第81話:【丸投げの不労所得】
第81話:【丸投げの不労所得】
「実はね。私の知り合いに、魔力を通信帯域に変換して
ダンジョン内とこちら側を繋ぐ『魔力Wi-Fi機器』を開発しちゃった人がいるのよ」
私が上座の組長に向かって切り出すと、組長は目を丸くして身を乗り出した。
「ほう……! それは凄い。もし事実なら
通信業界と探索者業界の常識を根底から覆す、とんでもない革新的技術じゃないか」
「ちょっと待って有希」
隣に座っていた香澄ちゃんが、ジト目で私を睨んできた。
「あの『ダンジョン内で動画を見たい』っていう不純な動機
本当に実用化のレベルまで持っていったのね……。
あなたのその無駄な情熱、本当に恐ろしいわ」
私は香澄ちゃんの的確すぎるツッコミを華麗にスルーし、組長へ話を続ける。
「でも、こういうインフラ系の新技術って、実用化して『普及』させるとなると
色々と面倒な壁があるじゃない? 利権とか、他企業からの横槍とか」
「なるほど。つまり、俺たち如月組の『販売ルート』と
横槍を弾き返す『威圧のための名前』を借りたいと?」
「ううん」
私は首を横に振り、最高の笑顔で言った。
「名前を借りるんじゃなくて、製造から販売、特許の管理からクレーム対応まで
『全部丸投げして任せたい』の」
「…………」
極道のトップである組長すら、私の清々しいまでの丸投げ宣言に絶句した。
「……それは流石に予想できなかったが。本当にいいのか?
俺たちは裏稼業の人間だ。表向きに企業も経営しているとはいえ
他所の真っ当な企業と比べれば、手数料や利益は大きく抜くぞ? 利益配分はどうするつもりだ」
「私は『5%』程度でいいわ。組長たちが『55%』で
残りの『40%』が開発者って感じでどう?」
「お前さん、それでいいのか? アイデアと繋ぎの恩人にしては少なすぎるぞ。
それに、こちらとしては好条件で文句はないが
開発者側はその『40%』という数字で納得するのか?」
「大丈夫よ。話術(圧力)で納得させればいいのよ」
私は親指を立てた。なにせ、あの技術は販路がなければ部室の置物だ。
それに、私は一切働かずに毎月5%の不労所得が入ってくるのだ。これほど美味しい話はない。
「……フッ、ハッハッハ! 相変わらずお前さんは肝が据わりすぎている!
わかった、その話乗ろう。
じゃあ、うちの表企業の『販売担当』の奴らと一緒に向かわせるから
沢井に連絡して呼んでくれ」
「わかった、ありがとう組長!」
私はその場でスマホを取り出し
御子柴部長に『今からそっちに行っていい?』とメッセージを送った。
すると、スマホに張り付いていたのか
秒で『もちろんいいよ! 例の件(販路)だね!?』と返信が来た。
「よし、アポ取れたわ。これから向かおうと思うんだけど、香澄ちゃんも行く?」
「行くわよ。有希がまた変な火種を落とさないか心配だし」
「そうか……。香澄が、そこまで友人のことを……」
組長がなぜかハンカチで目頭を押さえて感動している中
ふすまが開いて沢井さんが入ってきた。
「おじき、姐御。こいつらが、うちの販売担当の奴らになりやす」
沢井さんの後ろから現れたのは、ピシッとした高級スーツを着こなした
モデルのように背が高く、爽やかな笑顔を浮かべた20代の男性だった。
「初めまして。今回の案件を担当させていただきます、水城と申します」
「……っ!!」
私は思わず息を呑んだ。
「爽やか系のイケメンだ……! ヤクザの屋敷で顔を合わせるの
沢井さんみたいな強面系か、組長みたいな威圧感バリバリ系ばっかりだったから
すごく新鮮……!」
私が感動していると、組長が笑いながらタバコに火をつけた。
「そりゃあ、表の営業をする人間が、沢井みたいに威圧感で威嚇するわけにはいかんからな。
ちゃんと適材適所だ」
「なるほどね。私は高橋有希よ、よろしく」
「へい。沢井の兄貴からお噂は予々聞いております
よろしくお願いいたします、姐御!」
爽やかイケメン営業マン(極道)は、見た目とは裏腹に
ゴリゴリの体育会系ヤクザのトーンで頭を下げた。
「……ちょっとストップ。人前で『姐御』じゃなくて
『様』付けにして。有希様でいいから。あなた達も
真っ当な企業相手にヤクザだってバレたくないでしょ?」
「ハッ! 申し訳ありません、有希様!」
「よろしい」
私たちは簡単な打ち合わせを済ませると、水城さんの運転する車で
御子柴部長の家へと向かった。
***
御子柴邸の近くのコインパーキング。
車が停まると、助手席に座っていた沢井さんが振り返った。
「姐御。あっしは顔に傷もあるし、外に出ると一発でその筋の者だとバレちまいますんで
ドアを開けられませんが……ご武運を」
「沢井さん、ありがとう。帰りもよろしくね」
まるでカチコミに行く組長を見送るような沢井さんの言葉に
私は適当に手を振り、香澄ちゃんと水城さんを連れて車を降りた。
御子柴部長の家は、一軒家の一部を改装したような
いかにも『職人の工房』といった佇まいだった。
ピンポーン、とインターホンを鳴らす。
「はーい! いっらっしゃーい有希ちゃん!」
ガチャリとドアが開き、エプロン姿の御子柴部長が満面の笑みで出てきた。
――が、私の隣に立つ香澄ちゃんと
その後ろで完璧な営業スマイルを浮かべる水城さんを見た途端、ピタリと固まった。
「……」
「どうしたんですか部長?」
「……い、いや、ちょっとびっくりしただけだよ。
まさか、本当にこんなに早く『ガチの企業の人』を連れてきてくれるとは思わなくて……」
御子柴部長は冷や汗を拭いながら、私たちを家の奥にある工房兼応接室へと案内してくれた。
(流石は部長。水城さんが醸し出す
隠しきれない『本職のオーラ』を敏感に感じ取ったみたいね)
「父さーん!
有希ちゃんが、魔力Wi-Fiの販売についての話がしたいって人を連れてきてくれたよー!」
御子柴部長が奥に声をかけると、「おお、有希ちゃんか!」と
部長にそっくりな優しそうなお父さん(御子柴父)が顔を出した。
「初めまして」
すかさず水城さんが前に出て、洗練された無駄のない動きで名刺を差し出した。
「私、株式会社ルナテック・ソリューションズの営業部長を務めております、水城と申します。
本日は、御社……いえ、御子柴様が開発されたという素晴らしい技術について
是非とも業務提携のお話をさせていただきたく存じます」
「は、はぁ! ご丁寧にどうも! 御子柴です!」
名刺を受け取った御子柴父と部長が
水城さんの完璧すぎるビジネスマンの態度に気圧されながらペコペコと頭を下げる。
こうして、私の不労所得と夏休みの安寧を懸けた
女子高生・極道・発明家による異色の『本格的商談』の幕が上がったのである。




