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ほくそ笑む大悪党 アルバロ・デ・モリーナ  作者: ひまえび
第七章――「黄金海岸の砦、奪われるポルトガルの旗」

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第14話(後編)――「参謀の公爵ニャシャ、ゾンゴンベ攻め」

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

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登場人物

ディエゴ〈30〉(新大陸皇帝アルバロ・デ・モリーナ〈29〉の仮名)

――――――――――――――――――

 ディエゴの参謀兼公爵

 ニャシャ〈24〉

 肌は深く黒く、瞳の黒が濃い。姿勢と歩みが崩れず、言葉が速く正確だ。状況を読むのが早く、地形と人の心を同時に扱う。腕力も俊敏さも備えている。

――――――――――――――――――

 〔侍女1〕タリロ〈28〉。ルヤ川沿いの金の谷を束ねる首長の妻だ。陶器を焼く一族の出で、幼いころから川砂の重さと流れを体で覚えてきた。夫の屋敷では女たちの採り分けを仕切り、砂金の袋を数える役も担っていた。襲撃の日は倉の裏で子を抱え、砲声で耳が塞がり、土埃で喉が焼けたまま縄を掛けられた。


 〔侍女2〕ルテンデ〈35〉。マンウェ川方面の金の谷の首長の妻だ。ムタパ国本拠の縁戚から嫁いだ政治の婚姻で、婚礼の贈り物に牛と鉄器を受け取っている。夫の代わりに人質や贈答の段取りを決めることが多く、道の首長たちとも顔が利いた。抵抗の連携が始まったときも、矢を集める村と食糧を隠す村の名を知っていたため、捕縛後は黙り込んで唇を噛んだ。


 〔侍女3〕ルド〈19〉。サビ川支流の小さな金の谷の首長の妻だ。隣村の首長家から差し出された娘で、嫁入りの時点で「戻れない」立場に置かれていた。夫の屋敷では若さを飾りに使われる一方、帳の中で耳に入る話だけは多かった。弓矢の補給や見張りの交代を夫が口にするたび、数を指で覚えてしまう癖がある。捕えられた直後、泣き声が止まると逆に周囲が不気味に感じられ、声を出せず震えた。


 〔侍女4〕チポ〈30〉。北の峠を押さえる首長の妻だ。森の縁の村で育ち、蜂蜜と薬草の扱いに長けている。夫の屋敷では見張りの食と水を回し、夜番の交代に合わせて火を消す役も担った。矢の毒に使う草の名も知っているが、使い方を口にしたのは一度だけだ。襲撃の瞬間は戸口で子を押し戻し、縄を掛けられるまで土間に爪を立てて踏ん張った。


 〔侍女5〕ファライ〈41〉。南の峠を押さえる首長の妻だ。歳の離れた夫に嫁ぎ、すでに成人した息子が2人いる。峠の通行から得る布と塩を管理し、夫が酒に溺れても家が回るように支えてきた。抵抗が始まると、若者たちの虚勢を煽る言葉を口にしたのは彼女だと噂されている。夫が倒れた後、顔を両手で覆い、土に額を打ちつけて泣いたが、途中から声が枯れて息だけが漏れた。


 〔侍女6〕ニャメンダ〈27〉。上流の渡し場を押さえる首長の妻だ。漁と舟の一族の出で、縄の結びと流れの癖に詳しい。夫の仕事は通行人から小さな税を取ることだが、実際には彼女が舟の順番を決め、渡しの間合いを作っていた。襲撃の日、川の泥が足に吸い付き、逃げようとした女たちが転ぶのを見て叫んだ。捕縛されると、泥にまみれたまま子の名を繰り返し呼んだ。


 〔侍女7〕マサシ〈22〉。下流の渡し場を押さえる首長の妻だ。ソファラへ下る荷を見送りに来た商人たちの言葉を聞いて育ち、スワヒリ語の挨拶とポルトガル語の数詞を少しだけ知っている。夫はそれを誇りにして客の前へ出したが、彼女は値切りの匂いを嫌っていた。抵抗の連絡役として矢筒の受け渡しを一度だけ手伝い、それが後で足枷になった。砲声の後、彼女は泣きながらも口を真一文字に結び、誰にも目を合わせなかった。


