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第93話:【聖女の吐血】



ズドドォォォォォォォォォンッ!!!!!


狂信者・花梨の放った【愛と狂気の炎槍】が

私と避け合いをしていたボスの側頭部に、隕石のような威力で直撃した。


「ギガァァァァァッ!?」

凄まじい爆炎が晴れると、そこにはボスの姿が……あった。

直撃の瞬間、ボスは咄嗟に右腕を盾にして防御していたのだ。

しかし、その右腕は炭化してボロボロに焼け焦げており

もはや完全に使い物にならない状態になっている。


「えぇぇっ!? 私が有希ちゃんへの愛を込めて全力でやったのに、片腕しか消し飛ばせないの!?」

花梨が槍を構え直しながら、本気で不満そうに叫んだ。


――だが、ボスの不幸はそれだけでは終わらない。

花梨のド派手な一撃に完全に気を取られていたボスの死角から

音もなく忍び寄る『もう一つの影』があった。


「悪いな。脇が甘いぜ」

シュラァッ!!

雄一先輩の冷徹な一太刀が閃き、無傷だったボスの左腕が根元から綺麗に切断された。

これでボスは両腕を失い、完全にダルマ状態である。


「大丈夫か、有希ちゃん!」

着地と同時に、雄一先輩が私に声をかける。


「有希ちゃぁぁぁん!! 無事!? どこか怪我してない!?

大丈夫、このキモい黒毛玉は私が1秒で灰にするからね!!」

花梨は完全に血走った目でボスを睨みつけながら

私を心配(?)する過激な言葉を吐き捨てている。


「二人とも、助かったわ。……でも、前線は大丈夫なの? 抜けてきちゃって」

「問題ない。前線よりも、後方ヒーラーを助けることの方が絶対優先だ。

回復役がいなくなったら、俺たちは即全滅だからな」

雄一先輩が冷静に戦術的判断を口にする。


「そうだよ! 有希ちゃんを助けること以上に大事なことなんて

この世界にはないもん! 前線がどうなろうと、私は有希ちゃんを守るよ!」

「(……相変わらず清々しいほどの狂信者っぷりね)」


私は心の中でツッコミを入れつつ、両腕を失って後ずさるボスへと視線を向けた。


「それじゃあ、サクッとトドメまで行きましょうか」

「おう!」「任せて!!」


「『フル・エンチャント』&『聖属性付与ホーリー・ウェポン』!」

私は二人の武器と身体に、ありったけの支援バフと浄化の力を上乗せした。

そして、空間収納から【もう1丁】の魔導銃を取り出し、両手に構える。


「今度は、避けさせないわよ」

カチャッ、と2丁の撃鉄を起こし、私はボスの『足』に向けて引き金を引き絞った。


――タタタタタタタタタタタタタタッ!!!


怒涛の連射。

自身の身体能力を極限まで引き上げる自己強化バフと

2丁の魔導銃から放たれる凄まじい反動で

全身の骨と筋肉が「ギシィッ!」と危険な悲鳴を上げる。

だが、私はその激痛を無理やり気合いでねじ伏せ

空中に放たれた『数十発の魔弾すべて』に魔力の糸を繋ぎ

脳の処理能力の限界を超えて同時操作コントロールを開始した。


「……おいおい、マジかよ」

その光景を見た雄一先輩が、戦慄したように呟く。

「あれだけの数の魔弾を、全部バラバラの軌道で操作してるのか?

攻撃面アシストでも規格外すぎるだろ……!」

「ああっ、有希ちゃん……! なんでも完璧にこなせるなんて

 やっぱり私の女神様……尊いっ!!」


腕を失ったボスは、飛来する魔弾の群れをなんとか避けようと巨体を揺らす。

しかし、上下左右、360度全方位から包み込むように襲い掛かる

全自動追尾ホーミング魔弾】を避けきれるはずがない。


ズガガガガガガガッ!!

