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ほくそ笑む大悪党 アルバロ・デ・モリーナ  作者: ひまえび
第七章――「黄金海岸の砦、奪われるポルトガルの旗」

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第7話(後編)――「甲板の制圧、金粉の明細」

 船は拿捕された。砦へ引き寄せる間、潮が船腹を叩き、縄がきしむ。浜に近づくと、腐った水の匂いがますます濃くなった。樽の中が傷んでいる。だから岸に寄らざるを得なかった。迂回するつもりでも、身体が持たなかったのだ。


 荷室の扉を開けると、湿った木の匂いがむっと広がった。暗い中で、布の束が積まれているのが見えた。麻布、赤い布、白い布。鉄の輪と釘の箱。ガラス玉の小箱。さらに奥には、酒樽が並び、火薬樽の印があった。樽の蓋を叩くと、乾いた音が返る。まだ使える。砦の修理に要る釘と鉄がまとまって手に入る。火薬も補充できる。


 戦利金は荷室の別の箱にあった。箱を開けると、金貨と銀貨が布に包まれていた。硬貨が触れ合う音がする。小さく澄んだ音だ。さらに布袋が数個あり、開けると金粉が出た。粉は指のしわに入り込み、陽を受けると細かく光る。匂いは薄いのに、重さだけがはっきりある。ディエゴはそこで初めて、口元だけで笑った。


 人員も手に入った。甲板で武器を捨てた者たちは縛られ、数を改められた。負傷者は倒れ、呻き、汗が酸っぱく匂う。ディエゴは殺し過ぎないように命じた。働き手としてではない。情報としてだ。どこから来た船か、何を積み、誰の命令で動いていたか。それを聞けば、次の獲物の姿が見える。


 砦へ戻ると、空気が変わったのは今度ははっきり分かった。兵の目が光るだけではない。背筋が伸び、足取りが軽い。汗と血と火薬の匂いの中で、勝った実感が身体の奥に沈む。

 ルイーザはすぐに帳面を開き、荷の種類と数を記し始めた。彼女の手は速い。だが雑ではない。勝ちが続く隊は、勝ちのあとに崩れない。


 ディエゴは言った。「この船の荷は砦の道具になる。硬貨は次の船を動かす金になる。捕らえた者は口を割らせる。サントドミンゴ行きは予定どおりだ。砦の修理と警備の人数は減らさない。勝った日に浮かれて持ち場を崩すな」


 取引で得たのではない。敵を叩き、止め、奪って得た。だからこそ、敵はこの海を避ける。避ければ避けるほど、避けた航路に歪みが出る。歪みが出れば、次の獲物が読める。

 ディエゴの部隊が無敗である理由は、剣が強いからだけではない。勝てる場面を自分で作り、その場面で容赦なく勝つからだ。


 ◇ ◇ ◇


 ルイーザは拿捕した船が浜に引き寄せられ、縄がきしむ音が落ち着いたところで、倉の前に机を出させた。紙を押さえる石の下からは潮で湿った木の匂いが立ち、荷室から運び出された布は海水を含んで重く、床に置くたびに砂がこぼれた。硬貨の袋をほどくと、金属が触れ合う澄んだ音が連なり、火薬樽の口を確かめた兵の手からは硫黄の匂いが上がった。彼女はその場で、次の明細を帳面に写し取った。


 戦利金。金粉は布袋7つで、秤で合計3,460gだった。指のしわに入り込む細かな粉で、風に舞いやすいので、受け取りの場で濡れ布を敷いて計量した。金貨は袋4つで、枚数は820枚、重量は合計2,952gだった。貨幣の額面ではなく重量で扱う。小さな金塊は2本で、各500g、合計1,000gだった。ここまでの金の総量は7,412gとなる。ルイーザは円換算の欄も作り、金1gを28,367円として、金粉98,149,820円、金貨83,739,384円、金塊28,367,000円、合計210,256,204円と記した。銀貨は袋6つで、枚数9,600枚、重量28,800gだった。銀は小口の支払いに向くため、砦内の手当と買い足しの原資に回す、と注記した。


 戦利品。布類は麻布の梱包が12束、白布の梱包が6束、赤布の反物が9本だった。赤布は濡れると色移りが出るので、広場の火のそばに縄を張って干すよう命じた。ガラス玉は小箱24箱で、赤と青が中心だった。鉄材は釘の木箱が14箱、鉄輪の束が40束、蝶番と留め金の箱が6箱だった。砦の修理に直結するため、倉の入口の棚を空けて優先的に積み上げた。

 酒樽はワインが8樽、蒸留酒が3樽、酢が2樽だった。油はオリーブ油が4樽、灯油として使える獣脂の塊が木箱2つだった。塩は麻袋で18袋、乾燥豆は12袋、干し肉は木箱5つだった。医療用として、布で包んだ乾燥薬草が小包で11包、刃物の手入れ用の砥石が18個あった。