 〔侍女8〕ムニャンガ〈34〉。金の量と相場を決める仲介の家の妻だ。父も母も商いの家の出で、布の目方と砂金の量を量る癖が体に染みついている。夫の横で袋の口を縛り、秤皿を磨き、取引の場では黙って相手の手元を見ていた。首長たちが結託すると、彼女は「道が荒れれば商いが死ぬ」と止めたが聞かれなかった。捕縛されたときは、夫の袖を握ったまま離さず、指が白くなるまで震えていた。

――――――――――――――――――


 (1523年7月下旬。マニカ国)


 日が傾き始めると、会議小屋の外の湿った空気が少し冷えた。焚き火の煙は低く流れ、焦げた火薬の匂いに、煮込みの脂の匂いが混じった。粗い板の机は片づけられ、代わりに布が敷かれた。杯と皿が並び、赤いワインの壺が置かれると、酸味のある甘い香りが小屋の中を満たした。


 ディエゴは見張りに命じて、奥に背の高い椅子を置かせた。正面にもう1つ、同じ高さの椅子を並べた。自分の席を整えたあと、ディエゴは入口の布を押さえ、声をかけた。ディエゴはこう言った。「ニャシャ、来い。今日は話がある。腹も空いているだろうから、一緒に食べながら決める」


 布が揺れ、ニャシャ〈24〉が入ってきた。姿勢が崩れず、足取りが速いのに音が少ない。焚き火の赤が頬に当たっても、目の動きは落ち着いていた。ニャシャは周囲を一度見てから、ディエゴの前で膝をつき、礼をした。


 その後ろから、捕虜にしたマニカ国の首長の妻たち8人が入ってきた。縄は外されていたが、動きは揃って慎重だった。彼女たちは侍女として使われ、皿と水、布巾を手にしていた。タリロ〈28〉は焼き物の皿を胸に抱え、ルテンデ〈35〉は目を伏せたまま杯の数を数えた。ルド〈19〉は口を結び、足元の泥を避けるように歩いた。チポ〈30〉は火の強さを見て、皿を置く位置を迷わず決めた。ファライ〈41〉は年長らしく、ほかの女の手が止まると小さく合図を出した。ニャメンダ〈27〉とマサシ〈22〉は水と布を分け、ムニャンガ〈34〉は秤皿を磨く癖が抜けないのか、杯の縁を指で確かめるように拭いた。


 ディエゴはニャシャに椅子を示し、はっきり言った。「そこに座れ。今日はお前を客として扱う。俺は、お前の働きに礼を言いたい」

 ニャシャは一瞬だけ目を見開き、それから唇の端を上げた。「私は捕虜の身だと思っていました。けれど、こうして座らせてもらえるなら、話もきちんと聞けます。ありがとうございます」


 侍女たちは黙って皿を並べた。湯気が上がり、肉の香りが強くなる。脂の弾ける音が混じり、腹の奥が勝手に動く匂いだった。赤いワインが注がれると、暗い液が杯の中で小さく揺れた。


 ディエゴは杯を軽く持ち上げ、ニャシャの目を見た。「まず飲め。喉を湿らせろ。今日の話は重いが、祝いでもある」

 ニャシャは杯を受け取り、香りを確かめてから一口だけ飲んだ。酸味のあとに甘さが残り、目が少し細くなった。「これはいい酒ですね。あなたの船の蔵にあったものですか」

 ディエゴは笑みを漏らした。「そうだ。だが、今日は俺の酒ではない。お前の酒だ」


 侍女たちは、その言葉に反応した。皿を置く手が一瞬止まり、視線だけが動いた。ニャシャが椅子に座り、しかもディエゴと同じ高さで杯を持っている。それが、彼女たちの胸に刺さっているのが分かった。


 ディエゴは布の上に羊皮紙を置き、印章を机に置いた。蝋が火に近づけられ、甘い匂いが立った。ディエゴは静かに、しかし言葉を丁寧に並べた。

 ディエゴはこう言った。「ニャシャ。俺はお前を参謀にする。俺の横で、軍の考えをまとめ、道と人を見て、次の手を決めろ。簡単な役ではないが、お前ならできる。だから、役職だけでは足りない。権限も名も、最初から渡す」


 ニャシャは息を呑み、すぐに言葉が出なかった。胸が上下し、杯を持つ指が少し震えた。

 ニャシャはゆっくり言った。「参謀とは、あなたの目の代わりになるということですね。私は間違えれば、多くの人が死ぬと分かっています。それでも、私をそこに置くのですか」

 ディエゴは頷いた。「俺は軽い気持ちで言っていない。お前は地形を読むのが早い。相手の心の動きも読む。俺の側女たちが束になっても、お前には届かないところがある。だから任せる」


