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第57話:【三文芝居の開演】

第57話:【三文芝居の開演】と【短縮されるスカート丈】



週明けの朝。


私は洗面台の鏡の前で、入念に

自分の表情と装備(主にスカートの下に仕込んだ各種ヤバい魔道具)のチェックを行っていた。


(よし。今日は神宮寺が仕掛けてくる『茶番劇』の本番。

完璧な被害者ムーブをかまして、あいつを完全に社会的に抹殺するための大事な日だ。

気合い入れていこう)


パンッと両頬を叩く。


(……前世で魔王討伐の前夜も、こうやって鏡の前で気合いを入れてたな)


(あの時と今で何が違うかというと、敵が魔王からイキった学生になっただけよね)


(楽になったとも言えるし、落差がひどいとも言える)


リビングへと向かう。


「おはよう、お父さん、お母さん」


「おはよう、有希」


席についてトーストを齧っていると、向かいに座っていたお母様が、スッと目を細めた。


「……有希。今日はなんだか、いつもと雰囲気が違うわね?」


(げっ、めざとっ!)


(さすがS級、娘の放つ『今日一仕事してやるぜ』という歴戦のオーラを察知したか!)


(この人には本当に何も隠せない)


私は内心の焦りを完璧なポーカーフェイスで隠し、小首を傾げた。


「そう? うーん、今日は上級生の方たちとの『ダンジョン実習』があるから

 少し緊張してるのかも」


「なんだ、そういうことか」


横から新聞を読んでいたお父さんが、優しく微笑みかけてきた。


「大丈夫だよ、有希。お前は優秀なんだから

 普段通りにやればいい。無理だけはするなよ?」


「うん、ありがとうお父さん!」


(無理しかしないんだけど、それは言わないでおこう)


朝食を終え、玄関のドアノブに手をかけた瞬間だった。


「ちょっと待ちなさい、有希」


「ひゃいっ!?」


お母様に肩をガシッと掴まれ、私はカエルみたいな声を出した。


お母様は私の全身を上から下までジロリと値踏みするように見つめると

不満げにため息をついた。


「あなた、またスカートの丈を長くしたわね?

だーめ。有希の綺麗な脚は、もっと世間にアピールしていくべきよ」


目にも留まらぬ手つきで私のスカートのウエスト部分をクルックルッと折り曲げた。


「ほら、これでよし! 気をつけて行ってきなさいね!」


「あ、はい……行ってきます……」


(ううっ……スースーする……。せっかく防御力を上げるために

気持ち長めに調整しておいたのに!)

 

(お母さん的には「娘の脚のアピール」だけど

私的には「有事の際の防御力確保」なのよ! 目的が全然違うのよ!!)


中身が三十路越えのおっさんである私にとって

女子高生のミニスカートは色んな意味で落ち着かない装備なのだが

S級マザーには逆らえないので大人しく家を出た。



***



学園の指定された集合場所、第7区ゲート前。


すでに複数の生徒たちが集まっており、ワイワイと騒がしい。

適当に歩いていると、やたらと爽やか()な声が降ってきた。


「有希ちゃん、おはよう。今日も可愛いね」


神宮寺豪である。


(この男が今日の敵ね。今の私の目には

でかでかと「悪役」と書いてあるように見える)


(演技、ちゃんとしないと)


周囲の女子たちから「キャーッ、神宮寺先輩よ!」「あの1年生、生意気!」

といった歓声と嫉妬の声が上がるが、私は完璧なスルー技術で神宮寺に向き直った。


「おはようございます、神宮寺先輩」


「ああ。紹介するよ、今日一緒にパーティを組む佐々木翔だ。

 彼も優秀なアタッカーだよ」


神宮寺の横から、仏頂面の翔が一歩前に出た。


「初めまして。高橋有希です。先輩、本日はよろしくお願いします」


私は一切の邪念を感じさせない、100点満点の清楚な笑顔で一礼した。


「……ああ、佐々木翔だ。よろしく頼む」


翔もまた、完璧な初対面の演技で返してきた。


その目が、ほんの一瞬だけこちらを見た。


(……お前もそっちが来てるのか)


私の目も、ほんの一瞬だけ答えた。


(来てる。予定通りよ)


アイコンタクトは、コンマ一秒で終わった。


「よし、それじゃあメンバーも揃ったことだし、行こうか」


神宮寺の号令で、私たちはゲートをくぐってダンジョンの中へと足を踏み入れた。



***



「この第7区ダンジョンは、D級には届かないくらいの

実質E級上位レベルのフィールド型ダンジョンだ。

草原、森、洞窟、海など様々な環境が混在していて

資源が豊富に眠っている。国が管理している

いわゆる初心者パーティの練習用ダンジョンだな」


先頭を歩く神宮寺が、得意げに解説をしてくれる。


「へー、そうなんですね! すごーい!」


私はとりあえずキャバ嬢レベルの完璧な相槌を打ちながら、最後尾を歩いていた。


ギャウッ!