 火薬樽は刻印つきで3樽、鉛弾の樽が2樽、火縄の束が30束、予備の帆布が巻物で4本、ロープは太縄12巻、細縄28巻だった。武器は火縄銃14丁、短銃2丁、剣とサーベルが合計31振、槍が16本、盾が12枚だった。弾薬と火薬は湿りが混じると使い物にならないため、樽の口を開けて匂いと粉の手触りを確認し、湿りが強い樽は別置きにした、と記した。


 船。拿捕したのはポルトガルの小型帆船1隻で、帆は2枚、帆柱は2本だった。砲撃で前方の帆綱が裂け、前帆は大きく破れている。帆柱の根本に欠けがあり、補強が要る。船体そのものは沈まず、喫水も保たれている。舵は生きているが、舵柄の金具に緩みが出ている。甲板の板は血と海水で滑りやすく、砂を撒いてから洗わせた。船底の樽の区画は湿気が強いので、乾かしてから積み直す必要がある。ルイーザは「修理の手当が済めば、沿岸移動に使用可能。サントドミンゴ行きの本隊に合流させるか、砦の補給船として残すかはディエゴの判断」と書き添えた。


 人員。乗員は合計47名だった。戦闘で死亡6名、重傷2名はその夜に息が途切れた。生存して捕縛した者は39名、うち負傷9名、発熱と下痢で動けない者が3名いた。内訳は、船長1名、航海長1名、操舵手2名、甲板長1名、船大工1名、砲手2名、兵8名、水夫20名、雑役2名、通訳役1名だった。

 ルイーザは、船大工と操舵手は貴重だとして縄を二重にせず、逃走の余地がない場所に寝かせ、食事と水を先に与えて手を折らないよう命じた、と記した。兵と水夫は人数を2列に並べ、名前が分からない者は身体の特徴で符号を付けて呼び、取り調べの順番を決めた。捕縛者の扱いは荒れれば砦が荒れる。彼女の帳面には、その注意書きが太い字で残った。


 ◇ ◇ ◇


 夕方、エレナが戻ってきた。汗で髪が首に貼りつき、頬が熱で赤い。潮風に混じって、浜の藻の匂いが衣に残っていた。

 エレナは言った。「内陸の王の使いが来ています。港の近くで待たせています。ガラス玉と赤布を見せたら、話が早い。今夜は試しに、金粉を少し見せると言っています」

 ディエゴは頷いた。金を積んだ樽が勝手に転がり込むのを待つより、金の入口へ手を伸ばした方が速い。


 ディエゴはルイーザにも目を向けた。

 ディエゴは言った。「砦に残す労働力は減らさない。修理と警備が回る人数は固定だ。囲いの人数はサントドミンゴ行きで少しずつ落とす。ここは動かさない。その上で、金の取引を始める」

 ルイーザは言った。「なら、今夜のうちに倉の棚を空けます。金粉は湿気を嫌います。布袋と木箱を用意します。鍵の数も整理します。番は固定します」

 言葉が現実だった。こういう段取りがあると、金は噂にならずに形になる。


 夜、砦の広場では火が焚かれた。薪が爆ぜる音が乾いて響き、煙に肉の脂の匂いが混じった。香草を刻む音、鍋をかき回す音、木椀が並ぶ音が続く。兵たちは皿を抱え、笑いながら食べた。酒は薄めずに回した。喉を通る熱が腹に落ち、疲れがほどけていく。誰かが弦を鳴らし、誰かが足で拍を刻む。踊る者も出た。土の上で靴が擦れ、乾いた砂が舞った。


 ディエゴは火のそばで座り、兵の顔を順に見た。目が死んでいない。食事が足りている。眠れている。笑えている。だから、明日も同じ動きができる。

 ここでの「楽しみ」は、現実から逃げるためではない。現実を持ちこたえるためにある。腹が満ち、身体が温まり、夜に誰かの体温を知って眠れば、人は朝に立てる。


 宴がほどけ始めたころ、ルイーザがそっと近づいた。小さな布袋を差し出す。中身はさらさらした金粉だった。指先で摘むと粒が皮膚に貼りつき、火の光を受けて鈍く光った。粉なのに、確かに重い。

 ルイーザは言った。「王の使いが、試しにこれだけ見せました。明日、取引の場を作れます。量も場所も時刻も、こちらが決める条件でいいと言っています」

 ディエゴは袋を受け取り、掌の上で重さを確かめた。海の向こうの銀貨とは違う。ここでは地面の光が、そのまま手の中に来る。


 その夜、ディエゴは寝所へ戻った。灯りは油皿の小さな火だけで、壁の影がゆっくり揺れた。外では波が一定の音を続け、潮風が石の隙間を抜ける。彼は汗を落とし、肩の凝りをほどいた。ルイーザとエレナが入り、火のそばに腰を下ろした。3人とも疲れているが、目は冴えていた。

