第14話――「火縄の赤、谷の泣き声」
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新たな妾たち(以前からの妾たちは妊娠中のため、船内で静養している)
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先住民
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アナイラ〈36〉(族長の正妻) 族長の家を切り盛りしてきた女性。川口と集落の道を知る。
シリマ〈20〉(族長の妾) 若く、目が利く。森の足場と危ない谷を覚えている。
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スペイン人
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イサベル・ロドリゲス〈24〉 サントドミンゴから小舟で移動中、嵐で流されてドミニカ島へ漂着した。夫は水際の争いで死亡し、以後は子を抱えて森の囲いに隠れていた。針と布の扱いが早く、破れた衣の繕いで手を動かせる。
ルイサ・エスピノサ〈19〉 港の下役の家の娘。読み書きの初歩を身につけており、短い祈祷文と物の数え方を覚えている。囲いでは火の番を担い、煙を小さく保つ工夫をしていた。
カタリナ・サントス〈33〉 兵の炊事場にいた女で、塩蔵と干し物の加減を知る。島では貝と木の実を選り分け、腹を壊さない順で子どもへ回していた。
ベルナルダ・メヒア〈27〉 雑役として司祭館に出入りしていた。薬草の匂いと傷の洗い方を少し知り、発熱した子どもの額を冷やす役を担っていた。
エレナ・デ・トレド〈41〉 年長で、囲いの中では女たちの口論を止める役に回っていた。物資が尽きた夜、誰がどれだけ食べたかで揉めた際も、声を荒らげずに分け方を決めたという。
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新たな人質女性
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マオア〈37〉 出身部族はカリナゴ〈島カリブ〉族。川口の集落の族長の正妻。浜で男たちの動きを止め、場を崩さずに取引を続けさせた年長の女。
レイリ〈19〉 出身部族は同じくカリナゴ〈島カリブ〉族。族長の側室(妾)。ひょうたんの水と果実を地面に置き、取引の意思を示した若い女。
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ディエゴたちは、ドミニカ島を1521年7月10日10時に出帆した。マルティニークは遠目に島影だけを見て、警戒を崩さずにやり過ごした。セントルシアでは川口のある浜へ小舟を出し、水と木を受け取る代わりに、先住民女性2人を船で預かった。夜はそのまま南へ走り、セントビンセントの影を越えた。
1521年7月12日の夕方、16時から18時ごろ、日没前に沖合で錨を下ろした。2泊3日の航海だった。セントルシアの浜で預かった先住民女性2人は、セントルシアのカリナゴ〈島カリブ〉族の集落に属し、族長の妻たちだった。セントルシアは欧州勢力の植民地化が本格化する前から先住民が暮らし、16世紀初頭の段階ではカリナゴが島の主な勢力とされている。
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錨が落ちると、鎖が海面を叩いて鈍い音を立てた。日没前の光は低く、島の斜面は濃い緑の塊に見えた。風は甘くはない。湿った土と、潰れた葉の匂いが混じり、鼻の奥に残った。波間には藻が浮き、岸の切れ目には川の水がにじむように広がっていた。
上陸はすぐに始まった。小舟が何十も下ろされ、兵は鎧の金具を鳴らしながら浅瀬を踏んだ。砂は黒っぽく、足を取った。森の縁は暗い。枝の間から視線だけが動くのが分かった。鳥の声は途切れ、虫の羽音だけが近くで続いた。
最初の矢は、音より先に来た。乾いた切れ目が空を裂き、盾に当たって弾けた。次の矢は、腕に刺さった兵が短く呻いた。矢羽の根元に、濡れた黒い粘りが見えた。毒だと分かる匂いがしたわけではない。それでも兵の顔色が変わり、周囲の息が一斉に浅くなった。
ディエゴは怒鳴らなかった。声を低く保ったまま命じた。
ディエゴは言った。「散るな。列を崩すな。盾を前へ。撃て」
火縄銃の火が、夕方の湿り気の中で赤く踊った。火薬の匂いが一気に広がり、喉がひりついた。発砲の衝撃が腹に響き、煙が白く流れて視界を塗りつぶした。森からは叫びが返った。短く鋭い声で、男たちは互いを呼び合い、矢をつがえる音が続いた。
