強くなる理由
「お前は今」
一瞬だけ間。
「何のために強くなろうとしておる?」
老人の目は真剣だった。
答えようとして。
言葉が止まる。
何のため。
考えたことはある。
でも。
改めて聞かれると難しい。
「俺は……」
木剣を見る。
祖父の木剣。
そして。
リアを見る。
子フェンリルを見る。
「守りたいからです」
自然と口から出た。
老人は黙って聞いている。
「家族も」
「友達も」
「仲間も」
風が吹く。
「目の前で失いたくない」
フェンリルの森。
あの時のことを思い出す。
もし長老が来なかったら。
もし少し遅れていたら。
今ここには誰かがいなかったかもしれない。
「だから強くなりたい」
老人は何も言わない。
ただ。
静かに聞いていた。
「……そうか」
短い返事だった。
だが。
どこか安心したような声だった。
「祖父殿とは違うな」
「え?」
思わず顔を上げる。
「違うんですか」
「ああ」
老人は笑った。
「祖父殿はもっと単純だった」
「単純?」
「強い奴がいる」
一瞬だけ間。
「だから勝つ」
思わず固まる。
リアも固まる。
「それだけですか」
「それだけだ」
即答だった。
「馬鹿だったんですか?」
思わず聞いてしまう。
老人が吹き出した。
「そうかもしれん」
リアも笑いを堪えている。
「でもな」
老人の目が少し細くなる。
「途中で変わった」
空気が静かになる。
「変わった?」
「ああ」
老人は頷く。
「守るために剣を振るうようになった」
一瞬だけ間。
「だから儂は安心した」
木剣を見る。
古い木剣。
何十年も前の物。
「お前の答えを聞いてな」
老人は立ち上がる。
「祖父殿も喜ぶだろう」
その時。
「グル!」
子フェンリルが突然立ち上がった。
尻尾を振る。
そして。
木剣に飛び付いた。
「おい!」
慌てて避ける。
「グル!」
楽しそうだった。
「危ないだろ!」
「グル!」
全く反省していない。
老人が笑う。
リアも笑う。
気付けば。
さっきまでの重い空気は消えていた。
その時だった。
「そろそろだな」
老人が空を見上げる。
「何がですか」
「あの方が来る頃だ」
風が吹く。
「あの方?」
老人は答えない。
ただ。
どこか楽しそうに笑っていた。




