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宮廷をクビになった四十路の魔導具修繕士、廃棄された古代兵器を直して最強の工房を開く  作者: 秋葉 詩
第1部『落魄の技師と鉄屑の乙女』

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第23話 白銀の覚醒と、深淵の殲滅

第22話では、仲間たちが命懸けで防衛線を死守する中、ロディの神業手作業によってアリアの心核再構築(リビルド)手術が成功しました。

第23話では、完全覚醒を果たしたアリアが戦場へ降臨!仲間たちを救うため、圧倒的な力で古代の侵食体群を一掃する爽快な無双劇をお届けします!

 下町の石畳の上に、金属の擦れる鈍い悲鳴が響き渡っていた。


 ガルバが打ち込んだ厚さ五センチの耐熱合金板は、無数に群がる『深淵の侵食体(しんしょくたい)』のドリルによって削られ、赤黒い火花を撒(ま)き散らしている。

 三方向から押し寄せる黒い怪物の数は、優に四十を超えていた。


「くそっ……! 中和液のタンクが空になっちまった!」


 トビアスが背中の噴霧器のコックを必死に叩いたが、ノズルからは乾いた空気しか吹き出さなかった。

 少年の額には汗と煤(すす)が混ざり合って流れ、握りしめたレンチを持つ手が疲労で小刻みに震えている。


「下がるな、小僧! 俺の背中に隠れてな!」


 前衛で仁王立ちになったヴァルガスが、刃こぼれした大斧(おおおの)を豪快に振り抜いた。


 ――ドガァァァンッ!


 突進してきた侵食体二体の胴体を叩き折る。

 だが、その直後、左右から飛びかかってきた別の二体のドリルが、ヴァルガスの分厚い毛皮外套(がいとう)を掠(かす)め、赤い血煙が夜風に散った。


「ぐっ……!」


「ヴァルガス殿!」


 エレナが地を蹴り、白銀の魔導剣『ブレイズ・キャリバー』で怪物の首筋を切り裂く。

 しかし、休みなく剣を振るい続けたエレナの足元も、極度の魔力消費によってふらつきを見せていた。


 そこへ、地響きとともに現れたのは――全高三メートルを超える大型の侵食体、さらに二体。

 太いドリル腕を回転させ、防護壁ごと全員を押し潰そうと突進してくる。


「しまっ……! 防壁が持たん!」


 ガルバが鉄槌(かなづち)を構えて叫んだ。


 ――ガギィィィィンッ!


 ついに支柱のボルトが引き千切れ、分厚い鉄板の防壁が大きく跳ね上がった。

 逃げ場のない路地に、紅蓮(ぐれん)の単眼を光らせた怪物たちが一斉に雪崩(なだ)れ込んでくる。


 誰もが死を覚悟した、まさにその瞬間だった。


 ギィ……。


 背後にある工房の引き戸が、音もなく静かに開かれた。


「――そこまでです」


 夜の闇を透き通すような、凛(りん)とした少女の声。


 次の瞬間、工房の入り口から溢れ出たのは、目も眩(くら)むような純白の光の奔流(ほんりゅう)だった。


 シュッ……!


 音速を置き去りにする極小の足音。

 白銀の閃光(せんこう)が、突進してきた大型侵食体の真正面へと滑り込んだ。


 藍色(あいいろ)のリボンを夜風になびかせ、解体台から降り立ったアリアだ。

 その左腕に装着された『パイル・アンカー』は、ロディの心核リビルドによって古代の封印を完全に解き放たれ、まばゆい光の刃を形成していた。


『個体識別、敵性自律兵器群。……マスターおよび仲間たちへの攻撃行動を確認』


 アリアの瞳の奥で、澄み切った幾何学の紋様が高速で回転する。


『――環境阻害要因の即時パージ(完全消去)を実行します』


 ドッ!


 アリアの小柄な身体が、わずかに沈み込んだ。

 踏み込みの瞬間、周囲十メートルの石畳がクレーター状に陥没し、凄まじい衝撃波が巻き起こる。


 大型侵食体が繰り出した三叉ドリルの一撃を、アリアは左腕の光刃で軽く受け流した。


 ――キィィィン!


 澄み渡るような硬質な金属音。

 怪物の回転するドリルが、アリアの光刃に触れた瞬間、まるで薄氷のように粉々に砕け散った。


「ギガッ……!?」


『第一目標、心核フレームの強制解放』


 アリアの右手の掌が、大型怪物の胸部中央――装甲の最も分厚い一点へと吸い込まれるように触れた。


 ――ズドォォォォンッ!!