草むらから飛び出してきたゴブリンやスライムに対し

私は後方から支援魔法を二人にかけつつ、指先に魔力を集めて魔弾を飛ばして援護していた。


(あー……めんどくさい! 巧兄さんに作ってもらった魔道銃は奥の手だから使えない。

だから手動で魔力を圧縮して撃たなきゃいけないのよね。

ステータスが上がったせいで保有魔力が増えて制御が更に難しくなってるし

うっかり力を入れるとゴブリンごと地形がえぐれちゃうから、手加減がめちゃくちゃ難しい……!)


私が指鉄砲スタイルで「ばきゅーん」と丁寧に魔弾を足狙いで撃っていると、神宮寺が振り返った。


「有希ちゃんは銃を使うって聞いていたんだけど、今日は使ってないんだね?」


「あ、はい。ちょっと前に壊れちゃって、今は知り合いに修理してもらってる最中なんですよ」


私はにっこりと笑って嘘をついた。


「そうなんだね。

でも、銃なんて今は『魔力効率が悪い時代遅れの武器』って言われて、

周りから馬鹿にされがちじゃないか? なのに使い続けてるなんて

何か思い入れでもあるのかい?」


探りを入れるような質問だ。


「ええ、まあ。お父さんが私用にカスタマイズしてくれた大事なものなので。

慣れたら色々応用が利いて便利なんですよ」


「なるほど。そういうことか」



そんな会話をしながら奥地へと進んでいくと。


「――止まれッ!!」


翔が鋭い警告を発し、右の茂みに向かって剣を薙ぎ払った。


ガキンッ!


茂みの中から、柄の悪そうな男たちがゾロゾロと姿を現した。


「チッ……よく分かったな、ガキ」


顔に傷のある男が、下卑た笑みを浮かべて前に出る。


「お前、神宮寺だろ? ちょっと俺たちに付き合ってくれや」


「断るッ! お前たち、何者だ!」


神宮寺が迫真の演技で剣を構える。


(……大根だわ。翔が緊張感を出してくれてるのに

神宮寺だけ台詞を読んでる役者みたい。目が全然怖くない。

こいつ、本当に役者に向いてないわ)


「へっ、ならば無理やり連れて行くしかねえな。おい、やっちまえ!!」


男の合図と共に、周囲の草むらから大量のごろつきたちが一斉に飛び出してきた。


「くそっ、数が多い! 有希ちゃん、下がってろ!」


「やるしかねえな!」


神宮寺と翔が武器を構える。


私は「きゃああっ!」とわざとらしい悲鳴を上げて後方に下がった。



マフィアたちが私に向かって襲いかかってくる。


私は薄い防御魔法を展開して攻撃を弾きつつ、指先に魔力を集めて次々と反撃していく。


「えいっ」


パスッ!


「ぎゃあっ!? 足がっ!?」


「やぁっ」


パスッ!


「ひぃっ!? 腕の関節がぁぁ!」


(ああっ、もう! やっぱ銃じゃないと出力調整がキツい!

殺さないように手足の関節だけを正確に撃ち抜くの

めちゃくちゃ神経使うんですけど! これ一番地味で辛い作業よ!!)


「えいっ」パスッ「やぁっ」パスッ「えいっ」パスッ。


丁寧に、一人ずつ、確実に。


(前世で魔王と戦ったのと同じ集中力を、今この地味な作業に使っている)


(なんかすごく複雑な気持ちよ)


激しい(?)戦闘が始まってから数分後。


「有希ちゃあああんッ!! 大丈夫!? 今助けるからねぇぇぇッ!!」


ズドォォォン!!


凄まじい爆発音と共に、森の木々を薙ぎ倒しながら

見慣れた狂信者(花梨)と冷静なツッコミ役(香澄)

そして東郷先輩のパーティが乱入してきた。


(来た。予定通り)


「な、なんだ!? 援軍なんて聞いてねえぞ!?」


マフィアのリーダー格が慌てふためく。


「う、うろたえるな! たかが学生のガキ共が数人増えただけだ、まとめて殺せ!」


「――ふん。たかが学生に、貴様らごときが勝てるとでも?」


花梨たちのパーティの先頭に立った東郷先輩が、冷ややかに剣を構えた。


東郷先輩の広範囲魔法と、花梨の狂戦士ムーブ、香澄の的確なアシストにより

大量にいたマフィアたちはあっという間に制圧されていった。


(花梨ちゃん、ナイスよ。)


「有希ちゃん! 無事!? 怪我はない!?」


敵をなぎ倒した花梨が、涙目で私のもとへ駆け寄ろうとした、その時。


「くそっ……! こうなったら、予定変更だ! お前らだけでも道連れにしてやるッ!」


ボロボロになったマフィアの一人が、禍々しい光を放つ魔道具を取り出し、地面に叩きつけて割った。


(――ッ! 空間魔法の強制起動! そういう段取りだったのね)


ピカーーーッ!!


強烈な光が私たちの足元を包み込み、視界が完全にホワイトアウトする。


浮遊感と強烈な吐き気を伴う空間転移の感覚。



「有希ちゃ――――!!」


花梨の叫び声が途切れ、私の意識は暗転した。

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