表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
93/141

第89話:【絶対にトドメを刺してはいけない防衛戦】

「モンスターの群れが来るぞ! 精霊使いは前に出て撃ちまくれぇッ!」


紅蓮のリーダーの号令と共に、防衛戦の火蓋が切って落とされた。

ドォォォォンッ! バチバチバチッ!

前衛の魔法使いたちが、ありったけの魔力を込めて炎や雷の魔法を放つ。

広場の入り口で凄まじい爆発が連鎖し

視界を覆い尽くすほどの土煙が舞い上がった。


「やったか!?」

「バカ、フラグを立てるな! ……って、全然減ってねぇぞ!?」


土煙を突き破り、無数のゴブリンやオーク

ウルフ系の魔物たちが雪崩れ込んできた。

1000という数は伊達じゃない。

広域魔法の雨あられ程度では、足止めにすらなっていなかった。


「支援隊、前衛に防御魔法を絶やすなよ! 前衛、行くぞ、迎え撃て!!」

「「「うおおおおおおおおっ!!」」」

覚醒者たちが雄叫びを上げ、魔物の大群へと突撃していく。


――さて。

いくら後方支援とはいえ

私もさすがに完全放置でのほほんとお茶を飲んでいるわけにはいかない。

私は空間収納から【魔導銃】を取り出し、チャカッ、と撃鉄を起こした。


目的は、もちろん味方の【防御の援護】だ。

ここで重要なのは

私は『絶対に敵を倒してはいけない(トドメを刺してはいけない)』ということ。

なぜなら、私はレベルアップすると死ぬという

最高に理不尽なバグを抱えているからだ。

万が一にでも魔物にトドメを刺して経験値が入ったら

その瞬間に私の人生はゲームオーバー(物理)である。


(だから、私の仕事は徹底した【キルアシスト】と【防御援護】のみ!)


「ウィット。前衛の網目を抜けて

こっち(後衛)に近づいてきた魔物は容赦なく倒していいわよ」

『承知した。我が牙で噛み砕いてくれよう』


私に経験値が入らない召喚獣のウィットに絶対防衛ラインを任せ

私は魔導銃を構えた。

とはいえ、50人が入り乱れる乱戦だ。目で見てから味方を援護していては

絶対に反応が遅れる。


(なら、私の魔力をレーダーとして広げるまでよ)


