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『初級魔術しか使えない俺が、なぜか最強に近づいている』  作者: 北こたろう


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2/15

夜の訓練場

高等部の寮は、思っていたより静かだった。


 特に夜になるとそうだ。


 昼間は騒がしい連中も、訓練や授業で疲れて寝るらしい。


 俺は木剣を肩にかけたまま、寮の裏へ向かう。


 月明かりだけの訓練場。


 昼間と違って誰もいない。


「……よし」


 剣を抜く。


 無属性強化。


 足に魔力を流す。


 踏み込み。


 斬る。


 もう一歩。


 今度は風属性。


 身体が軽くなる。


 そのまま火球を一つ。


 さらにもう一つ。


 三つ目。


「っ……」


 魔力が乱れる。


 火球が弾けて消えた。


「……まだか」


 額の汗を拭う。


 高等部に入ってから、少しずつ感覚は変わってきていた。


 今までより魔力が流れる。


 でも、何かが足りない。


 あと少し届きそうなのに、その先へ行けない。


「またやってる」


 声。


 振り向く。


 昨日の女子生徒だった。


 青銀色の髪が月明かりに反射している。


「……こんばんは」


「毎日?」


「まあ」


 彼女は少し黙って、俺の火球を見る。


「それ、三重展開?」


「うん」


「初級で?」


「初級だから、かな」


「普通はそんなことしない」


「効率悪いし?」


「……そう」


 昨日と同じ返しだった。


 でも今日は帰らない。


 そのまま近くの柵にもたれかかる。


「名前」


「え?」


「まだ聞いてない」


「ああ……ユウト」


「私はリア」


 短い。


 でも不思議と嫌な感じはしなかった。


「リアは訓練しないの?」


「した後」


 そう言って、リアは小さく水球を浮かべた。


 綺麗だった。


 ほとんど揺れていない。


「中級?」


「うん」


「すごいな」


「普通」


 即答だった。


 高等部じゃ、それが普通なんだろう。


 少し羨ましい。


 俺も中級が使えたら、もっと楽だったのかもしれない。


「……なんでそこまで初級やるの」


 リアが聞く。


 俺は少し考える。


「なんでだろ」


「分からないの?」


「いや、強くなりたいのはあるけど」


 火球を浮かべる。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 四つ目。


 揺れる。


「なんか、まだ伸びそうだから」


 四つ目が弾けた。


 リアが少しだけ目を細める。


「変なの」


「よく言われる」


「褒めてない」


「知ってる」


 少しだけ空気が緩む。


 その時だった。


 訓練場の入口から足音が聞こえた。


「……いたか」


 低い声。


 赤髪。


 レオン・ヴァルセイド。


 昨日の模擬戦の男だった。


 レオンは俺を見る。


 次に、浮かんでいる火球を見る。


「夜まで初級か」


「……悪い?」


「いや」


 レオンは少しだけ眉を寄せた。


「そこまでやって、まだ中級に届かないんだなと思っただけだ」


 空気が止まる。


 でも、別に怒る気にはならなかった。


 実際そうだからだ。


「まあ、それは俺も思ってる」


「……」


 レオンが少し黙る。


 リアが横から口を開いた。


「でも昨日の制御、ちょっと変だった」


「変?」


「初級の精度じゃない」


 レオンがリアを見る。


「お前、リア・フィンネルか」


「……何」


「B上位だったな」


「だから?」


「いや」


 レオンは再び俺を見る。


「次の実戦演習、Cクラスも出るらしい」


「らしいな」


「死ぬなよ」


 それだけ言って去っていく。


 俺は少し息を吐いた。


「感じ悪いな」


「でも間違ってない」


 リアは静かに言う。


「実戦は、本当に死ぬ」


 その言い方が少しだけ気になった。


 でも聞く前に、リアは歩き出していた。


「戻る」


「おう」


 去っていく背中。


 でも途中で一度だけ止まる。


「……ユウト」


「ん?」


「四重展開、普通じゃないから」


 そう言って今度こそ去っていった。


 一人だけ残る。


 夜風が少し冷たかった。


 俺は木剣を握り直す。


「……あと少しなんだけどな」

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