屋根の上
月明かり。
静かな夜。
でも。
空気だけが張り詰めていた。
「……誰だ」
レオンの声が低くなる。
窓の外。
寮の屋根の上に、
一人の影が立っていた。
「警戒するな」
静かな声。
聞き覚えがあった。
「……長老」
リアが小さく呟く。
長老は静かに屋根へ立っていた。
夜風でローブが揺れる。
でも。
昼間と同じで、
存在感だけが異様だった。
「こんな時間にどうした」
レオンが聞く。
長老は窓の奥を見る。
子フェンリル。
「様子を見に来た」
静かな声だった。
子フェンリルは、
長老を見る。
でも昼間ほど警戒していない。
「グル」
「少しは慣れたか」
長老が小さく笑う。
その時。
長老の視線が、
ゆっくり剣へ向いた。
「……その剣」
一瞬だけ空気が止まる。
長老が静かに目を細める。
「グレン・アークレイは元気か」
一瞬、
頭が止まる。
「……え?」
思わず聞き返す。
「なんで祖父の名前を……」
長老が小さく息を吐く。
「そうか」
「なら、やはりあいつの孫か」
ガルドが固まる。
「え、マジで知り合いなのか?」
「ああ」
長老は静かに頷く。
「昔、一緒に旅をした」
夜風が吹く。
長老の目だけが、
少し遠くを見ていた。
「今よりずっと若い頃だ」
「祖父って……そんな凄かったのか?」
思わず呟く。
でも長老は少し笑う。
「面倒な男だった」
「えぇ……」
「だが強かった」
短い言葉。
でも。
妙に重みがあった。
その時。
子フェンリルが、
剣へ近づく。
鼻を寄せる。
そして。
静かにその横へ座った。
「……やっぱり反応してる」
リアが小さく呟く。
「フェンリルは魔力の流れを見る」
長老が静かに言う。
「お前の四属性」
「その剣」
「そして加護」
「全部が繋がっている」
でも。
まだ意味は分からない。
「加護って、結局なんなんですか」
聞くと。
長老は少しだけ考える。
「簡単に言えば、“認められた証”だ」
「認められた……」
「フェンリルは誇り高い魔獣だ」
静かな声。
「力だけで加護は与えん」
一瞬だけ。
フェンリル母の最後の姿が浮かぶ。
傷だらけでも、
子を守って立ち上がった姿。
「……」
長老が静かにこちらを見る。
「お前は、あのフェンリルに敵ではないと認められた」
その言葉だけは、
妙に胸へ残った。
その時だった。
「グル!」
子フェンリルが、
突然立ち上がる。
剣へ鼻を寄せる。
次の瞬間。
カチッ。
小さな音が響いた。
「……え?」
剣の鍔。
今まで無かったはずの紋様が、
微かに浮かび上がっていた。
一瞬で空気が変わる。
長老が目を見開く。
「……まさか」
初めてだった。
長老の表情が、
明確に揺れたのは。




