フェンリルの王
その言葉に。
ユウトの背筋が凍った。
「……似てる?」
思わず聞き返す。
巨大なフェンリルは答えない。
ただ。
じっと見ている。
金色の瞳。
その視線だけで。
身体が重くなるような感覚があった。
「やめんか」
じいちゃんが呆れたように言う。
「潰れるぞ」
フェンリルが鼻を鳴らす。
その瞬間。
圧力が消えた。
「はぁ……」
ユウトは思わず息を吐く。
気付けば汗をかいていた。
「お主が弱すぎるんじゃ」
「初対面でそれは酷くないか?」
思わず言い返す。
フェンリルが目を細めた。
「ほう」
一瞬だけ間。
「言い返すか」
少しだけ。
楽しそうだった。
その時。
じいちゃんが肩をすくめる。
「昔からじゃ」
「面倒なところまで似たか」
「誰にだよ」
「儂にじゃ」
即答だった。
ユウトは何も言えなくなった。
否定しづらい。
その様子を見て。
フェンリルが笑った。
狼が笑った。
それだけで妙な光景だった。
「よい」
低い声が響く。
「少なくとも怯えて逃げるような者ではないらしい」
その時。
ユウトは気付いた。
「あなたは」
一瞬だけ間。
「何者なんだ」
フェンリルが黙る。
森も静かになる。
風さえ止まったようだった。
そして。
フェンリルが答える。
「王だ」
短い言葉だった。
「……王?」
「フェンリルの王」
ユウトの思考が止まる。
じいちゃんを見る。
だが。
否定しない。
つまり本当だ。
「お前達がフェンリルと呼ぶ種族」
「その最初の一頭」
森が静まり返る。
ユウトは言葉を失った。
最初。
つまり。
始まり。
伝説どころの話ではない。
「じゃあ」
喉が乾く。
「子フェンリルは」
王が小さく笑う。
「孫じゃな」
一瞬。
空気が止まった。
「え?」
「え?」
なぜかユウト自身も声が出た。
そして。
今までの色々な出来事が頭をよぎる。
加護。
エルフの里。
特別な反応。
案内。
全部繋がる。
「いや」
一瞬だけ間。
「とんでもない血筋じゃねぇか!」
思わず叫んだ。
王が笑う。
じいちゃんも笑う。
そして。
次の瞬間。
王の表情が消えた。
「だが」
森の空気が変わる。
ユウトの身体が強張る。
王は真っ直ぐ見ていた。
試すように。
見定めるように。
「ここからが本題だ」
その一言で。
空気が完全に変わった。




