祖父を知る者
「祖父殿をな」
子フェンリルは老人の横へ座った。
まるで。
最初からここへ来ると決めていたみたいに。
「祖父を知ってるんですか」
思わず聞く。
老人は小さく笑った。
「ああ」
「若い頃にな」
風が吹く。
リアも黙って聞いていた。
「長老様と同じですか」
「違う」
老人は首を振る。
「儂は友人だ」
一瞬。
言葉を失う。
祖父の友人。
そんな人がまだいたのか。
「祖父はどんな人だったんですか」
老人は少しだけ空を見る。
そして。
「面倒な男だった」
「え?」
思わず聞き返す。
「面倒?」
「ああ」
老人は笑った。
「決めたら止まらん」
「思い立ったら動く」
「周りが何を言っても聞かん」
その説明に。
思わず苦笑する。
「……祖父だ」
何度も聞いた話だった。
家でも。
村でも。
祖父を知る人間は似たようなことを言う。
「じゃが」
老人は続けた。
「強かった」
静かな声だった。
「剣も」
「心も」
風が吹く。
「だから周りに人が集まった」
リアが不思議そうに聞く。
「お母さんとは知り合いだったんですか」
「ああ」
老人は頷く。
「何度も顔を合わせておった」
「へぇ」
リアが少し驚く。
「どんな感じだったんですか」
老人は少し考えた。
そして。
ふっと笑う。
「会えば言い争い」
「え?」
「会えば勝負」
「えぇ?」
今度はリアが声を上げた。
「お母さんが?」
「ああ」
老人は楽しそうだった。
「祖父殿もリシア殿も負けず嫌いでな」
「周りは大変だった」
リアが呆然とする。
「聞いたことない……」
「だろうな」
老人は頷く。
「二人ともそういう話はせんかったからな」
その時。
子フェンリルが尻尾を振った。
「グル」
老人が自然に頭を撫でる。
慣れた手つきだった。
「……この子」
リアが不思議そうに見る。
「懐いてますね」
「ああ」
老人は頷いた。
「フェンリルは人を見る」
静かな声だった。
「昔もそうだった」
一瞬だけ間。
そして。
老人はまっすぐこちらを見る。
「だから儂は興味がある」
「お前にな」
空気が変わった。
リアも。
少女も黙る。
「祖父殿の血だからではない」
老人は続ける。
「フェンリルが認めたからだ」
その言葉に。
思わず子フェンリルを見る。
「グル!」
本人は何も分かっていない顔だった。
だが。
老人の目は真剣だった。
「ユウト」
初めて名前を呼ばれる。
「お前は祖父殿から何を受け継いだ?」
その問いに。
すぐ答えることはできなかった。