 ゼロ距離で解き放たれた、超高密度の衝撃波。

 全高三メートルの巨体が、まるで巨砲で撃ち抜かれたかのように背後の石壁まで吹き飛び、空中で完全に装甲が四散した。


「な……んだと……!?」


 傷口を押さえていたヴァルガスが、目を丸くして立ち尽くした。

 自分たちが束になってようやく一体倒した怪物を、触れただけで塵(ちり)に変えてしまったのだ。


 だが、アリアの猛威はそれだけにとどまらなかった。


『残存敵性体、三十八機。……全周囲殲滅(ぜんしゅういせんめつ)機動へ移行』


 アリアの背部スラスターが、純白のエーテル粒子を翼のように噴射した。


 残像すら残さない神速の機動。

 夜の路地に、幾重にも重なる白銀の光の線が描かれていく。


 スパァンッ! バキィンッ! ドガァンッ!


 アリアが一閃するたび、侵食体の関節が外れ、ドリルが切り落とされ、動力炉が正確無比に貫かれていく。

 力任せの破壊ではない。

 ロディが教え込んだ『構造の急所』を、髪の毛一本分の狂いもなく的確に突く、美しき解体の舞踏(ぶとう)だった。


「す、すごい……! 怪物の動きの隙間を、全部見切ってる……!」


 トビアスが息を呑んで見つめる。


 残るもう一体の大型侵食体が、狂乱したように全出力をドリルに集中させ、アリアの頭上から振り下ろした。


 だが、アリアは避けることすらしなかった。


『パイル・アンカー、最大臨界――聖滅杭《セイクリッド・ニードル》』


 カチリ、と機構が噛み合う音が響いた直後。


 ――ズバァァァァァンッ!!


 アリアの左腕から放たれた白銀の光杭が、振り下ろされた巨大ドリルを正面から両断し、そのまま大型怪物の心核を貫通して夜空へと突き抜けた。


 怪物の巨体が、内部から溢れ出た光によって静かに融解していく。


 ――シィィィン……。


 立ち上る煙の中、残るすべての侵食体が床に転がり、完全に機能を停止していた。

 戦闘開始から、わずか三十秒足らず。

 あれほど仲間たちを苦しめた大軍が、たった一人によって全滅させられていた。


◇


 静まり返った通りの中央で、アリアは静かに腕の武装を収めた。


 パシュッ、と冷涼な排熱蒸気が漏れ、彼女の纏(まと)っていた光が穏やかな藍色の輝きへと戻っていく。

 アリアはゆっくりと振り返り、傷だらけの仲間たちのもとへ歩み寄った。


「……アリアちゃん……!」


 工房の扉から駆け出してきたセリアが、涙を流しながらアリアの身体を強く抱きしめた。


「よかった……! 本当に、無事でよかった……!」


「セリア殿。……ご心配をおかけしました。心核の異常は、マスター・ロディの手によって完全に修復されました」


 アリアはセリアの背中にそっと手を回し、不器用ながらも温かく抱き返した。


 そして、アリアはトビアス、ガルバ、エレナ、ヴァルガスの前へ進み出ると、スカートの裾を軽く持ち上げ、深々と頭を下げた。


「トビアス殿、ガルバ殿、エレナ殿、ヴァルガス殿。……私の修繕が完了するまでの間、自らの命を賭してマスターと工房を守護していただいたこと……心より、感謝いたします」


