追いついた先
部屋を飛び出す。
廊下を抜ける。
階段を下りる。
でも。
リアの姿は見当たらなかった。
「どこだ」
「グル!」
子フェンリルは迷わない。
そのまま外へ飛び出していく。
「待て!」
慌てて追いかけた。
◇
里の中心から少し離れた場所。
大樹の根が大きく張り出した広場だった。
リアはそこにいた。
座っている。
何をするでもなく。
ただ地面を見ていた。
「……リア」
声を掛ける。
リアは少しだけ顔を上げた。
「あ」
それだけだった。
驚いた様子もない。
逃げる様子もない。
ただ。
何を話せばいいのか分からない顔だった。
「グル」
子フェンリルが先に近付く。
リアの横へ座る。
そして。
何事も無かったみたいに丸くなった。
「お前は自由だな」
「グル」
返事だけはする。
少しだけ空気が緩んだ。
でも。
沈黙は続く。
風だけが吹いていた。
「……ごめん」
先に口を開いたのはリアだった。
「なんで謝るんだ」
「分からない」
小さく笑う。
「なんか色々」
そして。
また黙る。
しばらくして。
リアがぽつりと言った。
「お母さんがエルフだったんだって」
確認するような声だった。
「らしいな」
「他人事みたい」
「まあ」
否定できない。
「私もそう思う」
リアは苦笑する。
「だって急すぎる」
「昨日まで普通だったのに」
「今日になったら」
一瞬だけ間。
「実はエルフでしたって」
思わず苦笑した。
確かにその通りだった。
「しかも」
リアが空を見上げる。
「長老は知ってたんだよね」
「ああ」
「学園長もたぶん知ってた」
「かもな」
リアは少しだけ唇を噛んだ。
「私だけ知らなかった」
その言葉だけは重かった。
怒っているわけじゃない。
泣いているわけでもない。
ただ。
本当に整理がついていない。
そんな声だった。
「……なあ」
思わず聞く。
「怒ってるのか」
リアは少し考えた。
そして首を振る。
「分からない」
正直な答えだった。
「怒ってるのか」
「悲しいのか」
「びっくりしてるのか」
一瞬だけ間。
「全部かもしれない」
その時。
「グル」
子フェンリルが立ち上がる。
そして。
リアの膝へ前足を乗せた。
「うわ」
「グル」
さらに乗る。
「重い」
「グル!」
全く気にしていない。
リアが少しだけ笑った。
本当に少しだけ。
でも。
さっきより自然な笑顔だった。
その様子を見ながら。
少しだけ安心した。
少なくとも。
完全に一人になったわけじゃなかった。




