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第68話:【生徒会長の猛獣使い】

グラウンドでの憂鬱な宣告から数十分後。

私は生徒会の副会長である東郷雄一先輩に首根っこを掴まれたまま

校舎の最上階にある生徒会室へとドナドナされていた。


「……で。なんで私が連行されてるんですか?」

「悪いな、有希。

今、生徒会室で理沙(生徒会長)と葵(書記)がバチバチにやり合っててな。

他の役員たちが恐怖のあまり息をしてないんだ」


雄一先輩は頭をガシガシと掻きながら、深い深いため息をついた。


「それ、なんで私を呼ぶんですか。

ヒラの強制入会メンバーである私が首を突っ込んだら

余計に面倒なことになる未来しか見えないんですけど」

「決まってんだろ。理沙(会長)がお前のこと大好きだからだよ」

「は?」


「お前の言うことなら、あの暴君も絶対に聞く。

だから、とりあえずお前の顔面とカリスマ性で、あの場を鎮めてほしいんだ。頼む!」

「……無茶ぶりにも程があるでしょ……」


私はげっそりと頬を引きつらせた。

なんで私が猛獣使いみたいな真似をさせられなきゃいけないのか。


生徒会室の前に到着すると、分厚い扉の向こうからでも

「ですから予算が!」「安全性が第一でしょうが!」という

女性同士のヒステリックな怒声がバッチリ漏れ聞こえてきた。


(うわぁ……帰りてぇ……)


コンコン、と雄一先輩がノックをして扉を開ける。

「おーい、お前ら。助っ人を連れてきたぞ」


部屋に入った瞬間、私は「うわっ」と顔をしかめた。

室内は文字通り『一触即発』。

理沙会長と葵先輩が机を挟んで火花を散らしており

壁際には他の役員たちが、怯えた小動物のように固まって震えていた。


「……あの、どうしたんですか? このお通夜みたいな空気」

私がドン引きしながら尋ねると

壁際で死にかけていた役員の一人(会計の先輩)が

涙目で駆け寄ってきて説明してくれた。


「有希ちゃん……! 実はね、今度の学校対抗戦に向けて『回復者ヒーラー』を

外部から雇うんだけど、そのランクをどうするかで揉めてるのよ」

「あれ? 順位戦の競技って

全部VR(仮想現実)空間でやるんじゃないんですか?

痛覚もないし怪我もしないって聞いてましたけど」


私が素朴な疑問をぶつけると、先輩は首を横に振った。


「有希ちゃんは1年生だから知らないのも無理ないわね。

実は、2年生以上の『ソロバトル』と

全学年共通の目玉イベント『学校代表戦』だけは……

VRじゃなくて【現実リアル】で直接やり合うのよ」

「えっ、マジですか(絶対出たくない)」


「で、毎年持ち回りで大会のホスト校が回復者を雇うルールなんだけど

今年はうちの学校の番なの。でも、凄腕の回復者を雇うのって

ものすごーくお金がかかるのよ。だから、安全性を重視して『B級』を雇うか

予算を抑えて『C級』にするかで言い合ってるってわけ」


なるほど。

(私が『無償で回復やりますよ!』なんて立候補したら

絶対ろくなことにならないわね。そもそもお母様(S級)の

治癒力なんて見せたら、また世界がパニックになるし)


私は心の中で固く口チャックを誓い、徹底的に聞き役に徹しようと気配を消した。

――が。


「あっ!! 有希!! 私の有希!!」

私が入室したことに気づいた理沙会長が、怒の形相から一転

パァァッと顔を輝かせてこちらに突進してきた。


「よく来てくれたわね有希! ねぇ、あなたはどう思う!?

私の天使の意見を聞かせてちょうだい!!」

「えっ!?」


急なキラーパスに動揺する私。会長と葵先輩の、期待に満ちた視線が私に集中する。


「あー……えっと……」

私は視線を泳がせながら

この場を一番手っ取り早く終わらせる【適当なテンプレ回答】を引っ張り出した。


「……と、とりあえず、後日にしたらいいんじゃないですかね?

ここで今あーだこーだ言い合っても平行線ですし。

一旦お互いに頭を冷やす時間を作るのも、大事な判断じゃないかなー……なんて」


すると。


「……っ!! そ、そうね! 有希の言う通りだわ!

