第55話:【狂信者の布教活動】と【神宮寺包囲網、完成】
第55話:【狂信者の布教活動】と【神宮寺包囲網、完成】
週末の駅前。
凄まじい人だかりの中で、私は電柱の陰に隠れるようにして身を潜めていた。
(遅い……早く来てくれないかな。
さっきからジロジロ見られて、居心地が悪すぎる……!)
「ねえねえ君、一人? めっちゃ可愛いね! これから俺らとお茶しな——」
「あー、ごめんなさい。今から臓器売買のブローカーと待ち合わせしてるんで。
急ぎなんで失礼」
「ヒッ……!?」
群がってくるナンパ男たちに、適当かつブラックすぎる嘘を吐き捨てて
追い払うこと数回。
ようやく、見慣れた二人の姿が人混みの向こうから現れた。
「ようやく来た……。もう人酔いと視線で死にそうだったよ……」
私がフラフラと歩み寄ると、花梨が私の顔を見るなり、アスファルトに膝をついて両手を天に掲げた。
「あああっ!! 尊き有希ちゃん!! 待ち合わせに数分遅れ
女神に無辜の民の相手をさせてしまったこの大罪……!
どうか、どうか私を業火で焼いて浄化してくださいっ!!」
相変わらずの狂信者ムーブである。
周囲の通行人が「ヒソヒソ……何あのヤバい子……」と完全に道を譲ってくれている。
「あんたはまず、その頭のネジを数本締めてから来なさい」
隣にいた香澄が、花梨の後頭部に容赦のないチョップを叩き込んだ。
「ほら、有希。あんなバカほっといて、さっさとカフェに入るわよ
あんた、ただでさえ目立つんだから」
香澄の極めて冷静かつ的確なツッコミと誘導により
私たちは無事、駅前のオシャレなカフェへと避難することに成功した。
***
「……ふぅ、生き返るわ」
運ばれてきたフルーツパフェの生クリームを口に運びながら、私はほっと一息ついた。
目の前では、花梨が『有希ちゃんがパフェを食べる尊いお姿』を無音カメラで連写している。
「さて、今日二人を呼んだのは、週末最後のお願いがあるからなの」
私はスプーンを置き、声を潜めた。
「神宮寺が、何やらまたよからぬことを企んでいるみたいなの。
だから、二人に協力してほしくて。……明日の実習で、
私が潜る予定のダンジョンは『第7区・地下庭園ダンジョン』よ」
すると、花梨がパッと顔を輝かせた。
「有希ちゃんがお入りになる聖域ですね!
でしたら、私た(・)ち(・)のパーティの先輩たちに
巡礼先(目的地)の変更を懇願してみます!」
「……ん? 私たち?」
私は首を傾げた。花梨のパーティに、香澄は入っていないはずだ。
「はい! 香澄ちゃん、クラスで変な噂立てられて
みんなが嫌がってパーティ組めてなかったじゃないですか」
花梨は胸を張り、神の教えを説く伝道師のような顔で力説し始めた。
「ですから! 私が所属してるパーティの先輩たちの足元にすがりつき
『香澄ちゃんを入れないなら、
私は有希ちゃん教の布教活動に専念するためダンジョン探索を引退します!』と慈悲を乞うたら
先輩たち、顔を引きつらせて即座にOKしてくれました!
なので、明日から一緒のパーティで潜ることになったんです!」
(先輩たち、絶対引いてただけだろ……)
ドン引きの光景が目に浮かんだが、結果オーライである。
「偉いわ、花梨ちゃん。見事な交渉術ね」
私は手を伸ばし、よしよしと花梨の頭を撫でた。
「あへぇっ……! 女神様の、御手が……私の頭に……
尊い、尊すぎます……ああっ、理性が飛ぶ……!」
褒められた花梨は、目をガンギマリにさせて完全にフリーズした。
「……あんた、本気で何かの宗教の教祖になったほうがいいわよ」
一部始終を見ていた香澄が、呆れ果てたようにため息をつく。
「でも、有希。……あんたも、私なんかよりずっと大変そうね」
「そうね。でも、うだうだ言ってても仕方ないし。
降りかかる火の粉は一つ一つ物理的に潰すしかないから。二人とも、協力してね?」
私が上目遣いで小首を傾げると、香澄はフイッと少しだけ照れたように視線を逸らした。
「……わかったわよ。その代わり、また私とこのポンコツ信者のレベル上げと
このカフェのおごりね」
「ふふっ、それくらいお安い御用よ」
その後は、ただの女子高生らしくキャッキャと他愛のない女子会トークに花を咲かせた。
(中身はアラフォーのおっさんだけどな!)