 機械の定型文ではない。

 心核の最深部から紡ぎ出された、魂のこもった感謝の言葉だった。


「お、おいおい……礼を言うのはこっちだぜ」


 ヴァルガスが豪快に頭を掻(か)き、傷口を手拭いで縛りながら笑った。


「あんな化け物じみた強さを見せられたら、Sランク冒険者の看板が泣いちまうな。……助かったぜ、アリアの嬢ちゃん」


「アリア殿が無事で、本当によかった」


 エレナも剣を鞘(さや)に納め、安堵(あんど)の笑みを浮かべた。


「アリアさん……俺、親方から教わった中和剤とトラップ、ちゃんと役に立ちました!」


 トビアスが誇らしげに胸を張ると、アリアは小さく首を傾げ、トビアスの頭にそっと手を置いた。


「肯定。トビアス殿の散布した中和剤により、敵前衛の魔力流動が三四パーセント低下していました。……立派な、職人の働きでした」


「……っ! はいっ!」


 トビアスは感激に目を潤ませた。


「やれやれ……。俺の手術代を請求する前に、外の片付けが終わっちまったな」


 工房の敷居から、作業着の袖をまくったロディが歩み出てきた。

 手には使い慣れた万能工具槍を携え、煙管の煙をくゆらせている。

 顔には濃い疲労の色が浮かんでいたが、その瞳は澄み切っていた。


「親方!」


「ロディ殿、体調は大丈夫なのか?」


「ああ。指先がちと痺(しび)れてるが、大仕事の後はいつものことだ。……それよりアリア、調子はどうだ」


 ロディが問いかけると、アリアは自らの左胸に手を当てた。


「完全同期状態を維持。……マスターが心核を再構築してくださったおかげで、旧文明の封印コードが完全に浄化され、出力効率が従来比で二百二十パーセントに向上しています」


「そうか。……なら、仕上げにかかるぞ」


 ロディは手元の工具槍の穂先を、転がっている大型侵食体の頭部残骸へと突き立てた。


(――『構造解読(リバース・エンジニアリング)』)


 青紫の光が残骸を透過し、内部に残された通信回路の履歴を辿(たど)っていく。


「……やっぱりな。こいつらを操っていた信号の送信元が、はっきりと記録されてやがる」


 ロディの言葉に、エレナが鋭い表情を向けた。


「どこからだ、ロディ殿」


「帝都の真下――深度五千メートル。旧文明の遺構のさらに下にある、古代エネルギー炉の最深部だ。……そこに鎮座している『クリムゾン・コア』が、帝都全土の地下魔導網を乗っ取ろうとしてやがる」


『マスターの解析を補足します』


 アリアの瞳に、帝都地下の深層断面図が投影された。


『クリムゾン・コアは、かつての大戦期に製造された「超広域魔力吸収炉」です。先ほどのアリアの心核掌握に失敗したことで、コアは最終プロトコル――「帝都地盤の強制融解シークエンス」へ移行しました』


「地盤の強制融解……!?」


 セリアが悲鳴のような声を上げた。


『肯定。あと二十四時間で、帝都中央部を支える地下岩盤がマグマ化し、帝都全域が地下五千メートルの深淵へと呑み込まれます』


 重苦しい静寂が、夜の通りを支配した。

 敵国の侵攻や貴族の不正などとは次元の違う、帝都壊滅の真のカウントダウンだった。


「二十四時間か……」


 エレナが唇をきつく引き結んだ。


「近衛騎士団の全戦力を動員して、地下五千メートルへの突入部隊を編成する! だが……あの深度の超高熱とオメガ波に耐えられる装備が……!」


「騎士団を動かす必要はねえよ」


 ロディは煙管の灰をコンと落とし、工具槍を力強く握り直した。


「大軍を送り込んだところで、熱と魔力毒で蒸し焼きになるだけだ。必要なのは、古代の炉心をピンポイントで止める『鍵』と、現場で回路をバラせる『職人の腕』だけだ」


 ロディはアリア、トビアス、ガルバ、ヴァルガス、エレナを順番に見据えた。


「俺とアリアで、一番底まで潜ってあのイカれた炉心をぶっ叩いて止める。……セリア、工房にある一番頑丈な耐熱防護服と掘削装備を全部引っ張り出せ」


「はいっ! すぐ準備します!」


「親方、俺も行きます! 現場で配管のバイパスを繋ぐ役なら、俺にもできます!」


 トビアスが真剣な眼差しで食い下がる。


「よし、ついてこい。お前のヤスリの腕を見せてみろ」


「ガハハッ! 地獄の底まで付き合ってやるぜ! ロディの旦那!」


 ヴァルガスが血のついた大斧を担ぎ直し、野太い笑い声を上げた。


 四十路の修繕士と、完全覚醒した古代の乙女。

 そして固い絆で結ばれた下町の仲間たちが、帝都の命運を懸けた最後の深淵突入へ向けて、静かに立ち上がった。

お読みいただきありがとうございました!

完全覚醒したアリアの圧倒的な無双劇と、仲間たちへの心温まる感謝でした!

そして判明した帝都沈没までのタイムリミット「二十四時間」。

いよいよ物語は、第1部の最終決戦――地下五千メートルの『クリムゾン・コア』討伐へと突入します!

次回:『第24話 深淵五千メートルと、灼熱の回廊』

帝都の最深部へ突入したロディたちを、古代の超高熱トラップと守護機構が迎え撃ちます。お楽しみに!

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