「グギャァァァァァァッ!!?」

数十発の魔弾が、ボスの両足(太もも、膝、足首)を正確に撃ち抜き

完全に粉砕した。両腕を失い、両足まで失ったボスは、ついにその場にズドォンッ! と崩れ落ちる。


「今よッ!!」

私が叫ぶと同時。


「「はぁぁぁぁぁぁぁッ!!」」

雄一先輩と花梨が、私のバフを受けて弾丸のような速度で突撃した。

先輩の剣がボスの首を深々と薙ぎ払い、花梨の炎槍がボスの心臓コアを完全に貫く。


ピキ……パリンッ!!

ボスは断末魔を上げる間もなく、黒いガラスのように砕け散り、絶命した。


(よし! トドメは二人が刺してくれたから

私に経験値は入らない! 完璧なキルアシスト達成!!)


私は心の中でガッツポーズを決め

ホッと息を吐き出しながら視線を横に向ける。

すると、そこにはすでに二体目のボスを倒し終え

「イェーイ!」と笑顔でハイタッチをしている香澄ちゃんと修平くんの姿があった。


こちらの視線に気づいた香澄ちゃんが、パタパタと駆け寄ってくる。

「有希! こっちも終わったわよ!」

「いやぁ、有希のバフがなかったら死んでたな。なんとかやり切ったぜ」

修平くんも剣を肩に担ぎながら笑いかけてきた。


「二人とも、本当にお疲れ様。……それじゃ、皆の傷をまとめて治しちゃうわね。

広域治癒エリア・ヒール』!!」


私は残った魔力を振り絞り、この場にいる全員を包み込むような大規模な治癒魔法を展開した。

淡い光が戦場を包み込み、雄一先輩たちの傷だけでなく

周囲で戦っていた探索者たちの怪我まで一瞬で塞がっていく。


――しかし。

限界ギリギリの自己強化、数十発の魔弾の超精密同時操作、そしてダメ押しの広域治癒。

私の身体キャパシティは、とっくに限界を超えていた。


「っ……ゴホッ、ゲホッ!!」

光を放ち終えた直後、私は激しく咳き込み、口からドバッと鮮血を吐き出した。


「「「ゆ、有希ちゃん(有希/女神様)!!?」」」

周囲の全員が血相を変えて駆け寄ってくる。


「だ、大丈夫よ……ちょっと無理しすぎただけ……ゲホッ」

(やばい、サボるために頑張りすぎた。本末転倒だわ……)

私は口元の血を拭いながら、なんとか虚勢を張って笑ってみせた。

だが、その姿は周囲の目には

【己の命を削って皆を救った尊き自己犠牲の聖女】にしか映っていなかった。


そんな感動的(?)なすれ違いが起きている中、戦場に明らかな【変化】が起きた。

二体のボスが倒れたことで、魔物たちの動きから『統一性』が完全に失われたのだ。


ある魔物は無秩序に暴れ回り、ある魔物は怯えて背を向けて逃げ出す。

統制を失ったただの烏合の衆へと成り下がった。


「好機だ!!」

その変化を逃すはずがない。

前線で戦っていた紅蓮のリーダーが、剣を高く掲げて咆哮した。

「敵の指揮系統が崩壊したぞ! 一気に押し込め! 追撃だァァァッ!!」

「「「うおおおおおおおおっ!!」」」

士気を取り戻した探索者たちが、怒涛の反撃を開始する。


そして――もう一つ。

私たちが守り抜いていた、広場の奥にある【巨大なゲート(扉)】。

その表面に走っていた幾何学模様の光が『カチリ』と音を立て

重々しい音と共に、ゲートが完全に解放されたのだ。


「ゲートが開いた……!?」


呆然とする私たちの前に、解放されたゲートの向こう側から、無数の足音が響いてくる。

現れたのは、最新鋭の装備に身を包んだ、正規軍にも匹敵する大量の覚醒者部隊だった。


「待たせたな!!」

先頭に立つ筋骨隆々の男が、ニッと頼もしく笑って親指を立てた。

「ここは俺たちが引き継ぐ! 後は任せろ!!」


絶望に包まれていた防衛戦に、

ついに待ち望んだ【最強の援軍】が到着したのだった。

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