座学
高等部の座学は、思っていたより静かだった。
広い教室。
段になった席。
前では教師が魔法陣を書いている。
「――つまり、中級魔術とは“圧縮”だ」
黒板へ描かれた火属性式。
周囲の生徒達が真面目に書き写している。
「初級魔術は基礎構築。対して中級は、魔力効率と威力を高めるため式を短縮する」
教師が振り返る。
「故に、初級を長く使い続ける意味は薄い」
教室の何人かが頷く。
後ろの方で小さく笑い声もした。
多分俺のことだ。
「中級習得後は、中級熟練を優先しろ。実戦で必要なのは火力と速度だ」
その時だった。
「先生」
声。
レオンだった。
「なんだ」
「初級熟練は無意味なんですか」
教室が少し静かになる。
教師は腕を組んだ。
「無意味ではない」
「ではなぜ、初級を捨てる前提で話すんですか」
少し空気が変わる。
昨日の夜を思い出す。
レオンは多分、
本気で聞いている。
「時間効率だ」
教師が答える。
「高等部の時点で必要なのは中級以上。限られた時間で実戦力を上げるなら、中級熟練を優先するのは当然だ」
「……なるほど」
レオンはそれ以上言わなかった。
でも完全に納得した顔でもなかった。
その時。
「ユウト・アークレイ」
急に教師がこっちを見る。
「はい」
「お前はどう思う」
教室の視線が集まる。
やめてほしい。
「……どうって」
「お前は初級主体だろ」
少しだけ空気がざわつく。
俺は頭を掻いた。
「いや、俺中級使えないんで」
笑いが起きる。
でも教師は真顔だった。
「答えろ」
「……」
少し考える。
「初級って、自由度は高いと思います」
「自由度?」
「組み合わせやすいし、切り替えも軽いので」
「だが威力は低い」
「はい」
「なら実戦では不利だろう」
「一発なら」
そこで少し教室が静かになる。
「……一発なら?」
教師が聞き返す。
「でも複数なら、話変わるかなって」
教師が目を細める。
後ろで誰かが小さく笑った。
「理想論だな」
「かもです」
否定は出来ない。
実際、中級の方が強い。
それは事実だ。
でも。
「初級って、魔力の流れが分かりやすいんですよ」
自分でも少し変なこと言ってると思う。
でも昔からそうだった。
「だから、重ねやすい」
教室が静かだった。
教師も少し黙っている。
その時だった。
「……変な奴」
横から小さい声。
リアだった。
「聞こえてる」
「聞こえるように言った」
少しだけ笑う声が広がる。
でもその空気は、
昨日までとは少し違った。
馬鹿にする感じじゃない。
“理解できない”
そんな空気だった。
授業終了の鐘が鳴る。
生徒達が立ち上がる。
その中で、レオンだけが少し考え込んでいた。
「ユウト」
「ん?」
「お前、本当に中級使えないんだよな」
「だからそうだって」
「……そうか」
レオンは短く呟く。
でもその顔は、
昨日より少しだけ真剣だった。




