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『初級魔術しか使えない俺が、なぜか最強に近づいている』  作者: 北こたろう


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母を知る者

「リシア様を」


 風が吹く。


 リアの表情が止まった。


 初めてだった。


 母の名前を。


 長老以外から聞いたのは。


「……知ってるの?」


 リアが小さく聞く。


 エルフの少女は少し困った顔をした。


「私は直接は知らないです」


「え?」


「生まれる前なので」


 一瞬だけ肩の力が抜ける。


 でも。


 続きがあった。


「ただ」


 少女は少しだけ笑った。


「里では有名でした」


 リアが固まる。


「有名?」


「はい」


 頷く。


「知らない人はいないと思います」


「そんなに?」


「そんなにです」


 即答だった。


 思わずリアと顔を見合わせる。


 本人の娘が一番知らない。


 なんとも言えない気分だった。


「どんな人だったの?」


 リアが聞く。


 少女は少し考える。


「うーん」


 一瞬だけ間。


「自由な人」


「自由?」


「はい」


「長老様達によく怒られてたって聞きました」


 思わず吹き出しそうになる。


 さっき長老が言っていたことと同じだ。


「やっぱりか」


 リアも苦笑する。


「お母さんっぽい」


 少女も笑った。


 その時。


「グル!」


 子フェンリルが突然立ち上がった。


「ん?」


 全員の視線が向く。


 子フェンリルはそのまま歩き出した。


 そして。


 少し先で振り返る。


「グル!」


 呼んでいる。


「どうした?」


「グル!」


 さらに尻尾を振る。


 明らかに付いて来いと言っていた。


「何か見つけたのか?」


 リアが立ち上がる。


 子フェンリルは答えない。


 そのまま森の奥へ向かった。


「おい待て!」


 慌てて追いかける。


 リアも。


 少女も続く。


 しばらく歩く。


 里の中心から少し離れた場所。


 人の姿も少ない。


「こんな場所あったんだな」


「ありますけど」


 少女が首を傾げる。


「こっちはあまり来ません」


 その時。


 子フェンリルが止まった。


「グル」


 視線の先。


 一人の老人が座っていた。


 白い髪。


 深い皺。


 かなりの高齢だろう。


 老人はゆっくり目を開く。


 そして。


 こちらを見る。


「ほう」


 静かな声。


 だが。


 その視線はリアではない。


 真っ直ぐユウトを見ていた。


「なるほど」


 一瞬だけ間。


「アークレイの子か」


 空気が変わった。


 初めてだった。


 里に来てから。


 誰かがユウトを目的に話しかけたのは。


「俺を知ってるんですか」


 老人は小さく笑う。


「お前ではない」


 そして。


 懐かしそうに目を細めた。


「祖父殿をな」


 子フェンリルは老人の横へ座った。


 まるで。


 最初からここへ来ると決めていたみたいに。

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