ほんとの理由
お前達は偶然ここへ来たわけではない。
その言葉に。
森の空気が静まり返る。
「……どういう意味ですか」
ユウトが聞く。
老人はすぐには答えなかった。
少しだけ空を見上げる。
まるで昔を思い出しているようだった。
「まず確認しておこう」
老人が言う。
「ユウト」
「はい」
「お前は何故ここへ来たと思っておる」
一瞬考える。
「フェンリルの加護のことを知るためです」
「それだけか」
「……」
言葉が止まる。
確かに。
今まで色々なことが起きすぎた。
加護。
リアの母。
エルフの里。
祖父の木剣。
全部が繋がっているようで。
まだ何も分かっていない。
老人が頷く。
「普通はそう思う」
そして。
リアを見る。
「お主はどうじゃ」
リアは少し迷った。
「私は……」
視線を落とす。
「母のことを知るため」
小さな声。
でも。
嘘ではなかった。
長老も否定しない。
老人は静かに頷いた。
「それも正しい」
その時。
ユウトが違和感を覚える。
それも。
という言い方だった。
「じゃあ違うんですか」
思わず聞く。
老人が笑った。
「違わん」
「だが足りん」
その瞬間。
長老が静かに目を閉じる。
まるで覚悟を決めたように。
「ユウト」
老人が真っ直ぐ見る。
「お前の祖父は何故フェンリルの森へ通っておったと思う」
一瞬。
思考が止まる。
「修行じゃないんですか」
「半分正解じゃ」
老人が答える。
「もう半分は探しておった」
「何をです」
老人は答えない。
代わりに。
長老が口を開いた。
「加護だ」
静かな声。
「フェンリルの加護」
ユウトの目が大きく開く。
「祖父が?」
「ああ」
長老が頷く。
「お前の祖父もまた加護へ辿り着いた」
老人が続ける。
「そして失敗した」
森に沈黙が落ちる。
「失敗……」
ユウトの声が漏れる。
老人は頷く。
「だからお前が初めてではない」
その言葉は重かった。
今まで特別だと思っていたもの。
だが。
祖父もそこへ辿り着いていた。
「じゃあ祖父は」
「完成しなかった」
老人が言う。
「完成する前に選んだ」
昨日と同じ言葉だった。
仲間を優先した。
それが祖父。
それはもう聞いた。
だが。
老人の話は終わらない。
「そしてもう一人おる」
一瞬だけ間。
リアの肩が小さく震えた。
老人の視線が向く。
「お前の母じゃ」
リアが固まる。
長老は何も言わない。
否定もしない。
「リシアもまた」
老人が静かに言う。
「フェンリルの加護へ辿り着いた一人じゃ」
誰も言葉を発せなかった。
風だけが森を抜けていく。
ユウトは理解できなかった。
リアも理解できなかった。
だが。
一つだけ分かった。
祖父。
母。
フェンリル。
エルフの里。
今まで別々だったものが。
少しずつ一つに繋がり始めていた。




