祖父の話
夜風が静かに部屋へ入ってくる。
でも。
誰もすぐには喋らなかった。
「……なりかけたって、どういう意味ですか」
静かに聞く。
長老は少しだけ目を閉じた。
「フェンリルの加護は、“相性”だけでは完成せん」
「完成……」
「加護は、宿っただけでは不完全だ」
長老が静かに剣を見る。
「本当に馴染むには、“越えなければならない壁”がある」
意味が分からない。
でも。
長老の声は妙に重かった。
「祖父は越えられなかったんですか?」
その瞬間。
長老が小さく笑う。
「違う」
「……?」
「あいつは、越える前に引き返した」
一瞬、
空気が止まる。
「引き返した?」
「ああ」
長老は静かに頷く。
「仲間を優先した」
その言葉だけで、
妙に祖父らしい気がした。
でも。
「それって悪いことなんですか?」
「悪くはない」
長老が即答する。
「むしろ、あいつらしい」
その時。
レオンが静かに口を開く。
「……加護を完成させると、どうなる」
長老の目が少し細くなる。
「フェンリルと同じ魔力循環へ近づく」
「同じ?」
「四属性を自然循環させる身体になる」
一瞬だけ部屋が静かになる。
ガルドが真顔になる。
「いや待て」
「それ人間やめてないか?」
「完全には至らん」
長老は静かに言う。
「だが、人間としては異常な領域へ入る」
その時。
子フェンリルが、
急に剣へ前脚を乗せた。
「グル」
同時に。
紋様がまた微かに光る。
「っ……!」
身体の奥。
魔力が流れる。
でも。
前より自然だった。
「……馴染んでる」
リアが小さく呟く。
「さっきより安定してる」
長老も静かに頷く。
「やはり早い」
その目が、
少しだけ鋭くなる。
「ユウト」
「はい」
「お前、昔から妙に勘が鋭かったりしなかったか」
一瞬止まる。
「……あ」
「あるのか?」
レオンが見る。
「なんか、初めての場所でも気配分かったり」
「魔術も感覚で分かる時ある」
「もっと早く言え」
「普通だと思ってた」
ガルドが頭を抱える。
「どこが普通だよ……」
でも。
長老だけは納得した顔だった。
「加護との適性が高いのだろう」
その時だった。
コンコン。
扉が鳴る。
全員の視線が動く。
「こんな時間に?」
ガルドが首を傾げる。
レオンが警戒しながら扉へ近づく。
「誰だ」
数秒の沈黙。
そのあと。
「……俺だ」
低い男の声。
一瞬。
子フェンリルの耳が動く。
「グル……!」
今までと違う反応だった。
警戒じゃない。
でも。
落ち着かないみたいに、
ゆっくり立ち上がる。
長老が静かに目を細める。
「……そうか」
「知ってる人ですか?」
長老は小さく息を吐く。
そして。
「お前達」
静かな声。
「今夜は、眠れんぞ」