感情的になっては正しい判断ができないものね!」

「確かに、有希さんの仰る通りです。少し頭を冷やしましょう、会長」


さっきまで殺し合い一歩手前だった二人が

私の適当すぎる発言でアッサリと矛を収め、深く頷き合っている。



「そういうわけだから、今日はこれで解散よ! 有希がせっかく来てくれたんだし

これ以上野暮な会議を長引かせるわけにはいかないわ!」

「「「お疲れ様でしたー!!」」」


役員たちが蜘蛛の子を散らすように、喜んで帰る準備を始めた。


「えぇ……(なんだこの茶番)」

私はドン引きしながらジト目で雄一先輩を見ると

彼は親指を立てて「助かったぜ」とウインクしてきた。


(マジで、私なんのためにここに来たの……?)

理不尽な生徒会の扱いにげっそりしつつ

私は早々に学校を後にし、その足である場所へと向かった。


***


――市内にある総合病院。

私は病室のドアの前で足を止め、「コンコン」と軽くノックをした。


「はぁい、どうぞー!」

中から明るい少女の声が響く。


ドアを開けて病室に入ると

ベッドの上に座っていたパジャマ姿の少女

佐々木翔の妹である『千晶ちあき』ちゃんが

私の顔を見るなりパァッと花が咲いたような笑顔になった。


「お姉さま!! 来てくださったんですね!!」


(……相変わらずの『お姉さま』呼びである。

先日、こっそり彼女の病気を治した時に勢いで受け入れてしまったため

今さら訂正するのも面倒で放置している)


「ごめんね、学校とか色々あって、なかなかお見舞いに来れなくて。

……『魔素の浸食』の後遺症はどう? 体のどこか、痛むところはない?」


私がベッド脇の椅子に座りながら尋ねる。

千晶ちゃんを苦しめていた原因は、一般人の体が大気中の魔力に

耐えきれずに細胞が破壊されていく『魔素の浸食』だった。

私のチート回復魔法で強制的に魔素を中和し、細胞を再生させたのだが

一抹の不安は残っていた。


「えへへ、体調はもうばっちり絶好調です!

走っても全然息切れしないし! ……それどころかお姉さま、

聞いてください! 私、なんだか『覚醒者』に目覚めちゃったみたいなんです!」

「え?」


突然の告白に、私は目をパチクリとさせた。


「ステータス画面も、急に見えるようになったんですよ! ほら、見てください!」

千晶ちゃんが嬉しそうに虚空をスッと指でなぞる。

すると、空中におなじみの半透明の【ステータスボード】が浮かび上がった。

この世界のステータスボードは、本人が許可(可視化)すれば他人にもハッキリと見える仕様になっている。


私は身を乗り出して、千晶ちゃんのボードを覗き込んだ。

そこには確かに――。


【職業:回復士プリースト

【スキル:回復ヒールLv.1】


「えいっ!」

千晶ちゃんが右手をかざすと、

手のひらに淡い治癒の光がポワッと灯った。間違いない、魔法スキルだ。


「私、お姉さまみたいな立派なヒーラーになれそうですよ!

これで退院したら、お兄ちゃんなんかより、ずっとずっとお姉さまのお役に立てます!」

「…………はい?」


私は脳天に雷が落ちたような衝撃を受けた。

(ちょっと待って。『魔素の浸食』って

体が魔素に耐えられないから起こるんだよね?

私があの時、膨大な魔力とチート回復魔法を彼女の体に叩き込んで浄化した結果

強引に魔力が体に『適応』しちゃって

覚醒者として突然変異(ミュータント化)したってこと!?)


千晶ちゃんは瞳に狂信的なキラキラとした光を宿し、私の手をぎゅっと握りしめてきた。


「私、お姉さまのためなら何でもしますからね!」


最強のヤンデレ?生徒会長。

ヤクザの娘で最強のアタッカー。

熱狂的信者の花梨。

そして、私の手によって魔法で強制進化させてしまった狂信者の妹(NEW!)。


(……私の周り、ヤバい奴しか集まってこないんだけど……!!)


私は引きつった笑顔で「あ、あはは、すごいね……」と

相槌を打ちながら、スローライフがまた一歩

音を立てて崩れ去っていくのを感じていた。

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