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『初級魔術しか使えない俺が、なぜか最強に近づいている』  作者: 北こたろう


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先代長老

風が吹く。


 木々の葉が静かに揺れた。


「そろそろだな」


 老人が空を見上げる。


「何がですか」


 ユウトが聞く。


 だが。


 老人は答えない。


 その時だった。


「グル」


 子フェンリルが立ち上がる。


 耳がぴくりと動く。


 そして。


 森の奥を見る。


「どうした?」


 ユウトも視線を向ける。


 だが何も見えない。


 数秒後。


 足音が聞こえた。


 ゆっくり。


 一歩ずつ。


 落ち葉を踏む音。


 やがて。


 木々の奥から一人の人物が現れる。


 見慣れたローブ。


 見慣れた顔。


「長老」


 ユウトが呟く。


 長老は軽く頷いた。


「待たせたな」


 そう言って。


 老人の前で立ち止まる。


 二人はしばらく何も言わなかった。


 風だけが通り過ぎる。


 やがて。


 老人が笑う。


「相変わらずじゃな」


「お前もな」


 長老が答える。


「元気そうで何よりだ」


「儂を誰だと思っとる」


 老人が鼻を鳴らす。


「馬鹿は長生きするからの」


「それは知っている」


 長老が真顔で頷く。


「おい」


 老人が不満そうな顔をした。


 その様子に。


 思わずユウトは笑いそうになる。


 リアも少しだけ口元を緩めていた。


 その時。


 長老がこちらを見る。


「紹介しておこう」


 静かな声。


「この男は先代長老だ」


 一瞬。


 ユウトの思考が止まる。


「……え?」


 リアも固まる。


 老人だけが楽しそうだった。


「そんな顔をするな」


「いやしますよ!」


 思わず声が出る。


 長老の前の長老。


 つまり。


 エルフの里を治めていた人物。


 そんな存在が森の奥で普通に暮らしていた。


「隠居しただけじゃ」


 老人が肩をすくめる。


「仕事は全部押し付けた」


「押し付けられた側の苦労も考えろ」


 長老がため息を吐く。


 どうやら本当らしい。


 その時。


 リアが小さく首を傾げた。


「どうして私達をここへ?」


 その言葉で。


 空気が変わる。


 老人の笑みが消える。


 長老も静かになる。


 子フェンリルまで座り直した。


 何かが始まる。


 そう感じた。


 老人はゆっくり立ち上がる。


 そして。


 ユウトを見る。


 リアを見る。


 最後に長老を見る。


「確認じゃ」


 静かな声だった。


「お主」


 老人が長老を見る。


「まだ話しておらんのだな」


「ああ」


 長老が頷く。


「まだだ」


 老人は小さく息を吐いた。


 そして。


 ユウト達へ向き直る。


「ならば」


 一瞬だけ間。


「今日、お前達がここへ来た本当の理由を話そう」


 森が静まり返った。


 風の音さえ遠く感じる。


 ユウトは思わず息を呑んだ。


 リアも同じだった。


 老人は二人を見ながら言う。


「お前達は偶然ここへ来たわけではない」


 その言葉に。


 長老は何も否定しなかった。

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