 ディエゴはそこで言い切り、爵位を告げた。

 ディエゴはこう言った。「爵位は公爵だ。お前の領地は、さっき3人に渡した3つの谷の鉱山を除いた、残りの5つの金鉱山すべてにする。採掘の量、運びの道、見張りの置き方、そして争いの止め方まで、お前の命令が通るようにする」


 侍女たちの目が揃って動いた。ムニャンガが思わず唇を噛み、マサシが杯を持つ手をきつく握った。ルテンデは顔を伏せたままだったが、肩が少し固くなった。羨みが混じった沈黙が、小屋の隅に溜まった。


 ニャシャは立ち上がらず、椅子に座ったまま背筋を伸ばした。目が濡れて見えたが、泣き声にはしなかった。

 ニャシャは言葉を尽くして言った。「私は今日まで、あなたに使われるだけの女だと思っていました。けれど、あなたは私に名と責任をくれました。私は逃げません。私は参謀として働きます。そして、公爵として恥をかかないようにします。あなたの敵が何を企んでも、先に気づいて止めます」


 ディエゴは杯を机に置き、息をひとつ吐いた。「それが聞きたかった。俺も嬉しい。だから今日は食え。腹を満たしてから、次を決める」


 侍女たちは、二人の前に皿を運び続けた。肉の骨が皿に当たる乾いた音、汁が器の底で揺れる音、布巾が杯の縁を拭く音が重なった。火の熱で頬が熱くなり、汗の塩が唇に残った。


 ディエゴは食事の手を止め、羊皮紙の上に指を置いた。「次はムタパ国だ。俺は避けて通るつもりはない。お前はどう見る」

 ニャシャはすぐに答えず、ワインをもう一口飲んでから言った。「ムタパ国の国王はムウェネ・ムタパ、チクヨ・チサマレング〈50〉です。首都はゾンゴンベです。あの男は、威勢だけで支配しているわけではありません。贈り物と恐れを使い分けます。だから、こちらが迷っている時間を見せると、周りの首長が動きます」


 ディエゴは頷き、声を落とした。「つまり、半端に揺さぶると面倒が増える。だから最初から首を狙うべきだな」

 ニャシャははっきり言った。「はい。総力を集め、ゾンゴンベを正面から攻めて、国王を倒すべきです。途中の谷や渡し場は、潰しながら進むより、押さえる人間を置いて背中を守り、前へ進む方が早いです。あなたの火縄銃と砲があれば、城の門は割れます。ただし、道の水と食い物が切れたら、兵は強くても腹から崩れます」


 ディエゴはそこで侍女たちを見た。

 ディエゴはこう言った。「聞いたな。水と食い物が切れたら終わりだ。お前たちは、二人の皿と杯だけではない。道中の食と水の出し方も、この女の話を覚えておけ」


 侍女たちは返事を口にしなかったが、顔色が変わった。命令が、二人の話の延長で落ちてくる。それを見せつけられているのが分かった。羨みは消えず、しかし逆らえば自分の首が飛ぶことも分かっている。だから、皿を置く手は速くなり、杯の補充も途切れなくなった。


 ニャシャは侍女たちの視線を感じながら、落ち着いて続けた。「ゾンゴンベに向かう前に、道の首長を分けます。こちらにつく者には布と塩を渡し、逆らう者には通行を止めると告げます。あなたが公爵を3人立てたのは、現場を締めるためでした。ならば、ムタパへ行く道も同じです。道を押さえる役と、戦う役を最初から分けます」

 ディエゴは口元を上げた。「やはりお前は速い。話が早いのは助かる」


 ニャシャは笑いをこらえきれず、肩を少し揺らした。「私も、あなたが私を高く買っていると分かりました。だから、こちらも遠慮はしません。勝ちたいなら、迷いを捨ててください」

 ディエゴは杯を持ち上げ、はっきり言った。「捨てる。ゾンゴンベを攻め、チクヨ・チサマレングを倒す。総力を上げる。決めた」


 決まった瞬間、小屋の中の音が戻った。焚き火がぱちりと弾け、川の音が布の外で続いた。侍女たちは二人の前に新しい皿を置き、ワインを注ぎ直した。彼女たちの目は、ニャシャの爵位に吸い寄せられていたが、それでも手は止めなかった。羨みと恐れと、これから始まる戦いの匂いが、同じ空気の中に混じっていた。

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