祖父の木剣
「受け取れ」
差し出される。
「祖父殿の物だ」
その木剣は。
思ったよりもずっと軽かった。
「……いいんですか」
思わず聞く。
老人は笑う。
「元々祖父殿の物だ」
「儂が持っている方がおかしい」
確かにその通りだった。
木剣を受け取る。
何の変哲もない木剣。
魔力も感じない。
特別な素材でもない。
「普通だろう?」
老人が言う。
「え?」
「顔に書いてある」
思わず苦笑する。
図星だった。
「もっと凄い物だと思いました」
「そうだろうな」
老人は笑う。
「儂もそう思った」
「え?」
「若い頃の祖父殿なら」
一瞬だけ間。
「宝剣の一つでも置いていきそうだったからな」
リアが少し笑う。
「想像できます」
「だろう?」
老人も笑った。
だが。
次の言葉は違った。
「じゃが祖父殿が残したのはこれだった」
静かな声。
「何故だと思う?」
木剣を見る。
分からない。
「さあ」
「分からんか」
老人は頷く。
「儂も分からなかった」
そして。
ゆっくり近付いてくる。
「だから聞いた」
「祖父に?」
「ああ」
懐かしそうな顔だった。
「何故木剣なんだとな」
風が吹く。
「すると祖父殿は笑っておった」
一瞬だけ間。
「剣なんぞどうでもいい」
その言葉に。
思わず顔を上げる。
「どうでもいい?」
「ああ」
老人は頷いた。
「強くなる奴は何を持っても強い」
静かな声だった。
「弱い奴は何を持っても弱い」
どこか。
祖父らしい言葉だった。
「だから木剣で十分だと」
老人は笑う。
「随分と面倒な理屈だろう?」
「確かに」
思わず苦笑した。
リアも笑っている。
その時。
「グル」
子フェンリルが木剣を見上げる。
そして。
木剣に鼻を近付けた。
「グル?」
不思議そうだった。
「お前も気になるのか」
「グル」
答えるように尻尾を振る。
老人はその様子を見て。
少しだけ目を細めた。
「なるほどな」
「何がですか」
「いや」
老人は首を振る。
「やはり祖父殿は祖父殿だと思っただけだ」
意味は分からなかった。
だが。
老人はどこか納得した顔をしていた。
そして。
次に向けた視線は木剣ではない。
俺だった。
「ユウト」
「はい」
「一つ聞こう」
風が止まる。
「お前は今」
一瞬だけ間。
「何のために強くなろうとしておる?」
老人の目は真剣だった。




