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ひとりぼっちの勇者たち  作者: 長月イチカ
エピローグ
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53/53

◆2



「…昴流さん、学校、来てくださいよ。もうすぐ卒業なら、なおさら」

 陽太は先に車に戻った。

 教室に行くのは、当初の予定通り、来週からにするらしい。

 ここまで来たのだから、顔だけでも出せばいいのに。相変わらず、意気地なしなんだから。

 裏庭にはまた、ふたりになった。

 でもあたしもそろそろ、行かなくちゃ。

「あたしもこれから…少しずつ学校、楽しみたいと思います…だから」

 昴流さんはベンチに腰掛けたまま、もうあたしのことは見ていない。

「今度、昴流さんがピンチの時には、恩返し、させてください…いつか」

 あたしの言葉にようやく、昴流さんがゆっくりと顔を上げた。その口元は少しだけ、笑っていて。

「…いつか?」

「はい、いつか」

 ゆっくりと、立ち上がるその瞳があたしを見下ろす。陽太のとは違う金色の髪が揺れて、木漏れ日に反射していた。綺麗だと思った。

 触れる温もりは、確かにやさしくて。あたしは少しだけ笑う。


 ……そう、きっと…いつか。



◇ ◆ ◇



「……あ…」

 教室の前で扉に手をかけた瞬間、あたしは思わず立ち止まる。隣りでまだ緊張した顔の陽太が、あたしを見下ろしながら首をかしげた。

 そういえばすっかり忘れていたけれど。

「あたしの席、ないんだった…」

 あたしが使っていた席は、陽太の席だ。それはちゃんと返さなくちゃ。

「ああ、それなら…大丈夫だと、思うよ」

 やけに自信ありげに陽太が笑う。

 今度はあたしが首をかしげていると、扉にかけていたあたしの手に陽太が自分の手を重ねた。

 あたしの右手の傷はもうすっかり綺麗に治っていて、陽太の右手首にはリストバンド。

 包帯は、もう要らない。

「あのね、星野さん…入学式か何かで、月子ちゃんに庇ってもらったんだって…覚えてる?」

「入学式…?」

 ああ、そういえば。星野さんも、高等部からの外部編入生だ、確か。

 …そうか。あの時の子は…星野さんだったんだ。

「本当は、堀越恭子たちに目をつけられるのは…自分だった、て言ってた。それからなくなった月子ちゃんの席を、探してくれてたんだって…前、教えてくれたんだ」

「…そう、だったんだ…」

 入学説明会の後、堀越恭子にメガネを壊されてからあたしの視界は悪いまま。ひとの顔を覚えるのは苦手だった。だからあの時の子だって、気付かずにいたんだ。

「だから、大丈夫」

「…そう」

 胸が少しだけ、熱くなる。そういえばバタバタしていてまだちゃんと、お礼が言えてない。なんだかんだであたしも数日、学校を休んだりしていたから。

 今日は、自分から。話しかけてみよう。


「ああ、でもぼく、みんなと“はじめまして”からなんだよなぁ…!どうしよう、ドキドキする…!」

「一回は会ってるじゃない、平気よ」

「あんなの会った内に入らないよ…しかも印象最悪だし…月子ちゃん、ぼくが教室で誰にも話しかけてもらえなかったら、月子ちゃんは傍に居てね、一緒にお弁当食べようね」

「イヤよ、面倒くさい」

「えぇえ、月子ちゃん…!!」

「…わかったからすぐ泣くのやめなさいよ、男のくせに」

「…うぅ、はい…」

「…傍に、居るわよ」


 この胸に感じたことがある。

 言葉にすらできない想いを、あたし達は共有した。

 痛みも弱さも心さえも。あたし達は共にした。


「これから先も、ずっと?」


 あれからあたし達は一度も入れ替わっていない。

 多分もう二度と、入れ替わることはないだろう。


「…これから先も、ずっと」


 あたしのすべては、彼に持っていかれてしまったから。

 そしてあたしも、彼の一番大事なものを、もらったから。


「ずっと、一緒」



 ひとりじゃ越えられない夜も

 背負った罪もいつかの罰も

 ふたりなら、きっと。


 世界の果てまで、ずっと。




End.



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