紋様
部屋の空気が止まっていた。
「……なんだ、それ」
ガルドの声が引きつる。
剣の鍔。
そこに。
淡い銀色の紋様が浮かび上がっていた。
見たことがない。
でも。
妙に目を離せなかった。
「グル……」
子フェンリルも、
静かに剣を見ている。
長老だけが、
目を細めたままだった。
「長老?」
呼びかける。
でも。
すぐには返事がない。
「……その紋様」
長老が小さく呟く。
「昔、一度だけ見たことがある」
一瞬で空気が変わる。
「え?」
「お前の祖父だ」
思わず剣を見る。
「祖父にも……?」
「ああ」
長老は静かに頷く。
「だが、完全に現れたのは一度だけだった」
「完全に?」
その時。
紋様が、
一瞬だけ強く光る。
「っ!?」
同時に。
身体の奥が熱くなる。
火。
水。
風。
土。
四属性の魔力が、
一気に流れ始める。
「ユウト!」
リアが立ち上がる。
でも。
苦しくはなかった。
むしろ逆。
妙に自然だった。
「……魔力が循環してる」
レオンが低く呟く。
その目が少し鋭くなる。
「普通の流れじゃない」
「当然だ」
長老が静かに言う。
「フェンリルの加護は、魔力循環を強化する」
その時。
子フェンリルが、
俺の足元へ座る。
安心したみたいに。
「グル」
「お前は落ち着いてるな……」
思わず苦笑する。
でも。
長老だけは真面目だった。
「……妙だな」
「何がです?」
「加護の馴染みが早すぎる」
一瞬だけ静かになる。
「普通、人間はもっと拒絶反応が出る」
「拒絶反応?」
「魔力酔い」
「循環暴走」
「最悪、身体が壊れる」
ガルドの顔が引きつる。
「いや怖ぇこと言うなよ!?」
でも。
長老は剣を見る。
それから。
静かに呟いた。
「やはり……」
「?」
「グレンの時と同じか」
その瞬間。
部屋が静かになる。
「祖父も……加護持ちだったんですか?」
聞くと。
長老は少しだけ黙る。
夜風が吹く。
そのあと。
「いや」
静かな声。
「正確には、“なりかけた”」
「……え?」
長老の目が、
ゆっくり剣へ向く。
「だが、あいつは最後まで完全には届かなかった」
一瞬だけ。
空気が変わる。
レオンも、
リアも、
黙っていた。
「ならなんで……」
思わず聞く。
すると。
長老が、
初めて少しだけ笑った。
「……お前の方が、フェンリルに気に入られたんだろう」




