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宮廷をクビになった四十路の魔導具修繕士、廃棄された古代兵器を直して最強の工房を開く  作者: 秋葉 詩
第1部『落魄の技師と鉄屑の乙女』

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第12話 下町トラップ工廠(こうしょう)と、夜襲の工作員

再度自分で1〜11話を読み返してみると、読み方や意味がわかりづらい漢字と表現が多かったなと感じました。

よって、今回から難しい表現は少し減らしたり分かりやすくし、普段使わないであろう漢字にはルビを振ってみました。感想の方でどちらが良いか教えていただけますと、大変助かります。

さて、第11話では、敵国の工作員が工房を探っていることを突き止め、ロディが敵兵器の逆用トラップを準備しました。

第12話では、夜の闇に紛れて工房を襲撃してきた敵の特殊工作部隊を、ロディの仕掛けた「下町トラップ」とアリアたちの連携で迎え撃ちます!

帝都の明かりがひとつ、またひとつと消え、下町の路地は深い闇に包まれていた。


 月明かりさえ届かない裏通りの屋根の上に、三つの黒い影が音もなく滑り込む。


 影たちの身にまとっているのは、光を吸い込むような特殊な布で作られた外套《がいとう》だ。


 輪郭が夜の闇に溶け込み、遠目からでは人間の姿をしていることすら判別できない。


「……目標の建物を確認。下町の小さな魔導修理工房だ」


 先頭に立つ小柄な男が、手首の通信機へ向けて低くささやいた。


 その口調には、敵国の軍人特有の冷徹な響きがある。


「奪われた『試作掘削《くっさく》兵器』の回収、ならびに機密に触れた町職人の口封じを行う。内部には護衛の冒険者が一名、少女型のオートマタが一体。……手早く片付けるぞ」


「了解。音を立てずに始末する」


 三名の工作員は屋根から音もなく飛び降り、工房の裏口ドアの前へと着地した。


 足音は一切立たない。

靴底に衝撃を吸収する魔導フェルトが仕込まれているからだ。


 先頭の工作員が腰から細い金属針を取り出し、鍵穴へと差し込もうとした。


 ――だが。


 カチリ。


 ドアノブに触れるよりも早く、足元の石畳から小さな金属音が鳴り響いた。


「なっ……!?」


 工作員が異変に気づいた瞬間には、すでに遅かった。


 石畳の隙間に敷かれていた極細の針金が跳ね上がり、工房の軒先《のきさき》にぶら下げられていた古びたオイル缶の底がパカンと開いたのだ。


 バシャァッ!


 頭上から降り注いだのは、粘り気のある銀色の液体だった。


「ぐっ……!? 油か……!? いや、これは――」


「光学迷彩《カモフラージュ》の回路が……ショートしている!?」


 降りかかった液体は、ただの油ではなかった。


 ロディが古い魔導ランタンの廃液と中和粉末を混ぜ合わせて作った『伝導性ショート液体』だ。


 闇に溶け込んでいたはずの工作員たちの全身から、パチパチと青白い火花が激しく吹き上がり、彼らの姿が夜の路地に鮮やかに浮かび上がった。


「チッ、罠《わな》か! 強行突入するぞ!」


 姿を隠せなくなった工作員たちは、腰の消音短剣を抜き放ち、裏口の木製ドアを力任せに蹴破った。


 バガァン!


 勢いよく跳ね上がった扉の奥、暗がりの中で待っていたのは――。


「ようこそ、ロディ魔導修繕店へ。……夜間の出張料金は、ちと高いぜ?」


 部屋の中央、作業机の上に置かれた魔導ランプの明かりに照らされ、ロディが静かに煙管《きせる》の煙を吐き出していた。


「貴様が……ロディ・コールマンか! 死ねっ!」


 先頭の男が床を蹴り、電光石火の速さでロディの喉元へ短剣を突き出そうと踏み込んだ。


 だが、男の足が土間の中央を踏み抜いた瞬間。


 キュルルルルッ!


