気配
「……誰かいる?」
リアが小さく呟く。
「分からん」
でも。
子フェンリルは明らかに何かを見ていた。
耳が立っている。
尻尾も止まっていた。
「グル」
低い声。
今まで聞いたことがない。
思わず立ち上がる。
リアも同じだった。
しばらくして。
森の奥。
木々の間から人影が現れた。
「……え?」
リアが固まる。
相手も止まった。
長い耳。
銀色の髪。
エルフだった。
年齢はリアと同じくらいに見える。
いや。
エルフだから分からない。
少なくとも若く見えた。
そのエルフは。
こちらを見る。
正確には。
リアを見ていた。
「……」
沈黙。
気まずい。
本人も来るつもりはなかったらしい。
どうしようか迷っている顔だった。
そして。
「ご、ごめんなさい!」
突然頭を下げた。
「え?」
リアが固まる。
「盗み聞きするつもりじゃなかったんです!」
「いや」
「その」
慌てている。
かなり慌てている。
さっきまでの神秘的な雰囲気が全部消えた。
「聞いてたのか?」
思わず聞く。
「少しだけ!」
少しじゃない気がした。
でも。
本人も気まずそうだった。
その時。
子フェンリルが近付く。
「グル」
「きゃっ!」
エルフが一歩下がる。
完全に驚いていた。
「フェ、フェンリル!?」
「グル」
本人は気にしていない。
むしろ興味津々だった。
「大丈夫」
リアが言う。
「噛まないから」
「そ、そういう問題じゃなくて」
エルフはまだ驚いていた。
でも。
少しずつ落ち着いてくる。
そして。
改めてリアを見る。
「……やっぱり」
「え?」
「似てる」
リアが首を傾げる。
「誰に?」
しまった。
そんな顔だった。
エルフの少女は口を押さえる。
でも。
もう遅い。
「知ってるのか?」
思わず聞く。
少女は観念したように肩を落とした。
そして。
小さく頷く。
「リシア様を」
風が吹く。
リアの表情が止まった。
初めてだった。
母の名前を。
長老以外から聞いたのは。




