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第67話:【生贄の1位】

「――よし! 今日の授業をもって

 学内選抜のための『順位戦』をすべて終了とする!」


グラウンドに響き渡る、熱血教官の大音声。

「各競技の個人戦上位3名、団体戦上位5名が

来たる他校との対抗戦への出場権を手にする!

悔いの残らないよう、全力を尽くしてこい!!」

「「「オオォォォッ!!」」」


クラスメイトたちが青春の汗を流しながら威勢のいい返事をする中

私は一人、死んだ魚のような目で右手をスッと挙げた。


「教官! 質問です!! 私の学年順位は変わらずそのままなんですか!?

というか、私、強制的に生徒会に入れられたんですけど

生徒会役員は特権で順位戦とかいう危険なイベントから除外されるとか

そういう素敵な裏ルールはダメなんですか!?」


私が必死の形相で食い下がると、教官は腕を組み、不思議そうな顔で首を傾げた。


「何を言っているんだ、高橋。お前の順位は当然変わらず『1位』のままだ。

というか、お前に挑んでくる命知らずな奴が一人もいなかった以上

落ちようがないだろうが。生徒会に入ろうが関係ないぞ」

「そ、そんな殺生な……!」


「だがまあ、安心しろ。有希は順位戦で1位を維持してはいるが

各競技(魔法射的や模擬戦など)に一切エントリーしていないから

普通の競技には出場しない」

「……! ほ、本当ですか!?」

私はパァァッと顔を輝かせた。なんだ、ただの取り越し苦労じゃないか。

私は安全圏でポップコーンでも食べながら、みんなの勇姿を見学していればいいのだ。


「ああ。お前が出るとしたら、普通競技ではなく

他校の1位から3位の猛者たちと直接ぶつかり合う

対抗戦の目玉イベント『学校代表戦』くらいだな」

「…………はい?」


時が、止まった。


「それ……聞いてないんですけど?」

「ん? 簡単に説明すると、1年から3年までの各学校の

『トップ層(1位)』同士がタイマンで戦い、最強の学校を決めるという

一番盛り上がるメインイベントだ。お前は1年の1位だからな。

詳しいルールは生徒会長から聞いてくれ。じゃあな!」

「」


教官は爽やかに言い残し、去っていった。

私はその場に膝から崩れ落ち、グラウンドの隅っこへ這いずって移動すると

ダンゴムシのように小さく丸まった。


(そういうことか……!!)

私の脳内で、これまでのクラスメイトたちの不可解な行動がすべて線で繋がった。

(私が「1位は嫌だ」って言っても、みんな『いやいや、有希様こそ1位にふさわしいです!』

とか言って、適当な理由をつけて私に1位を押し付けてきた理由……!

私を崇拝してたわけじゃない! 一番危険でヤバい他校のバケモノと戦う

『学校代表戦』の枠に、私を【生贄】として捧げるために謀ったのねぇぇぇッ!!)


そんな被害妄想を大爆発させ、暗いオーラを放って丸まっていると。


「有希。いつもにも増して顔色が最悪だけど、大丈夫?」

呆れ顔の香澄ちゃんが、ポンポンと私の肩を叩いてきた。


「……香澄ちゃん。私、今、どうやったら『学校代表戦』を合法的にバックレできるか

真剣に海外逃亡のルートを考えていたところなの」

「苦笑いしか出ないわね。むしろ、あなたがそれを今まで知らなかったことの方が驚きよ。


事前配布された資料とか、生徒会規則に全部デカデカと書いてあったでしょ?」


香澄ちゃんの的確なツッコミに対し、私はバァン!と胸を張って言い切った。


「日々を生き延びるだけで精一杯の

この虚弱体質(オールステータス3)の私が!

何十枚もある活字の資料を読むなんて『重労働』

できるわけないでしょ!!」

「威張ることじゃないわよ……」

香澄ちゃんが深いため息をついた直後。


「有希ちゃぁぁん!!」

自分の試合を終えたばかりの花梨ちゃんが

犬のように尻尾を振る勢いで駆け寄ってきた。


「今の有希ちゃんの言葉、聞こえたよ! さすが有希ちゃん!

