魔法書庫閲覧前日
魔法書閲覧の前日。
高等部の空気は、いつもより少し浮ついていた。
「今年誰が選ばれるかな」
「Aクラスはほぼ確定だろ」
「中級二つ目狙う奴もいるらしいぞ」
廊下を歩くだけで、そんな話が聞こえる。
魔法書閲覧。
年に一度だけ開かれる、学園の魔法書庫。
中級魔術を得る機会。
高等部にいる以上、
誰にとっても特別な日だった。
「ユウト」
昼休み。
図書棟へ向かっている途中で呼ばれる。
リアだった。
「何」
「緊張してる?」
「少し」
正直に答える。
リアは少しだけ考える顔をした。
「珍しい」
「そりゃするだろ」
「ユウト、あんまり動じないから」
「そんなことない」
普通に緊張はする。
もし反応しなかったら。
もし何も起きなかったら。
そう考えると、
少しだけ胸が重かった。
「……でも」
リアが小さく口を開く。
「私は反応すると思う」
「なんで」
「なんとなく」
「適当だな」
「勘」
全然信用できない。
でもリアは妙に真面目だった。
「おい」
後ろから声。
レオンだった。
「お前らまた一緒か」
「偶然」
「最近毎回それ言うな」
レオンが少し呆れた顔をする。
「レオンは?」
「何が」
「緊張してる?」
一瞬だけ。
レオンが黙る。
「……少しは」
「するんだ」
「当然だ」
でもレオンは、
すぐにいつもの顔へ戻った。
「魔法書は実力だけじゃない」
「適性、だろ?」
「ああ」
レオンは静かに頷く。
「どれだけ熟練が高くても、拒まれる奴はいる」
少しだけ空気が静かになる。
魔法書は誰でも読めるわけじゃない。
選ばれる。
だから特別だった。
「まあお前なら平気だろ」
俺が言う。
レオンはAクラス上位だ。
火属性中級も既に高い。
「分からん」
でもレオンは短く答えた。
「魔法書相手に絶対はない」
その言葉だけ、
少し重かった。
◇
夜。
寮の部屋。
木剣を握る。
静かだった。
窓の外では風が鳴っている。
「……」
火。
水。
風。
土。
小さく展開する。
慣れた感覚。
身体の一部みたいに流れる魔力。
でもその先だけが、
ずっと遠かった。
『熟練度10』
昼の言葉を思い出す。
あと少し。
でも、そのあとどうなるのかは知らない。
祖父も詳しくは教えてくれなかった。
『焦るな』
いつもそれだけだった。
「……焦るだろ普通」
小さく呟く。
その時だった。
コンコン。
部屋を叩く音。
「ユウト」
ガルドだった。
「何」
「明日さ」
珍しく少し静かな声だった。
「……お前なら、多分いける」
一瞬だけ止まる。
「なんだ急に」
「いや、なんとなく」
それだけ言って去っていく。
「……なんだアイツ」
でも少しだけ。
肩の力が抜けた気がした。
窓の外を見る。
明日。
ようやく、
魔法書庫が開く。