***
「それじゃ、私ちょっと寄るところがあるから」
カフェを出た後、二人と解散した私は、人目に付かない路地裏に入り
スマホで連絡を入れた。
数分後、滑り込んできた黒塗りの高級車――橘の運転する車に乗り込み
私は『覚醒者協会』の地下駐車場へと向かった。
案内された会長室の重厚なドアを開けると、ダンディな神代会長が葉巻を咥えて待ち構えていた。
「よく来たな、お嬢ちゃん。……まずは、例のモノの確認からだな?」
「ええ、お願い」
会長が取り出した特殊な魔道具(ステータス測定器)に手を乗せる。
表示された私のステータスを見て、私は心の中で「おっ?」と声を上げた。
『筋力:3 体力:3 敏捷:3 魔力:測定不能』
(オール3になってる……! なるほど、あの魔法の過剰使用で魔力経路を酷使しまくると
基礎ステータスが少しずつ底上げされる仕様ってわけか。これは良い検証結果だぞ)
ゲーマー的な考察を巡らせながら、私は表面上は満面の笑みを作った。
「わぁっ! 全部3に上がってます! やったぁ!」(※大根役者の演技)
「……たった『3』でそこまで喜べるお前のメンタルが羨ましいよ」
会長は呆れたように葉巻の煙を吐き出すと、表情をスッと引き締めた。
「で? 本題だ。神宮寺のガキは、何を企んでいる?」
「海外のマフィアを呼び寄せて、私をダンジョンで直接痛めつけるらしいわ。
行く先は『第7区・地下庭園ダンジョン』よ」
私がサラリと告げると、会長の目が鋭く光った。
「なるほど。相手が手を出してきたところを、協会側で一斉に制圧しに行けばいいわけだな?」
「できれば、神宮寺豪本人がマフィアに指示を出した証拠(録音とか)を
取ってから一網打尽にしたいんだけど……それはたぶん無理よね?」
「ああ。あいつら親子はなかなか狡猾だ。自分からボロは出さんだろう。
……だが、ギリギリまでうちの『隠密持ち』の部隊をダンジョン内に潜ませて、証拠を押さえるよう動かしてみよう」
「それで十分よ。私の友人たちのパーティもすぐ近くに救援に来る手はずになってるから
会長たちの出番はすぐには来ないと思うわ」
私の完璧な布陣を聞いて、会長は満足そうに頷いた。
「分かった。……橘、任せたぞ」
背後に控えていた橘が、深々と一礼する。
「ハッ。お任せください、万抜かりなく」
「よし。じゃあ、今回の報酬として……
後日、私の懇意にしている人物の『治療』をお願いしていいか?」
会長がニヤリと笑って条件を提示してくる。
「……げぇっ」
私は思わず素で嫌な顔をしてしまった。
「……また面倒くさそうな患者ね。
まあ、協力してくれるならしょうがないわね。治せばいいんでしょ、治せば」
渋々承諾する私を見て、会長と橘は苦笑した。
(さあ、神宮寺豪。お前が用意したちっぽけな罠の周りに
どれだけ巨大な【包囲網】が敷かれているか……たっぷり絶望させてあげるわ)
私は心の中で極悪人顔負けの暗黒スマイルを浮かべながら、会長室を後にした。
神宮寺を社会的に抹殺する為の絶対包囲網が、今、静かに完成しようとしていた。