くだらない活字を読むような些細な労力を削って

すべてを『より高次元の思考』にリソースを割いているんだね!

その合理性とカリスマ性、本当に尊敬するッ!!」

「はっはっは、もっと褒め称えていいのよ花梨ちゃん」

「あんたのそのフィルター、どういう構造してんのよ……」


香澄ちゃんが頭を抱えていると、ピーッ! と終了の笛が鳴った。


「全員集合! 結果を発表する!」

教官がバインダーを片手に、通過者の名前を読み上げていく。


「……以上だ。出場決定おめでとう!。だが努力は怠らないように!」


「「「やったぁぁっ!!」」」

花梨ちゃんたちがハイタッチをして喜び合う。

なんだかんだで、私のパーティーメンバーは全員

本戦への出場切符を手に入れてしまったらしい。


「よし! せっかくみんな出場できるんだし

対抗戦に向けて、またパーティーメンバー全員で

『ダンジョンでレベル上げ』に行きましょうか!」

香澄ちゃんが、提案を口にした。


私がのほほんと聞いていると修平がおずおずと手を上げた。


「あ、あのさ……。俺も、一緒に行っていいのかな……?」

「はあ? 何言ってんのよ、あんたもウチのメンバーなんだから、当然でしょ?」

「か、香澄……! お前、良い奴だな……ッ!」


修平が感動して涙ぐみながらお礼を言い

私の意志など1ミリも介在しないまま

週末の【強制レベル上げダンジョン合宿】が勝手に決定してしまった。


「あはは……じゃあ、今度行きましょっか……」

私が乾いた笑いを浮かべながら遠い目をしていると。


「おっ。盛り上がってるところ悪いが

そこのお嬢さんを借りていいか?」

不良のような着崩した制服姿の生徒会副会長・東郷雄一先輩が

ひらひらと手を振りながら近づいてきた。


「あ! 雄一先輩! 先日のダンジョンの件は、本当にありがとうございました!」

花梨ちゃんと香澄ちゃんが、ピシッと姿勢を正して改めてお礼を言う。


「いいってことよ。気にするな」

雄一先輩はニッと野性的に笑うと、ジロリと私に視線を向けた。

「その分、こいつ(本人)にたっぷり『借り』を返してもらうしな」


「はて?」

私は首を傾げ、可愛い純度100%の小首をかしげて見せた。

「なんのことやら、私にはさっぱり。記憶喪失かもしれません」


「ほほう? 覚えてないなら、それでもいいぜ。

その分、莫大な『利子』を上乗せして、強制労働させてやるからな」

「……申し訳ございませんでした。何なりとお申し付けください」

私は0.2秒で白旗を揚げ、ペコペコと頭を下げた。逆らったら絶対に面倒なことになる。


「悪いが、こいつはちょっと借りていくな」

雄一先輩は私の首根っこをヒョイッと掴むと

そのままズリズリと引きずるようにして生徒会室へと歩き出した。


「いってきまーす……」と、花梨たちにドナドナされる牛のように手を振る私。


「……あのさ、有希」

生徒会室へ向かう静かな廊下で、前を歩く雄一先輩が、ふと足を止めて振り返った。

その顔は、いつもの飄々とした態度とは違い、ひどく深刻で、険しいものだった。


「どうしたんですか、先輩。そんな怖い顔して」

「……悪いな。俺じゃ、どうしようもできん事態になっちまった。

お前、ちょっと『手』を貸してくれ」


「…………え?」

そのあまりにも不穏すぎる台詞に

私の背筋に冷たい汗がツーッと流れ落ちた。

学園でもトップクラスの実力者である雄一先輩が

「どうしようもない」と弱音を吐く事態。

そんなものに関わったら、私の命がどうなるか火を見るより明らかである。


(嫌だあああぁぁぁ! 帰りたい! 今すぐお家に帰って

お母さんの地獄の特訓を受けた方がまだマシな気がするぅぅぅ!!)


私は心の中で絶叫しながら、胃の痛みを抱えて

重い重い生徒会室の扉へと連行されていくのだった。

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