 エレナは言った。「あのガラス玉は安い。でも、目を引く。使いの目が変わったのが分かりました」

 ディエゴは言った。「人は価値そのものより、目に刺さる物で動く。刺さったあとは、こちらの言い分を入れるだけだ」

 ルイーザは言った。「金が入れば、水も食糧も守れます。砦が荒れません」

 ディエゴは頷いた。満ち足りているから、無理に汚いことをして穴埋めする必要がない。だから、落ち着いたまま勝ちを積める。


 やがて言葉が減り、火の音だけが残った。衣擦れが小さく鳴り、肌の温度が近づいた。砦の夜は長い。長い夜を越えるには、眠りが要る。眠りには、身体の温度と安心が要る。


 翌朝、浜へ出ると砂はまだ冷たく、足裏に粒が食い込んだ。潮の匂いは昨日より強い。内陸の王の使いの一団が木陰に座って待っていた。首や腕に飾りがあり、布の色が濃い。目が箱に吸い寄せられている。箱の中には赤い布とガラス玉がある。

 ディエゴは箱を開け、太陽の下で一度だけ光を当てた。ガラス玉がきらりと反射し、赤布の色が際立つ。使いの喉が動いた。欲が見える。欲が見えるなら、話は進む。


 取引は、見張りの目が届く場所でやった。逃げ場がない場所でやると、相手は落ち着く。こちらも落ち着く。

 金粉は布袋で渡された。袋を開けると、金属の匂いがかすかに立つ。粉が風で舞わないよう、ルイーザが木箱の中で受けた。秤の皿に落ちる音は小さいが、分銅が触れる音が冷たく響いた。

 その日の受け取りは金粉1,260gだった。ルイーザは帳面に迷いなく書いた。


 砦に戻ると、鍛冶場の火を起こした。炭が赤くなり、熱が頬を焼く。金粉は坩堝に入れられ、じわじわ溶け、やがてとろりとした光になった。溶けた金が型に流れ込むと、空気が少し甘い匂いを帯びる。鉄の匂いとは違う。熱いのに、どこか澄んだ匂いだ。

 冷えると、金は音を立てずに固まった。手のひらに乗せると、重みが骨に伝わる。


 その日の鋳造は合計1,260g。金塊は4本に分けた。1,000gが1本、200gが1本、50gが1本、10gが1本だ。

 ルイーザは帳面の端に、円換算の欄も作った。数字は、兵に夢を見せるためではない。砦の修理と食糧の見通しを立てるためだ。

 彼女は言った。「金1gを28,367円として計算します。今日の分は35,742,420円です」

 兵たちは声を上げなかったが、目の奥が明るくなった。今夜の肉が増える。酒が切れない。靴の底の革も、釘も、油も、買い直せる。砦の修理も進む。自分の明日の眠りが守られると分かる時、人は余計な争いをしなくなる。


 ディエゴは倉の前で言った。「これは最初の1日だ。砦の修理と警備を回す人数は残す。囲いの人数は、サントドミンゴ行きで計画どおり落とす。金は貯めるだけではない。船を動かすために使う。使い道を先に決める」

 それがあるから、金は隊を腐らせない。隊を軽くする。


 その後の7日間、取引は同じ形で積み上がった。赤布とガラス玉は、王の側の欲を動かし続けた。鉄の輪と釘は、向こうの武器や道具の修理に必要だった。こちらは交換条件を崩さず、受け取りは見張りの目が届く場所で、秤と帳面を毎回そろえた。

 夕方には火が起き、鍛冶場の熱が砦の夜気を押し返す。金が固まるたびに、兵は明日の労働が軽くなるのを感じた。


 7日目の夜、ルイーザは帳面を閉じる前に、ディエゴへ最終行を見せた。

 金粉合計は12,400g。金塊は13本。1,000gが12本、400gが1本。円換算は351,750,800円だ。


 ディエゴは金塊の箱の蓋を押さえ、兵たちの笑い声がまだ残る広場を見た。ここまで積めば、次便のサントドミンゴ行きは確実になる。砦に残す労働力は守り、余計な人数は段階的に外へ出し、砦の胃袋を軽くする。そのうえで、金の入口を太くする。

 さらに積み上がれば、港を1つに寄せない選択もできる。ハバナへも回せる。海の上で待つのではなく、海そのものを自分の都合で動かす側へ回れる。


 火が落ちかけたころ、夜風が汗を冷やし、潮の匂いが濃くなった。兵は満腹で、酒の熱を腹に残し、眠りへ向かって散っていった。ディエゴも寝所へ戻り、石壁の冷たさを背に感じながら、明日の段取りを頭の中で確かめた。

 金は、ただ光るだけの飾りではない。明日の水であり、修理の石灰であり、船を動かす風そのものだ。ディエゴは、それを数字と手触りで確かめたうえで、次の一手を落ち着いて選べる場所にいた。


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脚注

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第7話で「現金として動かせる戦利金」は、最初の明細で金の総量が7,412g、銀貨が28,800gである。


 さらに取引を積み上げた7日目の夜の最終集計では、金粉が12,400g、金塊が13本(1,000gが12本、400gが1本)まで増えている。

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挿絵(By みてみん)

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