夢
ユウトの表情が固まった。
その反応だけで。
老人と長老は答えを理解していた。
「やっぱりか」
老人が静かに呟く。
リアがユウトを見る。
「夢?」
「……」
ユウトはすぐに答えられなかった。
隠していたわけじゃない。
ただ。
あまりに意味が分からなかった。
「見る」
小さく答える。
「加護を得てから何度か」
老人が頷く。
長老も黙ったまま聞いている。
「どんな夢じゃ」
ユウトは少し考えた。
そして。
言葉を探す。
「森です」
「森?」
「ああ」
目を閉じる。
思い出す。
何度も見た景色。
「誰もいない森」
「でも変なんです」
老人が続きを待つ。
「知らない場所なのに」
「懐かしい」
風が止まる。
老人と長老の表情が変わった。
「他には」
「水の音がする」
「あと」
言葉が止まる。
「なんだ」
「呼ばれてる気がする」
静寂。
リアが不安そうに見る。
子フェンリルまで動かない。
「……名前は」
長老が初めて口を開く。
「聞こえたことはあるか」
ユウトは首を振った。
「ない」
「でも」
一瞬だけ間。
「待っている感じはする」
老人が目を閉じる。
深く息を吐いた。
「そこまでか」
どこか安心したような声だった。
「何なんですか」
ユウトが聞く。
「その夢は」
老人は答えない。
代わりに。
長老を見る。
二人だけで何かを確認するように。
そして。
長老が静かに頷いた。
「予定を変える」
一瞬。
ユウト達の表情が変わる。
「予定?」
「ああ」
長老が立ち上がる。
「本来はもう少し先だった」
「だが必要なくなった」
老人も立ち上がる。
その顔に迷いは無い。
「ユウト」
「はい」
「お前を連れて行く場所がある」
森の風が吹く。
木々が揺れる。
「加護を得た者しか辿り着けん場所じゃ」
リアが目を見開く。
ユウトも息を呑む。
「そこに何があるんですか」
老人は少しだけ笑った。
そして。
静かに答える。
「お前がずっと夢で見ておる場所じゃ」
ユウトの心臓が大きく鳴った。
知らないはずなのに。
その言葉だけで分かる。
そこに行かなければならない。
そんな感覚があった。
その時だった。
「待ってください」
リアが声を上げる。
全員の視線が向く。
リアは少しだけ俯いた。
そして。
意を決したように顔を上げる。
「母も」
一瞬だけ間。
「母もその場所へ行ったんですか」
老人と長老が静かに顔を見合わせた。
そして。
老人が答える。
「ああ」
短い返事。
だが。
その一言で十分だった。
「お前の母も」
「ユウトの祖父も」
「そこへ辿り着いた」
リアの瞳が揺れる。
ユウトも同じだった。
長い間。
別々だと思っていた二人。
だが。
知らないところで同じ道を歩いていた。
老人は静かに振り返る。
森の奥を見る。
誰も足を踏み入れない方向。
深く。
古く。
静かな場所。
「行くぞ」
その声と共に。
森の空気が少しだけ変わった。




