結界の先に
森へ入ってから、
一時間ほど経った。
でも。
景色はほとんど変わらない。
木。
木。
また木。
「本当に道あるのか?」
思わず呟く。
長老は前を歩いたまま答えた。
「ある」
短い。
相変わらず短い。
「見えないけど」
「見えなくていい」
さらに短い。
リアが小さく笑う。
「会話終わった」
「終わったな」
その時。
前を走っていた子フェンリルが戻ってくる。
「グル!」
「早いな」
尻尾を振っている。
完全に散歩気分だった。
さらに三十分ほど歩く。
でも。
途中から違和感が出始めた。
「……ん?」
リアが立ち止まる。
「どうした?」
「今」
リアが森の奥を見る。
「何か聞こえた」
一瞬だけ空気が変わる。
でも。
自分には分からない。
「鳥じゃないのか?」
「違うと思う」
リアは少しだけ眉を寄せる。
その時。
長老が初めて足を止めた。
「聞こえるか」
「はい」
リアが静かに頷く。
「水の音」
思わず周囲を見る。
でも。
川なんて見えない。
「聞こえないぞ?」
「普通は聞こえん」
長老が静かに言う。
「里が近い」
一瞬だけ空気が変わる。
「え?」
「入口だ」
そう言って長老は前へ進む。
その瞬間だった。
景色が揺れる。
「!?」
思わず足を止める。
木々の間。
何も無かった場所。
そこに。
細い道が現れていた。
「な……」
言葉が出ない。
さっきまで無かった。
確実に無かった。
「これが……」
「結界だ」
長老が静かに言う。
「許された者にしか見えん」
リアが黙ったまま道を見る。
その横顔が少しだけ強張っていた。
「リア?」
「……分からない」
小さな声。
「でも」
リアが道の奥を見る。
「なんか懐かしい」
一瞬だけ。
長老の目が細くなる。
でも。
何も言わなかった。
その時。
子フェンリルが真っ先に道へ飛び込む。
「グル!」
次の瞬間。
森の空気が変わった。
風。
匂い。
光。
全部が違う。
そして。
道の先。
木々の向こうに、
初めて屋根が見えた。
エルフの里だった。




