第87話:【130万フォロワーの包囲網】
第87話:【130万フォロワーの包囲網】
『あの服、AkiちゃんのSNSの……!』
『嘘、本物!? こっちにいるぞ!!』
ロビーの空気が、完全に【獲物を見つけた狩人たち】のそれに変わった。
私はここでようやく、自分が致命的なミスを犯していたことに気がついた。
(しまった!! 着替えるの忘れてた!!)
夏休みだからと油断していた。
そして何より「どうせダンジョンでも後ろでサボ……ゴホン、安全な後方から支援するだけだし!」と
完全に気を抜いていたせいで、SNSで自撮りをあげた
『露出ちょい多めのオシャレ着』のまま、ノコノコと大衆の前に出てきてしまったのだ。
「……マズい。完全に包囲されるわ」
私が冷や汗を流して後ずさりした、その時。
「みんな、さっさとこの場を抜けるわよ!」
瞬時に状況を察知した香澄ちゃんが、鋭く指示を飛ばした。
「有希はそのまま裏口に引っ込んで着替えてきなさい!
現地(ダンジョン前)で合流よ! 私たちは先に行くわ!」
「りょーかい!」
「あいよっ」
花梨と修平、そして雄一先輩が、見事な連携で散開していく。
(香澄ちゃん……っ! あなたって子は、本当に最高ね!)
私は心の中で友人の優秀さに平伏しながら
回れ右をして来た道(スタッフ用通路)へと全力で逃げ込んだのだった。
***
「はぁ、はぁ……危なかった……」
協会内の更衣室に逃げ込んだ私は、いつもの動きやすい戦闘用の服に着替え
ようやく人心地ついた。
そのまま、ファンに見つからないように
気配を消してそーっと裏路地を歩いていると――。
「よう。また会ったな、有希。これからダンジョンか? 俺が連れて行ってやってもいいぜ」
「…………」
私が最も遭遇したくない男の声がした。
振り返ると、そこにいたのは【五十嵐剣斗】。
――かつての『私の前世の肉体』でありながら
現在は中身が全くの別人(やたら熱血で自信過剰な勘違い男)にすり替わっているという
因縁にして最悪の相手である。
「こんにちは」
私は、感情を1ミリも込めない最低限の挨拶を返した。
すると、剣斗の背後から二人の女の子がひょっこりと顔を出した。
「剣斗さん、その方は誰です?」と、首を傾げるミステリアスな美少女(凛華)。
「どうしたのお兄ちゃん? ――って、え!? Akiちゃん!?」と、目を丸くして驚く女の子(瑠奈)。
「ああ、こいつは有希だ」
剣斗が偉そうに腕を組む。
「前にダンジョンに飛ばされた時、俺が保護してやった子さ」
「へぇー、そうなんですねぇ」
「ふーん……」
女の子二人が、値踏みするように私を見る。
(……お兄ちゃん?俺に妹なんかいなかったはずだぞ。どういうことだ?)
私は混乱しつつ、立ち去ろうとした。
しかし、ウザ絡みにかけては超一流の剣斗が、行く手を塞ぐように前に出てきた。
「Akiちゃんだっけ? なんだ、有名人になって調子に乗ってんのか?
どうせまた強い奴の金魚のフンでもしてるんだろ。一緒にダンジョン行かね?」
「行きません」
「遠慮すんなって。俺が『キャリー』してやるぜ?」
「結構です(真顔)」
一切の隙を与えない私の即答(氷点下)に
剣斗が「なんだと?」とムッとした表情になる。
「お兄ちゃん、ストップ!」
すかさず、妹の瑠奈ちゃんが剣斗の腕を引っ張った。
「彼女、これから用事があるみたいだから無理だってば! 迷惑かけちゃダメでしょ!」
「ちっ……そうかよ。ならしゃあないか。俺たち三人で行くか」
剣斗はつまらなそうに鼻を鳴らし、凛華と瑠奈を連れて歩き出した。
(助かった……)
すれ違いざま、私はこそっと瑠奈ちゃんに向かって「(ありがとう)」と口パクで感謝を伝えた。
すると、瑠奈ちゃんはパァッと顔を輝かせ、自分のスマホの画面をサッと見せてきた。
そこには『連絡先、交換してくれませんか?』の文字。
私は命の恩人への感謝を込めて、素早く連絡先を交換し、慌てて香澄たちの待つ合流地点へと走った。
(それにしても……あの凛華って子。
なんか、得体の知れない魔力を感じたような……気のせいかな?)
