刻まれた名前
そこに刻まれていたのは。
じいちゃんの名と。
リシアの名だった。
「なんで……」
ユウトが呟く。
リアも言葉を失っていた。
石碑は古い。
最近作られたものには見えない。
なのに。
二人の名前が刻まれている。
「ここへ来た者の名だ」
案内人が静かに言う。
「全員ではない」
「選ばれた者だけだ」
ユウトは石碑へ近付く。
指でなぞる。
確かに刻まれている。
見間違いじゃない。
「じいちゃんが……」
知らなかった。
何も。
こんな場所があることも。
ここへ来ていたことも。
その時だった。
石碑が微かに光る。
「っ!?」
ユウトが手を離す。
だが。
光は消えない。
むしろ強くなる。
そして。
名前の下に文字が浮かび上がった。
『到達』
ユウトが固まる。
リアも同じだった。
「到達?」
思わず声に出す。
案内人が頷く。
「ああ」
「二人ともここまでは来た」
一瞬だけ間。
「だが先へは進まなかった」
また同じ言葉だった。
祖父も。
リシアも。
進まなかった。
進めなかったではなく。
進まなかった。
そこが引っ掛かる。
「先に何があるんですか」
ユウトが聞く。
案内人は答えない。
代わりに。
石碑を見る。
その視線はどこか遠かった。
「お前達は勘違いしている」
「え?」
「フェンリルの加護は報酬ではない」
湖に風が吹く。
「試練だ」
静かな声だった。
だが。
重かった。
「強くなるための力じゃない」
「なら何なんですか」
案内人はユウトを見る。
真っ直ぐに。
「覚悟を量るためのものだ」
その瞬間。
石碑が再び光る。
今度は。
祖父の名前でもない。
リシアの名前でもない。
空白だった場所。
そこへ。
ゆっくり文字が刻まれ始める。
「なっ……」
ユウトが目を見開く。
リアも息を呑む。
刻まれていく。
一文字ずつ。
石碑に。
新しい名前が。
そして。
最後の文字が刻まれた。
そこにあったのは。
『ユウト・アークレイ』
だった。
湖が大きく揺れた。




