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『初級魔術しか使えない俺が、なぜか最強に近づいている』  作者: 北こたろう


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エルフ

「お前の母はエルフだ」


 部屋の空気が止まった。


 リアの瞳だけが、

 大きく揺れていた。


「……え?」


 小さな声だった。


 理解が追いついていない。


「待って」


 リアが首を振る。


「母は人間です」


 答えたのは先ほどの女性エルフだった。


「少なくとも、お前が知っている全てではない」


 リアが言葉を失う。


「そんな……」


「母は何も言っていなかった」


「言えなかったのだろう」


 長老が静かに言う。


「里を出た者の中には、自ら過去を語らぬ者もいる」


 部屋が静まり返る。


 リアは俯いたまま動かない。


 今まで信じていたものが、

 一気に揺らいでいた。


「……長老」


 震える声。


「母を知っているんですか」


「ああ」


 短い返事。


「知っている」


「どれくらい?」


 長老は少しだけ考えた。


「お前が生まれる前からだ」


 リアが息を呑む。


 それは。


 想像していたより、

 ずっと長い時間だった。


「じゃあ」


「母は本当にエルフなんですか」


「ああ」


 長老は迷わない。


「間違いない」


 即答だった。


 だからこそ。


 リアは反論できなかった。


「そんなの……」


 小さく呟く。


「聞いたこともない」


「当然だ」


 長老が静かに言う。


「お前の母は、自分から語らなかった」


「どうして」


 一瞬だけ沈黙。


 長老は視線を落とす。


「それは本人にしか分からん」


 静かな声だった。


 再び沈黙が落ちる。


 誰も急かさない。


 誰も言葉を挟まない。


 リアは俯いたままだった。


 そして。


 ゆっくり立ち上がる。


 誰も止めない。


 長老も。


 長老会も。


 ただ静かに見ていた。


 今は言葉を掛ける時ではない。


 そう分かっていたからだ。


 リアは何も言わない。


 そのまま扉へ向かう。


 歩幅はいつも通り。


 急ぎもしない。


 逃げるようでもない。


 ただ。


 一人で考えたかった。


 カチャ。


 小さな音。


 扉が閉まる。


 その瞬間。


「グル」


 子フェンリルだけが顔を上げた。


 閉まった扉を見る。


 そして立ち上がる。


「グル」


 長老が小さく目を向ける。


 ユウトはまだ動けなかった。


 頭の整理が追いついていない。


 その時。


 長老が静かに口を開く。


「行ってやれ」


「……え?」


 思わず顔を上げる。


「今はお前の役目だ」


 短い言葉だった。


 でも。


 十分だった。


 子フェンリルはもう扉の前にいる。


「グル!」


 急かすような声。


「分かった」


 立ち上がる。


 そして。


 リアの後を追った。

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