 床板の下に仕込まれていた古い歯車が一斉に逆回転を始めた。


 昼間、ロディとガルバが床下に張り巡らせておいた、廃車輌のブレーキワイヤーと巻き取りゼンマイだ。


「しまっ――」


 足元をすくい取られた男の体が、派手に宙を舞った。


 そこへ、工房の壁際から猛烈な風切り音が迫る。


「ガハハハッ! 夜這《よば》いをかけるにゃあ、少々行儀が悪いんじゃねえか、ネズミども!」


 暗がりから飛び出してきたのは、仁王立ちになった巨漢の戦士――ヴァルガスだ。


 彼が横薙《な》ぎに振るったのは、巨大な丸太のような鋳鉄《ちゅうてつ》の排気パイプだった。


 刃物ではない。

だが、地竜をも素手でねじ伏せる怪力で振り抜かれた金属塊は、大砲の弾と何ら変わりない威力を生み出す。


 ドゴォォォンッ!


「がはっ……!?」


 空中に浮いていた工作員の胴体に直撃し、男は工房の奥の壁まで吹き飛んで気を失った。


「くそっ、化け物め……! ならばこいつを喰らえ!」


 後続の二名が懐から黒い小型爆弾を取り出し、ピンを引き抜こうとした。


 ――その時。


 作業台の影から、透き通るような白髪をなびかせた少女が、音もなく滑り出てきた。


『――対象の武装を識別。

即時無力化シークエンスを実行します』


 アリアだ。


 彼女の藍色の瞳には、冷たい光の格子《グリッド》が浮かんでいた。


 アリアの左腕に装着された『パイル・アンカー』が、カシャリと音を立てて変形する。


 先端から伸びたのは、破壊用の杭ではない。


 ロディが昼間のうちに組み込んだ、扇状に広がる『魔力中和ブレード』だ。


 シュッ!


 目にも留まらぬ速度で放たれたアリアの薙ぎ払いが、工作員たちの手元をかすめた。


 パチン、パチン!


 爆弾の信管《しんかん》だけが、ミリ単位の精度で正確に切り落とされ、爆発することなくポロポロと床に転がった。


「ば、馬鹿な……!? 信管だけを切り落としただと……!?」


「アリア、左の奴の膝の関節! 右の奴は胸のバックルを外せ!」


 ロディが作業机の陰から万能工具槍を構え、的確に指示を飛ばした。


「了解――同期完了」


 アリアは身を低く沈めると、残る二名の工作員の間を風のようにすり抜けた。


 ガキン!

 カチリ!