***
「遅いわよ、有希」
「ごめんごめん、ちょっと変なのに絡まれて」
ダンジョンのゲート前で合流すると、香澄ちゃんが腕を組んで待っていた。
全員が揃ったのを確認し、香澄ちゃんがコホンと咳払いをして説明を始める。
「いい? 今回はC級ダンジョンよ。私たちだと、結構きついと思うわ。
雄一先輩が同行してくれているから万が一はないと思うけど
できるだけゲート(出口)近くで戦って、いつでも逃げられるようにしましょう」
香澄ちゃんは真剣な顔で続けた。
「あと、C級からは敵の攻撃も多様化して
魔法や遠距離攻撃をしてくる魔物も多いから、十分に気をつけて」
「「「りょーかい!」」」
「それじゃ、行くわよ」
香澄ちゃんの合図で、私たちはゲートの中へと足を踏み入れた。
(……完璧な作戦説明。私の出番、なくない? 私、本当にこのパーティーにいる意味ある?)と
私は一人で後方を歩きながら呑気に考えていた。
その時、最後尾を歩いていた雄一先輩が、私にこそっと耳打ちしてきた。
「なあ、有希ちゃん。香澄ちゃんって、学園の噂と違ってすげぇ責任感もあるし
リーダーシップも抜群だし、かなり優秀だね」
私はニヤリと笑って、こそっと返した。
「あげませんよ。私の大事な(私をサボらせてくれる有能な)メンバーですから」
「ははっ、そりゃ残念」
雄一先輩が肩をすくめて笑った、その瞬間。
「敵がいたわ! 前方、オーク3体!」
前衛の香澄ちゃんから鋭い声が飛んだ。
「支援かけるよー」
私は気の抜けた声で適当に銃で狙いを定め
全員に【筋力・敏捷力上昇】と【物理・魔法耐性アップ】の凶悪なバフをかけた。
「行くよ、修平!」
「応ッ!」
一気に加速した花梨と香澄ちゃんが前線へ飛び出す。
同時に、修平が「土魔法・アースウォール!」と唱え
敵の足元に土壁を隆起させて体勢を崩した。
そこへ、花梨が火属性を付与した槍をドゴォォン! と叩き込み
確実に一体を仕留める。
体勢を立て直そうとした二体目には、香澄ちゃんが瞬く間に接近し
急所を的確に突いて切り裂く。仕留め損なった獲物は
すかさず修平が大盾で殴り飛ばしてトドメを刺した。
「すごい……見事な連携だ」
雄一先輩が感嘆の声を漏らす。
その後も次々に魔物が襲いかかってきたが
私は「あ、危なーい」「ふぃくさー(適当)」とあくびを噛み殺しながら防御魔法を張り
丁寧に後方支援をこなした。
私に近寄ろうとした不届きな魔物は
雄一先輩が「後衛には指一本触れさせねぇよ」と大剣で薙ぎ倒してくれた。
(うんうん、皆よく育ってる。これなら私は一生後ろでピクニックしていられそうね!)
私が大満足で頷き、敵を倒しきって一息ついた――まさにその時だった。
――ゴアァァァァァァァァァァァッ!!!!!
ダンジョンの奥底から。
空気がビリビリと震え、腹の底まで響くような、規格外の【巨大な咆哮】が轟いた。
「な、なんだ……今の声!?」
「ただの魔物じゃない……C級ダンジョンで、こんなプレッシャー……!?」
香澄ちゃんたちが顔を青ざめさせ、武器を構え直す。
サボりモード全開だった私の背筋にも
久々に冷たい汗がツーッと流れ落ちたのだった




