第92話:【頼れる仲間たち】
「……やるっきゃないか」
並び立つ二体の漆黒のボスモンスター。
私はため息をつきながら魔導銃を構え直した。
トドメを刺さずに、二体の凶悪ボスの相手をして時間を稼ぐ。
私の「怠惰なサボりライフ」史上、最大のブラック労働の始まりである。
――その時だった。
ヒュッ!!
風を切る鋭い音と共に、背後の空間から躍り出た【二つの影】が
二体目のボスの背後へと強襲を仕掛けた。
「はぁぁぁッ!!」
閃光のようなナイフの二刀流による斬撃。
ズバァァァンッ!!
不意を突かれた二体目のボスの右腕が、根元から綺麗に切り飛ばされ、宙を舞った。
「ギャァァァァァァッ!?」
激痛に絶叫したボスが、即座に残った左腕を丸太のように振り回して反撃を繰り出す。
「おっと、そいつは通さねぇよ!」
ドゴォォォォンッ!!
ボスの巨大な左腕の薙ぎ払いを、大盾を構えたもう一つの影が、見事な重心移動で受け止めた。
「香澄ちゃん! 修平くん!」
私が安堵の声を上げると、前衛で大立ち回りを演じた二人が振り返った。
「有希、大丈夫!? なんか一人でボス二体引き受けてるって聞いて、急いで来たわよ!」
「助っ人に来たぜ! 待たせたな!」
傷だらけだが、頼もしすぎる私のパーティーメンバーたちだ。
「っ……助かるわ! 怪我の回復とバフを全乗せするから、そっちの一体はよろしく!」
「わかったわ。でも、もう片方の一体はどうにかしてよね!」
「えぇー……(私は倒せないから、どうやってサボろうかしら)」
私は内心で文句を垂れつつも、一瞬で二人の怪我を『ヒール』で完治させ
さらに『筋力・敏捷・物理耐性上昇』の凶悪バフを掛けた。
……そして、ついでに。
「香澄ちゃんのナイフと修平くんの盾に【浄化の力】も付与しておくわね!」
「サンキュー! 有希のバフ、相変わらずバグってて最高ね!」
神速のバフを受け取った香澄と修平が、すぐさま二体目のボスへと再突撃する。
ボスの切り落とされた右腕は、黒い靄と共にズズズ……と再生を始めていた。
だが、有希のバフ(身体能力5倍&浄化特効)を受けた香澄のスピードは、それを上回る。
「遅いわよッ!!」
香澄のナイフが、再生しかけた右腕の関節を再び正確に削り取り
さらに脚の腱を切り裂く。ボスの黒いオーラが
ナイフに宿る『浄化の光』によってジュウッ! と音を立てて浄化(焼却)されていく。
「ギョェェェェッ!」
ボスは苛立ち、巨体を揺らして全方位への踏みつけ攻撃を放つ。
「修平ッ!」
「任せろ! 『アース・フォートレス』!!」
修平が巨大な土の城壁を隆起させ、香澄への被害を完全にシャットアウトする。
二人の連携は、もはや学生の域を完全に超えていた。
ボスは徐々に香澄のスピードに対応し始めていたが
修平の鉄壁のカバーにより、完全な互角の戦いを繰り広げていた。
(よしよし、あっちは何とかなりそうね。経験値もしっかりあの子たちに入りそうだし、完璧なキルアシストだわ)
私が満足げに頷き、サボる算段をつけていた、その瞬間。
――ドォォンッ!!
私に向かって、猛烈な速度で【一体目のボス】が突進してきた。
「っ! そうだった、足が治っちゃったのよね。また風穴を開けてあげるわ」
私は魔導銃を構え、ボスの『足』に狙いを定めた。
絶対にトドメを刺さないための、精密な足抜き狙撃だ。
しかし。
私が銃口を向けた瞬間、ボスはピタリと動きを止め、極端な前傾姿勢で『身構えた』のだ。
「……なるほど。銃口の向きから狙いを予測する知能を持ってるのね。賢いじゃない」
これでは、真っ直ぐ撃っても簡単に避けられてしまう。
「でもね。私の攻撃は、それだけじゃないわよ!」
――ターンッ!
私はあえて、ボスの頭上(明後日の方向)に向けて魔弾をぶっ放した。
「グルァッ!?」
ボスは『ハズレ弾だ』と判断したのか、嘲笑うように避けて私へ突っ込んでくる。
「避けても無駄よ。コントロールしてるんだからね!」
私は魔力の糸を引き、ボスの頭上を通り過ぎた魔弾の軌道を空中でUターンさせた。
背後からボスの『膝裏』を急襲する不可視の魔弾。
――しかし。
ボスは突進しながらも、背後の殺気を野生の勘で察知し
巨体を捻って魔弾をギリギリで躱したのだ。
「チッ、避けるか!」
私は舌打ちをし、さらに魔力操作で魔弾を追尾させる。
「逃さないわよ!」
「ガァァァァッ!!」
ボスも負けじと、私に向かって黒い魔法の矢を雨あられと放ってくる。
私はそれをスレスレで躱しながら、背後から魔弾でボスの足を執拗に狙い続ける。
右へ、左へ。
避けて、撃って、また避ける。
ボスは私の変態的な追尾魔弾を必死で避け、私はボスの猛攻を必死で避ける。
互いに致命傷を避け合う
(※私は経験値を避けるためワザと急所を外しているせいで難易度が跳ね上がっている)
という、異様な【決め手を欠く膠着状態】に陥っていた。
(くそっ、動きが速すぎる! 誰か、この隙だらけのボスの足を止めて……じゃなくて
サクッとトドメを刺してくれる前衛はいないの!? 私がアシストするから!!)
私が心の中で(サボるために)悲鳴を上げた、まさにその時だった。
「――有希ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
戦場の空気を読まない
アイドルのライブ会場かのような黄色い(そしてどこか狂気を孕んだ)絶叫が轟いた。
「え?」
私が呆然と声の方向を見ると。
凄まじい土煙を上げながら、一本の【炎を纏った槍】を持った少女が
まるで弾丸のように吹っ飛んできた。
――花梨だ。
「私の……! 大事な有希ちゃん(女神様)に……!!」
花梨の目はバキバキに血走り
その背後には【不動明王】のような幻影すら見え隠れしている。
「手を出す奴は、塵も残さず消え失せろぉぉぉぉぉッ!!!」
ズドドォォォォォォォォォンッ!!!!!
花梨の渾身の一撃(愛と狂気の炎槍)が、私と避け合いをしていたボスの側頭部に
容赦なく、そして隕石のような威力で叩き込まれたのだった。




