表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
82/140

第78話:【フラグ建築一級建築士】

あの地獄の施設紹介&フリフリエプロン料理拉致事件から、早くも2週間が経過した。

そして今日――私は朝から最高に上機嫌で

アイロンのバシッと効いた制服に身を包んでいた。


「ふふふ……んふふふふ……♪」

「朝から気味が悪いわね、有希。何か良いことでもあったの?」


朝食のトーストを優雅に齧る私を見て

キッチンで洗い物をしていた母が怪訝な顔でこちらを見た。


「何言ってるのお母さん! 今日は1学期の終業式よ!

つまり、今日でようやく学校が終わるの! 明日から! 待ちに待った!

夏休みという名の引きこもりパラダイス(天国)が始まるのよーっ!!」


両手を突き上げて歓喜の雄叫びをあげる私。

これで神代の狸爺に拉致される確率も減るし

生徒会で膝上人形にされることもない。完璧なスローライフの始まりだ。

だが、そんな私に、母から冷徹極まりない地獄の一言(突っ込み)が飛んできた。


「有希。そういうことをドヤ顔で言っている時って

大体すぐ後にろくでもないことが起こるから、言わない方がいいわよ?」

「ハハハ、まさか! そんな漫画みたいなフラグ回収、現実にあるわけないでしょー!」


私は母の不吉な予言を笑い飛ばし、ウキウキ気分で学校へと向かった。


***


「――あ、有希ちゃん。スマホ、さっきからブーブー鳴り響いてるわよ?」


教室の自分の席で、香澄ちゃん、花梨ちゃんと夏休みの予定

(※私は「一歩も家から出ない」と宣言してドン引きされた)について

他愛もない雑談をしていた時のことだ。

香澄ちゃんに指摘されてスカートのポケットからスマホを取り出す。

画面を見ると、メッセージアプリに1件の通知が入っていた。


差出人:【沢井】

『姐御。お疲れ様です。

後日、うちの組の屋敷に一度顔を出していただきたいのですが

ご都合はいかがでしょうか?』


「…………」

お母さん、あなたの娘はフラグ建築の一級建築士だったようです。

学校を出てまだ2時間も経っていないのに

もう裏社会からの不穏な呼び出し(フラグ)を速攻で回収してしまった。


(というか、学校の友達の前で『姐御』ってポップにポップアップ通知を出すのやめてくれない!?

画面が見えたら一発で私の高校生活が裏社会ルートに突入しちゃうんだけど!)


私は冷や汗を流しながら、光の速さで画面を隠し、

『とりあえず、そっちで具体的な日時を指定して送ってきて。空いてたら行くわ』

と、我ながらずいぶん雑な姐御仕草の返信を送ってスマホをポケットに封印した。


***


放課後。

終業式も無事に終わり、私は久しぶりに自分の本拠地のつもりである

『付与術部』の部室へと足を運んだ。

ここ最近、協会の動画案件やら生徒会の手伝いやらで、全く部活に出られていなかったのだ。


ガラッとドアを開ける。


「やあ! 有希ちゃん、久しぶりだね!」

「あ! 有希ちゃんだ!」

「本物のAkiちゃんだ……生きてた……っ!」


部室に入るなり、御子柴部長をはじめとする部員たちが

まるで絶滅危惧種の珍獣を見つけたかのような大歓声で私を出迎えてくれた。


「すみません、最近ちょっと色々あって全然来られなくて……」

「いいよいいよ、気にしないで!

  Akiちゃんとしての活動インフルエンサーも大バズりしてて大変そうだもんね!

