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宮廷をクビになった四十路の魔導具修繕士、廃棄された古代兵器を直して最強の工房を開く  作者: 秋葉 詩
第1部『落魄の技師と鉄屑の乙女』

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第14話 三分間の防衛線と、反逆の共振

第13話では、雪山を越えて敵の大軍が集結する地下大空洞へと潜入しました。

第14話では、全兵器を無力化する装置を起動させるため、ロディが命懸けの精密作業に挑みます。仲間たちが繰り広げる怒涛の三分間防衛戦をお届けします!

 地下大空洞の天井から、黒い影が一斉に舞い降りた。


 高さ三十メートルの岩棚から、ワイヤーを使って音もなく滑空する。

 着地の瞬間、エレナ率いる十名の近衛兵が円陣を組み、周囲を警戒した。


 降下地点は、空洞の中央にそびえる『高圧中継タワー』の直下だ。

 青黒い光を放つ送電塔の周囲には、太い送電ケーブルが何十本も地面を這《は》い、低く唸《うな》るような駆動音を響かせていた。


「アリア、制御盤の装甲ハッチを抉《こ》じ開けろ!」


「了解――物理ラッチを強制切断」


 アリアの指先がタワーの基部に触れた瞬間、パキンと乾いた音がして、頑丈な鉄の扉が軽々と引き剥がされた。

 内部には、複雑怪奇に入り組んだ銅線と、青白い魔石がびっしりと詰まっている。


 ロディは背負っていた『広域エーテル妨害共振器』を床に降ろすと、ラッパ状の集束ホーンをタワーの主回路へ向け、太い接続プラグを迷いなく突き刺した。


 カチリ、と硬質な噛み合わせ音が響く。


「よし、回線は繋がった。……ここからが本番だ」


 ロディは工具袋から細い調整用ドライバーを抜き、右手のひらに刻まれた『古代修繕中枢核《アーキタイプ・コア》』を制御盤へと重ねた。


「敵の送電網の周波数《しゅうはすう》を読み取り、妨害波の波形を完全に同期させる。……作業完了まで、きっかり三分だ。途中で衝撃を受けたら回路が焼き切れる」


「承知した。我が部隊の全員の命に代えても、その三分間、貴殿に指一本触れさせん!」


 エレナが銀の剣を抜き放ち、鋭い号令を下した。


「近衛第一隊、迎撃陣形! 中継タワーを死守せよ!」


 その直後――。


 ――ビィィィィィン! ビィィィィィン!


 空洞全体に、耳をつんざくような警報の赤色光とサイレンが鳴り響いた。


「な、何事だ!? 中継タワーに何者が張り付いている!?」


 高台の指揮所にいたクロイツ頭領が、短い悲鳴を上げて手すりから身を乗り出した。

 隣に立つガルディニア軍のブラント大佐が、冷酷な瞳を細めて指揮杖を振り下ろす。


「ネズミが紛れ込んだか。……警備大隊、全車輌、中継タワーの侵入者を包囲せよ! ひき肉にして排除しろ!」


 地響きが起きた。


 空洞の各所に待機していた重装甲兵百名が一斉に足音を響かせて殺到し、さらに四両の主力魔導戦車『ガルム・ツヴァイ』が、重厚な無限軌道《キャタピラ》で石畳を粉砕しながら突進してきた。

 砲塔がゆっくりと旋回し、太い主砲の銃口がロディのいるタワーへと照準を合わせる。


「敵前衛、突入してきます! 距離、百五十メートル!」


「慌てるな! 引きつけてから迎え撃つ!」


 エレナが剣を構え、部下たちへ檄《げき》を飛ばす。


 ――残り、二分四十秒。


 ロディの額から大粒の汗が滑り落ちた。

 彼の眼には、青紫色の『構造解読』の光が満ちていた。


《……くそっ、ガルディニア軍の暗号化波形は二重構造になってやがる。表層の魔力ノイズの裏に、オメガ・セルの特異振動が隠れてるな》


 ロディの指先が、目にも留まらぬ速さで微小なダイヤルを回していく。

 右手のひらの銀の刻印が熱を帯び、複雑な敵の回路図をミリ秒単位で解き明かしていく。


「ガハハハッ! 大軍のお出ましだ! 腕が鳴るぜぇ!」


 最初に飛び出したのは、大斧を担いだヴァルガスだった。

 突進してきた先頭の装甲兵三名に対し、ヴァルガスは身の丈ほどもある大斧を一閃させた。


 ――ドガァァァンッ!


