選択
その声は。
今までより少しだけ重かった。
「問題はここからじゃ」
ユウトは若い頃のじいちゃんを見る。
加護を得た瞬間。
確かに。
ここまでは同じだ。
「何があったんだ」
思わず聞く。
だが。
じいちゃんは答えない。
「見ておれ」
その一言だけだった。
景色が変わる。
森が流れる。
時間が進んでいる。
若いじいちゃんは一人だった。
剣を振る。
魔力を流す。
また剣を振る。
何日も。
何ヶ月も。
何年も。
景色だけが変わる。
だが。
鍛錬だけは変わらない。
「すげぇ……」
ユウトが呟く。
昔から強かったと思っていた。
違う。
積み重ねていた。
想像以上に。
その時だった。
景色が止まる。
一つの村。
見覚えは無い。
だが。
空気がおかしい。
煙。
焦げた臭い。
悲鳴。
「これは……」
ユウトの顔が強張る。
若いじいちゃんが走る。
剣を抜く。
そして。
戦いが始まった。
相手は魔物だった。
数十体。
いや。
もっといる。
「っ!」
ユウトが息を呑む。
強い。
若いじいちゃんは強かった。
一体。
また一体。
次々と倒していく。
だが。
その時。
「!」
遠くで悲鳴が上がる。
若いじいちゃんの動きが止まった。
振り返る。
村の奥。
子供がいた。
魔物が迫っている。
助ければ間に合う。
だが。
その瞬間。
ユウトの胸がざわついた。
分かった。
何となく。
分かってしまった。
若いじいちゃんの身体が光る。
フェンリルの加護。
もっと先へ進める。
ここで。
先へ。
だが。
若いじいちゃんは迷わなかった。
村へ走った。
迷いなく。
一瞬で。
そして。
子供を抱えて飛び退く。
直後。
魔物の爪が地面を抉った。
「間に合った……」
ユウトが息を吐く。
だが。
隣のじいちゃんは笑わない。
静かに前を見ていた。
「この時じゃ」
小さな声。
「儂は選んだ」
風が吹く。
若いじいちゃんが子供を守る。
村人を助ける。
必死に戦う。
その姿を見ながら。
隣のじいちゃんが言う。
「後悔はしとらん」
一瞬だけ間。
「今でもな」
ユウトは黙って聞く。
「じゃが」
じいちゃんが空を見る。
どこか懐かしそうに。
「その日から道は分かれた」
景色が再び揺れ始める。
そして。
今度は違う景色が映し出された。
ユウトは目を見開く。
「え……」
そこにいたのは。
若い頃のリシアだった。




