古い剣
演習が終わった頃には、空は赤く染まり始めていた。
森の出口へ戻ると、教師達がざわついているのが見えた。
「遅い!」
「何があった!?」
実戦担当の教師が駆け寄ってくる。
その視線が、俺達の姿を見て止まった。
ガルドのローブは裂けている。
セイルの腕には浅い傷。
俺も袖が切れていた。
「……接敵したな」
「ホブゴブリン」
リアが短く答える。
一瞬。
周囲の空気が止まった。
「……何?」
「ホブゴブリンが出た」
教師達の顔色が変わる。
「外周でか?」
「はい」
「数は」
「普通種含めて十体以上」
ざわつきが広がる。
「おい待て……」
「なんでそんなのが外周に……」
教師の一人が舌打ちした。
周囲の生徒達も騒ぎ始める。
「マジかよ」
「外周だろ?」
「あり得なくね?」
その時だった。
「誰が倒した」
低い声。
皆の視線がこっちへ向く。
一瞬だけ沈黙。
「……皆で」
俺が答える。
実際そうだ。
一人じゃ無理だった。
でも次の瞬間、
「いやコイツだって!」
ガルドが叫んだ。
「ガルド」
「だってそうだろ!? ユウト前出なかったら終わってたって!」
「お前声大きい」
「うるせぇ!」
教師達の視線が集まる。
居心地悪い。
「本当か」
「いや、でもガルドの中級が――」
「ホブゴブリンの斧を止めたのはお前かと聞いている」
俺は少し考える。
「止めたっていうか……逸らした?」
「……逸らした?」
「はい」
教師が黙る。
セイルが苦笑した。
「俺も意味分かんなかったっす」
「気づいたら前いたんだよコイツ」
「しかも普通に斬ってたし」
「だから皆で――」
「いやお前おかしいって!」
またガルド。
教師が額を押さえた。
「……とりあえず詳細を聞く。お前達、来い」
周囲の視線が痛い。
さっきまでCクラスを馬鹿にしていた連中が、妙に静かだった。
「……ユウト」
横からリア。
「何」
「血」
「え?」
袖を見る。
腕が切れていた。
いつの間にか血が流れている。
「気づいてなかったの?」
「全然」
「鈍い」
リアが小さく息を吐く。
そのまま手を伸ばした。
水色の魔力。
傷口が少しずつ閉じていく。
「……便利だな」
「初級だけ」
「それでも十分すごい」
リアは少しだけ視線を逸らした。
「おい、早くしろ」
教師に呼ばれる。
俺達はそのまま校舎へ向かった。
通された部屋には、実戦担当以外にも教師が二人いた。
空気が少し重い。
「確認する」
年配教師が口を開く。
「ホブゴブリンを最初に止めたのは誰だ」
ガルドとセイルが同時に俺を見る。
リアだけ黙っていた。
「……ユウトです」
教師達の視線が変わる。
「ユウト・アークレイ」
名前を確認するように呟く。
「中級は」
「使えません」
「初級のみか」
「はい」
教師達が顔を見合わせる。
理解できない。
そんな顔だった。
「剣は誰に習った」
その質問に、少しだけ祖父の顔が浮かぶ。
「祖父です」
「……その剣もか」
年配教師の視線が、腰の剣へ落ちる。
黒い鞘。
装飾もほとんどない。
古い剣だ。
「はい」
「そうか」
短い返事。
でも教師の視線だけは、妙に長く剣へ残っていた。
まるで、
何かを思い出しているみたいに。