 アリアの手刀が、左の男の防具の隙間――体重を支える靭帯《じんたい》のツボを正確に突く。


 同時に、すれ違いざまに右の男が着込んでいた強化ベストの結合金具《バックル》を指先で弾き飛ばした。


「ぐあああっ!?」


「な、防具が……外れた……!?」


 防具を失って無防備になった二人へ向けて、ロディが手元の工具槍から、シュッと白い霧を噴射した。


 強力な睡眠薬を混ぜ合わせた高圧冷却ガスだ。


 ガスを吸い込んだ二名の工作員は、白目を剥いてその場に崩れ落ち、二度と動かなくなった。


 侵入から、わずか一分足らず。


 下町の小さな修理工房に乗り込んできた敵国の精鋭部隊は、傷一つ負わせることもできず、完全に鎮圧されていた。


「ふぅ……。やれやれ、掃除の手間が増えちまったな」


 ロディは煙管の灰をトントンと落とし、床に転がる三人の男たちを見下ろした。


「おいおい、呆れた手際の良さだな」


 ヴァルガスが巨大な排気パイプを肩に担ぎ直し、豪快に笑った。


「侵入経路を読んだ罠の配置といい、アリアの精密な解体術といい……お前ら、本当にただの修理屋と助手なのかよ?」


「ただの修理屋だからこそ、物の壊し方もよく知ってるのさ。……さて、アリア。こいつらの持ち物を改めるぞ」


『了解。

捕獲対象の全身スキャンを実行します』


 アリアが倒れた隊長の懐に手を差し入れ、一枚の黒い金属プレートと、通信用の水晶球を引き抜いた。


 金属プレートには、ガルディニア帝国軍の紋章とともに、複雑な暗号文が刻印されている。


「ロディさん! アリアちゃん! 大丈夫でしたか!?」


 工房の奥の居住スペースから、護身用の短杖を構えたセリアが飛び出してきた。


 床に転がる工作員たちを見て、セリアは目を丸くする。


「うわぁ……本当に全部、ロディさんの言った通りの罠にかかって倒れてる……!」


「ああ。セリア、悪いが騎士団の詰所へ走ってくれ。エレナに『獲物が網にかかった』と伝えてきてほしい」


「はいっ! すぐに行ってきます!」


 セリアが小走りで夜の通りへ駆け出していった。


◇

 それから半刻《約一時間》後。


 近衛第一大隊の兵士たちを引き連れて工房へ駆けつけたエレナは、押収された金属プレートの暗号を解読し、厳しい表情で息を呑んだ。


「……間違いない。ガルディニア軍第七機甲師団の侵攻命令書だ」


 エレナは青白い光を放つ書類を作業台の上に広げた。


「敵の総攻撃の予定日は――今から五日後。ヴェルダン国境の地下トンネルから、新開発の魔導戦車三十両と重装甲兵五百名を一気に帝都平原へ送り込む計画だ」


「五日後か……」


 ロディは手元の工具を布で拭きながら、作業台の奥に鎮座する機械を見つめた。


 昼間持ち込まれた偽装削岩機は、今やロディの手によって完全に作り変えられていた。


 ドリルは取り外され、先端には巨大なラッパ状の集束ホーンが取り付けられている。


 内部には、オメガ・セルの暴走エネルギーを逆流させて周囲の魔力回路を停止させる『特定共振回路』が完璧に組み込まれていた。


 ――『広域エーテル妨害共振器』の完成だ。


「これを使えば、敵の魔導戦車も重装甲も、トンネルの中でただの動かない鉄の塊に変えられる」


 ロディが告げると、エレナは真剣な眼差しで頷いた。


「ああ。だが、この装置をトンネル内の『エネルギー結節点』まで運び、直接起動させなければならない。敵の掘削部隊の真っ只中へ潜入する、極めて危険な任務だ」


「危険だからこそ、俺が行く必要がある」


 ロディは迷いなく言った。


「この装置の周波数調整は、現場のオメガ波の濃度に合わせてミリ単位で手動調整しなきゃならん。俺の『構造解読』の眼と指先がなきゃ、ただの置物になっちまうからな」


「マスター・ロディ。私も当然、同行します」


 アリアが一歩前へ進み出て、ロディの隣に並び立った。


『私の本体機能は、マスターの護衛および機材の運搬に最適化されています。

マスターを危険に晒すことは、私の存在理由に反します』


「おいおい、俺を置いていく気じゃねえだろうな?」


 ヴァルガスが背中の大斧をガツンと床に打ち鳴らした。


「国境のヴェルダン山脈は、俺の庭みたいなもんだ。抜け道も獣道も全部頭に入ってる。俺がいなきゃ、お前さんたち軍人さんは山に入る前に迷子になっちまうぜ」


「……感謝する、ヴァルガス殿。ロディ殿、アリア殿も」


 エレナは深く胸に手を当て、騎士の礼を捧げた。


「近衛第一大隊の精鋭十名を率い、私が露払い《みちばらい》を務めよう。帝国の未来と、命を預けてくれた部下たちのために……必ずや敵の陰謀を打ち砕く」


 職人、古代の自律人形、歴戦の冒険者、そして正義を貫く近衛騎士。


 下町の片隅で結ばれた異色の部隊が、帝国の存亡を懸けた北方の決戦場へ向けて、静かに牙を研ぎ澄ませていた。

お読みいただきありがとうございました!

ロディの仕掛けた町工場トラップによって、敵の工作部隊を一網打尽にしました!

そして敵の侵攻決行日が五日後と判明し、舞台はいよいよ北方のヴェルダン国境トンネルへと向かいます。

次回:『第13話 白銀の山嶺と、闇の抜け道』

ヴェルダン山脈の地下深く、敵の大軍がうごめく秘密トンネルへの潜入作戦が始まります。お楽しみに!

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