……でもね、有希ちゃん。君がいない間も、僕たちは止まっていなかったんだよ」


御子柴部長が、眼鏡の奥の目をギラリと怪しく光らせた。

「ついに……ついに完成したんだ。君のアイデアをもとに研究を重ねていた

我が付与術部の最高傑作――『魔力Wi-Fi発信機』と『専用受信アンテナ』がね!!」


「――っ!?!?!?」

その瞬間、私の目の色が一変した。

魔力Wi-Fi。それは、ダンジョンの中だろうが

電波の届かない無人島だろうが、魔力を供給するだけで爆速のインターネット環境を構築できるという

全引きこもり人類が涙を流して歓喜する神のインフラである。


「ほ、本当ですか部長!? 今すぐそれを見せて、私のスマホと同期させてください!!」

「あはは、落ち着いて有希ちゃん。精密機械だから別の実験室に保管してあって

ここには持ってきてないんだよね。

……それに、完成はしたものの、実はちょっとした『問題』があってさ」


御子柴部長は、ポリポリと頬を掻きながらため息をついた。

「問題、ですか?」


「うん。僕たちってただの学生の部活動じゃない?

だから、この素晴らしい魔力Wi-Fiを一般に普及させようにも

販売ルート(販路)がまったく無いんだよね……」


「あー……」

確かに、どれだけノーベル賞級の発明をしても

それを売るお店や会社との繋がりがなければ、ただの「部室の置物」で終わってしまう。


「今までは、作った付与アイテムってどうしてたんですか?」

「今まではね、学校側が備品として買い取ってくれたり

親戚の伝手とか、ネットの個人依頼とか

あとは冒険者ギルドの買い取り窓口に直接持ち込んだりしてたんだよね。

でも、魔力Wi-Fiみたいな通信インフラ系となると、流石に個人の伝手じゃどうしようもなくて」


「なるほど……。わかりました。それなら、少し私も知り合いのツテを探してみますね」


(……というか、私の周り、販路になりそうな大物しかいないわね

神代の狸爺(覚醒者協会会長)に、トップ配信者のヒカト君

ついでにさっきメールしてきた極道の沢井さん。

うん、どこに持ち込んでも一発で国家規模のビジネスになりそうだわ)


「本当かい!? ありがとう、有希ちゃんがそう言ってくれると百人力だよ!」

御子柴部長はパッと顔を輝かせると、ポンと私の肩を叩いた。

「じゃあ、販路の件は一旦置いておいて! 今日は久しぶりの部活だし

みんなで『防具への付与術』に挑戦してみようと思うんだ!」


「防具への付与! 素晴らしいですね! もし成功したら、私のこの制服に付与してください!

母親の特訓(拷問)に耐えられるレベルのやつを!」

「あはは、流石にチート級の付与は、僕たちの技術じゃ簡単にはできないよー」


御子柴部長が苦笑いする。……ふむ、簡単にはできない、か。


「それじゃあ、ちょっとだけコツを教えますね」

私はそっと袖をまくり、異世界(前世)で嫌というほど叩き込まれた『

効率厨のための付与魔術』の理論の一部を、ホワイトボードにサラサラと書き込み始めた。


「魔力をそのまま流すんじゃなくて

こうやって術式を『ハニカム構造(六角形)』に編み込んでみてください。

こうすると、少ない魔力量でも強度が5倍になります」

「え……? なにこれ

こんな術式の配置、どの教科書にも載ってない……。

待って、この術式の繋ぎ目って、もしかして……っ!?」


術オタクである御子柴部長をはじめ、部員たちの目の色が変わった。

「すごいよ有希ちゃん! これなら本当に物理カットが付与できるかもしれない!

  みんな、今すぐ実験だ!!」

「「「おおおおおっ!!」」」


そこからは、まさに狂気のマッドサイエンティストたちの宴だった。

私も、自分の夏休みの引きこもりライフ(魔力Wi-Fi)と、生存戦略(頑丈な服)のために

ついうっかり時間を忘れてガチのアドバイスを連発してしまい――。


「――こらぁぁぁ! 付与術部!!

とっくに下校時刻を1時間も過ぎてますよ!! 早く片付けて帰りなさい!!」


最終的に、見回りに来た激怒した生活指導の先生に盛大に怒鳴られ

私たちはクモの子を散らすように部室を片付ける羽目になった。


私の待ちに待った夏休み(パラダイス)は

初日から怒られ、そして裏社会と巨大ビジネスの足音が忍び寄るという

完全に前途多難な形で幕を開けるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