夜襲も来た。焚き火の外側で、暗闇がざわめいた。槍の先が光を拾い、次の瞬間に矢が雨のように落ちた。兵は盾を重ね、火縄を守り、交代で撃った。銃声のたびに森が沈黙し、沈黙が戻るたびにまた矢が飛んだ。執拗だった。近づけば引き、追えば回り込む。狙いは水桶と火だった。
だが、人数が違った。夜が明けるころには、海岸の帯のような陣地が島の縁に張りつき、そこから内側へ、波が押すように兵が入った。太鼓や貝の合図が聞こえたが、銃声にかき消された。槍の突撃は長槍の壁に止められ、矢は盾と鎧に弾かれた。逃げ道は隊列で塞がれ、足音が何重にも重なった。
昼前、谷の奥で大きな集落が見つかった。屋根は葉で厚く葺かれ、中央の広場に火の跡があった。男たちは最後まで粘った。森から飛び出し、槍を振り下ろし、毒矢を放った。倒れても地面を蹴って起き上がろうとした。血が砂に落ち、湿った土が鉄の匂いを吸った。
ディエゴは懐柔の言葉を切った。面倒な往復が増えるだけだと判断した。
ディエゴは言った。「族長を押さえろ。抵抗は止めるまで折る」
鎮圧は早かった。族長格の男が倒れると、周りの戦士は一度だけ叫び、次に声を失った。木陰からの矢は細り、槍の突撃は散った。逃げた者は追われ、追いつかれ、森の奥で音が途切れた。
広場が静まったころ、家々の奥から女たちの声が上がった。泣き声ではない。喉の奥から絞り出すような叫びだった。子どもを抱えた女が転び、砂と灰で頬を汚した。年寄りの女が腕を広げて前へ出ようとしたが、兵に押し戻された。鍋の中身がひっくり返り、温い芋の匂いが煙に混じった。
ディエゴは部下に目で合図した。人質は女だ。男を殺し、女を押さえれば、残る者は従うしかない。非情さは隠さなかった。戦いを引き延ばすより、短い時間で終わらせる方が確実だと分かっていた。
兵が奥の家へ踏み込んだ。葉の屋根の下は薄暗く、汗と煙と土の匂いがこもっていた。そこに、正妻と呼ばれる女が4人いた。飾りも姿勢も違った。だが、目だけは同じだった。家と集落を守るために、歯を食いしばる目だった。
最初に引きずり出されたのはナヤリだった。貝の輪が腕で鳴り、彼女は兵の手を振りほどこうとして叫んだ。言葉は通じない。それでも怒りと恐怖は通じた。彼女の喉は嗄れ、唾が唇に白く残った。
次にウアチマが出てきた。彼女は泣きながらも、足元の土を掴み、何かを口の中で唱えた。草の匂いがした。兵が手を離しかけたが、ディエゴの視線が動かなかったので、すぐに腕をねじって縛った。縄が食い込み、彼女は短く悲鳴を上げた。
テシラは子どもをかばって前へ出た。彼女の頬に涙が筋になり、鼻の先が赤くなっていた。兵が近づくと歯をむき出して噛みつこうとした。兵が肩を押さえ、縄を回した瞬間、彼女は声を張り上げて泣き叫び、周囲の女たちが一斉に応えた。
アマイラは最後まで立っていた。羽根が震え、膝が小刻みに揺れていた。それでも逃げず、視線を落とさなかった。兵が腕を取ると、急に体の力が抜け、座り込んだ。次の瞬間、子どもみたいに大きな声で泣き出した。恥も体面も剥がれ落ちる泣き方だった。涙と鼻水が混じり、呼吸が乱れて言葉にならない。
広場の外から、また矢が飛んだ。最後の抵抗だ。盾に当たって転がり、砂を跳ねた。ディエゴは顔色も変えずに言った。
ディエゴは言った。「撃ち返せ。近づいたら斬る」
数発の銃声が鳴り、森は黙った。カリナゴの男たちは、もう出てこなかった。
縄で繋がれた4人の正妻は、膝をつき、肩を寄せ合うしかなかった。泣き声は途切れず、息を吸うたびに喉が鳴った。彼女たちが泣くほど、周囲の女や子どもも泣いた。集落全体が声で震えていた。
ディエゴは人質の4人を列の先頭に立たせ、わざと浜まで歩かせるよう命じた。見せつけるためだ。森に潜る戦士たちにも、島の別の谷にいる者にも、噂は必ず広がる。抵抗すれば族長は死に、正妻は奪われる。その事実を、目に焼きつけさせるつもりだった。
夕方、海へ向かう列ができた。汗と火薬と血の匂いが混じり、潮風に薄く引き伸ばされた。4人の女は歩けず、何度も転び、砂を掴んだ。兵は腕を引き、引きずり、泣き声を背中に浴びながら進んだ。沖合では、船の帆柱が静かに揺れていた。そこが、彼女たちの次の牢になった。
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人質にした正妻4名は、次の女たちだ。
ナヤリ〈36〉。グレナダ島北側の谷の集落。畑と食料庫を取り仕切り、男たちの遠出の間も集落を回してきた。腕に白い貝の輪を重ねていた。
ウアチマ〈31〉。東の川筋の集落。薬草と傷の手当を任され、毒を塗る矢の調合も知っていると噂された。首に黒い種の首飾りを下げていた。
テシラ〈27〉。南の入江の集落。丸木舟の手配と浜の見張りを仕切る家の女で、海の流れと浅瀬の位置を覚えている。耳に小さな骨の飾りがあった。
アマイラ〈19〉。西の丘の集落。婚姻で同盟を結ぶために迎えられた若い正妻で、儀礼の歌を受け持つ。髪に赤い羽根を差していた。