私は自身の魔力を霧のように薄く、広く戦場全体に行き渡らせた。

魔力コントロールによる【全天候型・戦況把握システム】

これで、どこで誰がピンチなのか、どこから敵が抜けてこようとしているのかが

リアルタイムに把握できる。


「あ、右翼の人の背後からゴブリンが……。――ターンッ!」

魔導銃から放たれた精密な魔弾が、ゴブリンの『手首』を正確に撃ち抜く。

ゴブリンは武器を落として悶絶し

隙だらけになったところを味方の剣士がサクッと仕留めた。


「はい、次は左翼の前衛さん。オークの斧を食らいそう。――ターンッ!」

今度はオークの斧の刃を魔弾で弾き飛ばし、軌道を強制的に反らす。

体勢を崩したオークは、そのまま味方の槍使いに突き刺された。


よし、完璧。一匹も殺さず、かつ味方の安全を100%守る

究極の『命懸けのサボり(アシスト)』だ。


しかし、50対1000という圧倒的な戦力差。

私の魔力レーダーによる精密援護があっても

前衛の負担は重く、徐々に怪我をする人が増え始めた。


「ぐわぁっ!」

「おい、腕をやられた! 一旦下がる!!」

「後方部隊、治療を頼む!!」


重傷、軽傷問わず、傷ついた探索者たちが次々と私の元へと駆け込んでくる。

こうなると、銃での防御援護に専念することはできない。

私は「みんなを治療する」という約束を果たすため

即座に治癒ヒールを開始した。


「はーい、順番に並んでくださーい。軽傷の人は止まらずに歩きながら通ってねー」


「え、あ、はい。ゴブリンに太ももをかすられて――」

「はいヒール。次!」

「痛っ!? ……あれ? 傷が消えた……」

「はいヒール。次!」

「女神様ぁぁっ! ありがとうございます!」

「はいヒール。次!」


軽傷者はもはや診断すらしない。

適当に【ヒール】の光をぽいぽい投げつけていく高速流れ作業だ。

逆に、骨が折れているような重傷者には、数秒だけ立ち止まってもらい

多少の時間をかけて丁寧に魔力を流し込んで治癒する。

治療を受けた探索者たちはお礼を言い、すぐさま前線へと戻っていった。


治療の合間に、蔓延させている魔力で前線の把握を行う。

(……うーん。数に押されてやや劣勢だけど

皆がこうして交代で回復に来ているから、なんとか持ちこたえている感じね)


そんな戦況を見つめていると

足元で警戒していたウィットが、低い声で話しかけてきた。


『主よ。前線がやや押されているな。

 我が前線に出向いた方が良いと思うのだが?』


「いや、やめておきましょう。間違えて味方から攻撃される可能性があるわ」

私は治療の手を動かしながら、真剣な声で答えた。

「それにね……なんか、敵の数が【少なく感じる】のよ」

『少なく、だと?』


「ええ。1000匹の群れが本気で押し寄せてきているにしては

プレッシャーが足りないというか、妙な違和感があるの。

だからウィット、あなたはここにいて。索敵に専念してちょうだい」

『……ふむ。主の察知能力か。了解した』

ウィットは私の言葉に納得し、低く唸って再び周囲の索敵に集中した。


しばらくすると、怪我をした香澄ちゃんと修平くんが、息を切らせて治療にやってきた。


「二人とも大丈夫?」

「はぁ、はぁ……まだ大丈夫、だけど……」

修平くんが肩の傷を押さえながら、苦笑交じりに溜息をつく。

「有希の回復がなかったら、本当にゾッとするよ。戦線が崩壊してた」


「本当によ。有希がいてくれて助かったわ。

 いなかったらと思うと、今頃全員全滅ね」

香澄ちゃんも同意するように頷く。

私は二人の傷に【ヒール】をかけ、一瞬で完治させた。

短い雑談の最中に体力を回復させた二人は

「それじゃ、行ってくる!」とすぐに前線へ戻っていった。


次に入れ替わりでやってきたのは、雄一先輩と花梨だった。


「あああっ! 有希ちゃぁぁぁん!! 私の女神様のために

 悪い魔物どもをたくさんなぎ倒してきたよぉぉぉっ!!」

「……お前、戦場だと余計に狂信者っぷりが加速してて怖いんだけど」


両目を血走らせている花梨と、頬を引きつらせて突っ込む雄一先輩。

私は苦笑しながら、二人に治癒魔法をかけた。


「さんきゅー、有希ちゃん。生き返るわ」

雄一先輩は一瞬で塞がった傷を確認すると、ふと声を潜めて真面目な顔になった。

「……なぁ、なんか敵が【本気じゃない】感じがするんだ。

ただの数合わせというか、何かを隠しているような……気をつけろよ」


(やっぱり、雄一先輩も気づいてた!)

前線で戦うプロの勘と、私の魔力レーダーの違和感が完全に一致した。


「うん、気をつける。花梨もあんまり突っ込みすぎちゃダメだよ?」

「ふふふ、はいっ! 有希ちゃんのために、もっともっと敵を蹴散らしてくるね!」

「はいはい、応援してるよー」


私の適当な棒読みの応援に

花梨は「有希ちゃんに応援されたぁぁぁっ!」と感激しながら

雄一先輩と一緒に前線へと走っていった。


その後も

各パーティーが交代で私の元へ治療を受けに来るローテーションを繰り返し

戦線は奇跡的な均衡を保っていた。


――しかし、次々に治癒を行っていた、その時。


私の周囲に蔓延させていた魔力レーダーに

明らかに今までとは『感覚プレッシャー』の違う異物たちが

一斉に引っかかった。

ゾワリ、と背筋に冷たいものが走る。


直後、前線から探索者たちの動揺した叫び声が響き渡った。


「な、なんだアイツらは……!? 【黒いモンスター】だとぉっ!?」


その声と共に、戦場の空気が一瞬にして凍りついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