帰る場所
森の奥へ消えていく背中を、
誰もしばらく動かず見ていた。
「……行った」
ガルドが小さく呟く。
でも。
子フェンリルだけは、
その場から動かなかった。
「グル……」
小さく鳴く。
追いかけようとはしない。
ただ、
じっと森の奥を見ている。
「……」
長老が静かに目を閉じる。
「戻るつもりはないのだろう」
「え?」
リアが顔を上げる。
「怪我が深い」
静かな声だった。
「恐らく、自分でも長くないと分かっている」
一瞬だけ空気が止まる。
子フェンリルが、
少しだけ身体を震わせた。
まるで理解しているみたいに。
「そんな……」
ガルドが言葉を失う。
その時。
教師達が周囲確認を始める。
「負傷者確認!」
「周囲警戒続けろ!」
さっきまでの空気が、
少しずつ現実へ戻っていく。
でも。
子フェンリルだけが動かない。
そして。
ゆっくりこっちを見る。
「……来るなよ?」
ガルドが一歩下がる。
でも子フェンリルは、
そのまま真っ直ぐ歩いてきた。
そして。
また俺の隣へ座る。
「おい」
「グル」
「いや返事するな怖い」
リアが少し笑う。
「完全に懐いてる」
「笑い事じゃねぇって!」
でも。
レオンだけは真面目だった。
「……加護持ちになったなら、もう完全には切れないかもしれん」
「切れない?」
「フェンリル側も魔力を覚える」
レオンが子フェンリルを見る。
「多分、もうお前を仲間認識してる」
「仲間……」
実感はない。
でも。
子フェンリルは、
本当に離れる気配がなかった。
その時。
「問題は学園側だな」
教師の一人が頭を押さえる。
「フェンリルを連れて帰るとか前例がない」
「絶対揉めるぞこれ……」
別の教師も疲れた顔だった。
でも。
長老だけは静かだった。
「ならば預かろうか」
一瞬で全員が長老を見る。
「え?」
「エルフの里なら問題ない」
長老が子フェンリルを見る。
「本来ならそちらが自然だ」
子フェンリルが、
長老を見る。
数秒。
そして。
プイッと顔を逸らした。
「……おい」
ガルドが吹き出す。
「嫌がってないか?」
「完全に嫌がってる」
リアが即答する。
長老ですら、
少しだけ困った顔をした。
「なるほど」
小さく息を吐く。
「そこまでか」
「グル」
子フェンリルは、
さらに俺の近くへ寄ってくる。
教師達が頭を抱える。
「どうすんだこれ……」
その時。
レオンが小さく笑った。
「……まぁ」
「?」
「お前らしい」
「何それ」
「昔から変なものに懐かれる」
「そんな覚えないけど」
「ある」
リアが即答した。
「鳥とか猫とか」
「あと犬」
「え、なんで知ってんの?」
「見てた」
「怖っ」
でも少しだけ。
空気が軽くなる。
その中で。
長老だけが、
静かにこちらを見ていた。
「……アークレイ」
「はい?」
「その剣と加護」
長老が小さく目を細める。
「いずれ、お前を大きく変える」
静かな声だった。
でも。
なぜかその言葉だけは、
妙に胸へ残った。




