってきたという自負があった。だが、ルテンデが側女となり、さらに王を立てる縁まで持ち込めば、ディエゴの耳に届く声の順番が変わる。


 ニャシャ〈24〉は席を立ち、焦りを隠さずに言った。

 ニャシャはこう言った。「ディエゴ様。私も、あなたのお側で仕えたいのです。戦場の情報も、地形も、人の心も、私はあなたの手足として使えます。どうか私にも、その役目をお許しください」


 ディエゴはニャシャを見て、短い呼吸のあとにうなずいた。

 ディエゴはこう言った。「分かった。お前も側女として認める。ただし、戦の仕事は今まで通りだ。感情で陣を乱すなら、容赦はしない」


 ニャシャは胸の奥で息をつめ、すぐに頭を下げた。

 ニャシャはこう言った。「はい。私は、あなたの勝利のために働きます」


 ◇ ◇ ◇


 その日のうちに、ディエゴは護衛をつけてルテンデ〈35〉をゾンゴンベへ向かわせた。道は赤土が乾き、歩くたびに粉が立った。草むらには焼けた匂いが残り、遠くで雷鳴のような太鼓が鳴っていた。村々は様子をうかがうように門を閉め、子どもは物陰から目だけを出した。


 ゾンゴンベに着くころには、夕方の風が川の湿り気を運び、汗の塩気が少し引いた。石を積んだ囲いの内では、牛の体温と糞の匂いが濃い。火にかけた粥の湯気が上がり、女たちが小声で祈りの歌を口ずさんでいた。


 ルテンデは父の前に出た。タテンダ・ムクワナジ〈58〉は年齢の割に背が高く、首飾りの鉄が鈍く光っていた。目つきは鋭いが、声は低く、慎重だった。

 タテンダはこう言った。「娘よ。お前がここへ戻るのは、ただ事ではないな。何が起きた」


 ルテンデは息を整え、言葉を選びながら答えた。

 ルテンデはこう言った。「父上。ディエゴという男が来ました。大砲と小砲を持ち、火縄銃で人を止めます。外から攻められれば、ゾンゴンベの石の囲いも安心ではありません。しかし、父上が王になる道が開きました。私がその保証になります」


 タテンダは黙って火を見つめた。薪が爆ぜ、煙が目にしみた。周囲の男たちも息をひそめている。

 やがてタテンダは、ゆっくりと言った。

 タテンダはこう言った。「王座は甘い。だが、甘い話には必ず刃がある。ディエゴは何を求めている」


 ルテンデは視線を逸らさずに答えた。

 ルテンデはこう言った。「父上が王になれば、金と牛と道の守りを差し出すことになります。そして父上は、ディエゴに逆らわないと誓う必要があります。私は側女としてディエゴの側におります。私が人質であり、連絡役でもあります」


 タテンダは、囲いの外の暗がりを一度見た。そこには、今の王に不満を持つ者が集まり始めていた。年寄りの首長たち、道の税で苦しんできた者、若者を戦に取られて憎しみを抱えた者が、火のそばに寄っている。

 タテンダは決めた。

 タテンダはこう言った。「分かった。チクヨを倒す。外からの砲声と、内側の反乱を同じ日に重ねる。そうすれば、王は逃げ場を失う」


 ◇ ◇ ◇


 決行の日、朝の空は白く曇り、草の上に冷たい露が残っていた。ディエゴ軍の砲列が整うと、火薬の匂いが先に広がった。鼻の奥がつんと痛み、喉が乾く。砲手が合図を叫び、火が落ちる。


 最初の一発が鳴った。音は腹の底に響き、谷にぶつかって跳ね返り、遅れてもう一度耳を叩いた。石壁の上から土埃が舞い、見張りの男が思わず身をすくめた。次に小砲が続き、火縄銃の乾いた破裂音が細かく重なる。硝煙が風に乗り、湿った草の匂いに混じって鼻を刺した。


 そのころ、ゾンゴンベの内側では、タテンダ・ムクワナジ〈58〉が動いていた。朝の粥を配る女たちの列に紛れ、門の横にいる警固へ酒袋を回し、合図の言葉を耳元でささやいた。武器は槍ではない。今日は人数と順番が武器だった。

 王の側近の一部が、いつもの交代の時間に持ち場を離れた。替わりに立ったのは、タテンダの縁者の若者だった。顔は平静だが、手のひらは汗で濡れている。


 王の館では、チクヨ・チサマレング〈50〉が外の音を聞いていた。遠い雷のような響きが続き、床の器がかすかに震えた。

 若い妻のチエザ・マコニ〈28〉は、幼い子を抱いたまま、布の影から外を見た。空気が乾き、焦げた匂いが薄く入ってくる。女の喉は勝手に鳴り、唾が苦かった。


 チエザは夫に近づき、声を震わせながら言った。

 チエザはこう言った。「外の音は、いつもの弓ではありません。壁が崩れれば、子どもたちが逃げる道も消えます。どうか、今は人を生かす選び方をなさってください」


 チクヨは苛立ちを隠せず、怒鳴りたいのを堪えた。権威を失う恐れが、喉に石のように詰まっていた。

 そのとき、館の外で叫び声が上がった。警固の男が倒れ、別の男が門の鍵を奪われている。内側の反乱が始まったのだと、誰の目にも分かった。


 さらに外では、砲撃が門前の集落を叩き、火の粉が乾いた屋根に飛び移った。煙が立ち、家畜が暴れ、子どもが泣く声が重なった。足元の土は踏まれて粉になり、口の中がざらつく。兵の叫びと、槍の柄がぶつかる鈍い音が、石の囲いの中で反響した。


 チクヨは打てる手を探した。だが、外の砲列を押し返す火力がない。内側の門番もすでに割れている。道を押さえる首長たちが一斉に離反すれば、牛も金も運べない。王であり続けても、王として命令が届かない。


 タテンダは館の前へ出た。土埃に喉を焼かれながらも、声だけは通した。

 タテンダはこう言った。「チクヨ。これ以上、民を死なせるな。今ここで降伏すれば、お前の命は取らない。だが、王座は明け渡せ。外にはディエゴがいる。内には俺たちがいる。どちらへ刃を向けても、お前の負けは変わらない」


 チクヨは唇を噛み、拳を握った。視線の先では、妻のチエザが子を抱き、逃げ場のない顔でこちらを見ていた。

 砲声がまた鳴った。今度は近く、館の屋根の藁が震えた。

 チクヨは膝を折り、土に手をついた。土は乾いていて、掌に粉がついた。

 チクヨはこう言った。「分かった。降伏する。これ以上は、守るべきものが燃える」


 こうして、外からは大砲と小砲と火縄銃で押しつぶされ、内からは叔父筋の反乱で足元を崩され、チクヨ・チサマレング〈50〉は王としての手を失った。ゾンゴンベの夕方、硝煙の匂いの中で、タテンダ・ムクワナジ〈58〉が新しい王として立つ段取りが固まっていった。

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