咆哮
どこからか。
遠くで。
獣の咆哮が響いた。
ユウトの身体が震える。
恐怖ではない。
もっと本能的な何かだった。
胸の奥。
加護が反応している。
「この声は……」
思わず呟く。
じいちゃんは静かだった。
だが。
その目はどこか懐かしそうだった。
「聞こえるか」
「ああ」
ユウトは頷く。
「なんだか分からないけど」
「知ってる気がする」
その瞬間。
じいちゃんが笑った。
「そうじゃろうな」
風が吹く。
森の木々が揺れる。
そして。
もう一度。
咆哮が響いた。
今度は近い。
さっきよりずっと。
ユウトは反射的に振り向く。
森の奥。
何かいる。
見えない。
だが。
確実に。
そこにいる。
「じいちゃん」
「なんじゃ」
「あれは何なんだ」
少しだけ沈黙。
じいちゃんは前を見る。
真っ直ぐに。
森の奥を。
「フェンリルじゃ」
短い返事だった。
だが。
ユウトは首を傾げる。
「子フェンリルなら知ってる」
「違う」
即答だった。
そして。
じいちゃんの表情が消える。
「お前はまだ何も知らん」
一瞬だけ間。
「フェンリルとは何かをな」
空気が重くなる。
今までとは違う。
加護の話。
選択の話。
そんなものじゃない。
もっと根本の話。
そんな気がした。
その時。
森の奥の木々が揺れる。
一本。
また一本。
何かが近付いている。
巨大だった。
見えなくても分かる。
木々より大きい。
そんなものが動いている。
ユウトは息を呑む。
そして。
ついに姿が現れた。
「……っ!」
言葉を失う。
大きい。
そんな言葉では足りなかった。
山だった。
そう見えるほど巨大だった。
銀色の毛並み。
金色の瞳。
圧倒的な存在感。
今まで見たどのフェンリルとも違う。
子フェンリルが犬に見えるほどだった。
「これが……」
ユウトの声が震える。
フェンリルは動かない。
ただ。
こちらを見ている。
その視線だけで。
身体が動かなくなる。
そして。
フェンリルの視線がじいちゃんへ向く。
一瞬だけ。
懐かしそうに。
そして。
次にユウトを見る。
長い沈黙。
やがて。
フェンリルが口を開いた。
「久しいな」
低い声だった。
ユウトの思考が止まる。
「……え?」
フェンリルが喋った。
今。
確かに。
じいちゃんは驚かない。
ただ小さく笑う。
「そっちは相変わらずじゃな」
「ああ」
フェンリルも答える。
当たり前のように。
まるで。
昔からの友人みたいに。
そして。
金色の瞳がユウトへ向いた。
「なるほど」
一瞬だけ間。
「確かに似ている」
その言葉に。
ユウトの背筋が凍った。