 凄まじい衝撃波が巻き起こり、敵の重装甲兵が木の葉のように吹き飛ぶ。


「な、なんだこの大男の怪力は!? ひるむな、囲んで槍で刺し殺せ!」


「誰を囲むってぇ!?」


 ヴァルガスは大斧の柄を地面に突き立てると、突っ込んできた装甲兵の首根っこを素手で掴み、そのまま別の兵士へ向けて豪快に投げ飛ばした。

 人間の砲弾となった兵士たちが次々とドミノ倒しになり、前衛の突撃が完全にストップする。


 だが、その背後から、魔導戦車の重厚なエンジン音が迫っていた。


 ――キュイィィィン!


 戦車の主砲が白熱し、高密度の魔導榴弾《りゅうだん》が発射体制に入る。


「主砲が来るぞ! 散開――」


 騎士たちが叫んだ瞬間、白銀の閃光が戦車の前に割り込んだ。


『――脅威度大と判定。防衛対象への射線を遮断します』


 アリアだ。

 彼女の左腕に装着された『パイル・アンカー』が、ガシャンと音を立てて最大展開位置へとロックされた。

 背部スラスターから青白い高圧蒸気が爆発的に噴き出す。


 ドッ!


 音速を超えた踏み込み。

 アリアの身体は、発射寸前だった魔導戦車の砲身の真下へと潜り込んでいた。


「な……小娘が、どこから現れた――」


 戦車の車長が叫ぶよりも早く、アリアの左腕が戦車の砲塔基部へ突き刺さるように打ち込まれた。


『――パイル・アンカー、最大臨界撃発』


 ズドォォォォンッ!


 火薬とエーテルの爆風がゼロ距離で炸裂した。

 数十トンの重量を誇る魔導戦車の前部が、まるで巨人に蹴り上げられたかのように大きく浮き上がり、そのまま仰向けにひっくり返って轟音を立てて横転した。


「ば、馬鹿な……!? 戦車を素手でひっくり返しただと……!?」


 後続の戦車兵たちが、恐怖に顔を引きつらせて操縦レバーを止めた。


 ――残り、一分二十秒。


 ロディの手元では、妨害共振器のインジケーターが七十パーセントまで上昇していた。


「よし……第一層の暗号は抜いた! 次は深層のオメガ周波数だ!」


 ロディはドライバーを持ち替え、共振器の水晶板に直接、極細のルーン刻印を削り込んでいく。

 金属と水晶が擦れ合う鋭い高音が響く。


 その時、高台のブラント大佐が、忌々しそうに腰の軍刀を抜いた。


「ええい、役立たずどもめ! 砲撃部隊、全門斉射だ! 中継タワーごと吹き飛ばせ!」


「だ、大佐!? 中継タワーを撃てば、空洞全体の電力が落ちて掘削艦が止まります!」


「構わん! あの修理屋の手元にある機械……あれは危険だ! 跡形もなく消し去れ!」


 残る三両の魔導戦車と、十数名の砲撃兵が一斉にタワーへと照準を定めた。

 逃げ場のない集中砲火。


「撃たせるものか!」


 エレナが地を蹴った。

 彼女の佩く『ブレイズ・キャリバー』が、冷涼な青白い軌跡を描いて空を薙《な》ぐ。


 ロディが施した超精密調整によって、刀身にかかる空気抵抗は完全にゼロになっていた。

 エレナの放った神速の斬撃波が、砲撃兵たちの足元を横一文字に薙ぎ払い、発射台を一瞬で両断する。


 ガガガガッ!


 照準を狂わされた砲弾が明後日の方向へと飛び交い、洞窟の天井を砕いて巨大な鍾乳石《しょうにゅうせき》の雨を降らせた。


「近衛第一隊、突撃! 一歩も通すな!」


 騎士たちの白銀の剣が閃き、混乱した敵の包囲網を次々と押し返していく。


 ――残り、二十秒。


 ロディの額を伝った汗が、作業台の真鍮板にポタリと落ちた。


「アリア! メインスイッチのバイパスレバーを引け!」


「了解――同期完了まで、五、四、三――」


 アリアが細い腕で、太い鉄のレバーを一気に引き倒した。


「――二、一。……回路接続、完了しました」


 ロディは工具槍の柄を握り直し、大きく息を吸い込んだ。


「これでお前らの『最新鋭』もおしまいだ! ……喰らいな!」


 ロディの右手のひらの銀の刻印が、眩《まばゆ》い光を放って共振器のコアを叩いた。


 ――キィィィィィィィン……!


 耳鳴りのような、澄み渡る超高周波の波動が、中継タワーを中心に同心円状に広がった。


 その瞬間、タワーから伸びていた太い送電ケーブルが一斉に銀色に発光した。

 逆流した妨害パルスが、張り巡らされた送電網と仮設線路を伝い、雷のような速度で空洞内のすべての兵器へと駆け巡る。


 ――パチッ。


 小さな、火花のような音が、戦車の動力部から鳴った。


 直後。


 ズオォォォ……ン……。


 唸りを上げていた三十両の魔導戦車のエンジンが、まるで命の灯火を吹き消されたかのように、一斉に停止した。

 砲塔の旋回が止まり、キャタピラが固着し、車体の計器の光がすべて消え去る。


 それだけではない。

 空洞の最奥で岩盤を削り続けていた、全長三十メートルの超巨大掘削艦の六基のドリルが――ピタリと、完全にその回転を止めた。


 紫色のオメガレーザーが霧散し、巨大な鉄の巨艦は、ただの静まり返った瓦礫の山となって沈黙した。


 ――シィィィン……。


 響き渡っていた轟音と震動が、嘘のように消え去った。

 空洞を支配したのは、水滴の落ちる音さえ聞こえるほどの、完全な静寂だった。


「な……んだ……? 何が起きた……!?」


 戦車のハッチから顔を出した敵兵が、動かなくなった計器を必死に叩いた。


「動かん……! 魔力炉が完全に冷え切っている! 予備電源も入らない!」


「掘削艦も停止しました! 全回路がフリーズしています!」


 悲鳴のような報告が高台の指揮所へと届く。


「ば、馬鹿な……!? 我が師団の誇る主力戦車が……最新のオメガ兵器が、全滅だと……!?」


 ブラント大佐の手から、軍刀が滑り落ちて乾いた音を立てた。

 自慢の機甲師団が、血の一滴も流すことなく、たった一つの装置によって完全に無力化されたのだ。


「ひ、ヒィィィッ! お、終わりだ……ハイネ家の金が……私の利権がぁぁっ!」


 クロイツ頭領が腰を抜かし、その場にへたり込んだ。


「ふぅ……。やれやれ、時間通りだな」


 ロディは煙管を取り出し、カチリと火を灯した。

 紫煙をゆっくりと吹き上げ、動かなくなった鉄の棺桶《かんおけ》たちを見渡す。


「どんなに最新の回路を誇っててもな、電気と魔力を止められりゃ、ただの重たい置物なんだよ」


 四十路の修繕士の静かな声が、静寂に包まれた大空洞に心地よく響き渡った。


お読みいただきありがとうございました!

見事な三分間の防衛戦と、ロディの妨害共振器による敵軍全兵器の一斉沈黙でした!

圧倒的な技術による大逆転ざまぁ劇、スカッとしていただけましたら幸いです!

次回:『第15話 大空洞の決着と、下町の凱旋』

完全に無力化された敵機甲師団を制圧し、裏切り貴族クロイツを捕縛! 北方国境編の決着をお届けします。お楽しみに!

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