第53話:【裏取引と海外マフィア】と【完成するサボり専用魔道銃】
千晶ちゃんの病室での出来事から数日後。
私は学園の裏庭、旧校舎の裏手に呼び出されていた。
「……来たか」
壁に寄りかかり、腕を組んで待っていたのは、佐々木翔だった。
神宮寺豪の側近であり、私が数日前に手紙を託した相手だ。
彼は周囲を鋭く警戒した後、懐から一通の手紙を取り出した。千晶ちゃんに渡した、私の手紙である。
「妹から受け取った。……単刀直入に聞く。これに書かれていたことは、本当か?」
翔の目は、藁にもすがるような切実さと、疑心暗鬼が入り混じっていた。
「ええ、本当よ」
私は余裕たっぷりに微笑んだ。
「数日前に少しだけ千晶ちゃんを診察させてもらったわ。
……結論から言うと、私なら彼女の病気、確実に治せるわよ?」
(※注:すでに完治済みであり、現在は超健康体で私の熱狂的信者になっている。
だが本人の前途を慮って伏せているのだ)
翔の息が「っ……!」と詰まるのが分かった。
「……神宮寺ですら、高額な魔力延命薬で症状を抑えることしかできなかったんだぞ。
それを完治させるだと? 本当なんだな?」
「私の腕を見てから判断しなさいよ。……疑うなら帰ってもいいけど」
私が踵を返そうとすると、翔は慌てて手を伸ばした。
「ま、待て! 悪かった。……条件はなんだ?」
ついに交渉のテーブルについた。私はニヤリと口角を上げる。
「単純よ。神宮寺からこちらに寝返るだけでいいわ。
あ、でも表立って動くのは、私が神宮寺を完全に叩き潰す準備が終わってからにしてね?
それまでは、適当に従うフリをしながらこっちに内部情報を流すだけでいいわよ」
「……それだけでいいのか? 俺が言うのもなんだが
金とか、もっとえげつない要求とかいらんのか?」
翔がいぶかしげに眉をひそめる。
「いらないわよ。お金なら、なんかもう近いうちに勝手に大量に入ってくる気配があるから。
それに、私は今『優秀な人材』を集めているところなの。あなた、私の仲間にはいらないかしら?」
翔は忌々しそうに舌打ちをした。
「……選択肢を与えてないくせに、よく言うぜ。妹の命を握られちゃ
首を縦に振るしかねえだろ。……だがまあ、神宮寺のクソ野郎の小間使いよりはマシか。
よろしく頼むぜ、聖女様?」
「その『聖女』って呼び方は反吐が出るほど嫌いなの。名前で呼びなさい」
「わ、わかったよ。有希」
翔は頭を掻きむしりながら、さっそく情報提供を始めた。
「でだ。神宮寺の奴、直近のダンジョン実習で裏ギルドの連中を
使ってお前を襲撃させるつもりだ。詳しい計画はよくわからんが
『とりあえず数を集めて力で押し潰せ』としか言われてねえ」
「ふーん? 裏ギルドねぇ……」
私は首を傾げた。
(この前いくつか相手にしたけど、まだ残ってたのね)
「しかも今回神宮寺が雇った連中は国内の残党じゃない。
海外のマフィア共だ。金に糸目をつけずにかき集めてるらしい」
「……海外マフィア」
「ああ。裏の人間ってのは、ゴキブリと同じでどこにでも湧くんだよ」
「なかなか的確な表現ね」
「褒めるな」
「ま、また具体的な動きが分かったら教えて頂戴」
私たちは事務的に連絡先を交換した。
「りょーかい。……これからよろしくな、雇い主様?」
翔がチラリと私の顔を見て、意地悪く笑う。
「……はぁ」
私は大げさにため息をつくと、スマホを操作して、翔の口座へ「今月の妹の治療費と生活費」を送金した。
ピロン♪ と翔の端末が鳴る。
画面を見た翔は、「おッ!?」と目をひん剥いた。
「マジか……! よくわかったな、俺の懐事情と口座……!」
「事前にあなたの調査資料、一通り読ませてもらったからね。
神宮寺からの資金源が断たれたら困るでしょ。
これからは私があなたのパトロンよ。それじゃ、しっかり働きなさいよね」
「……ああ、任せろ。必ず役に立ってやる」
翔の目に、確かな忠誠心の火が灯ったのを確認して、私はその場を後にした。
(海外マフィアねぇ……。面倒ね)
(まあ、今考えても仕方ない。とりあえず、今日やるべきことをやるわ)
***
裏工作のことをウンウンと考えているうちに、時間は放課後になっていた。
「ぜぇ……はぁ……つ、着いた……」
面倒なことは後回しにして、私は「付与装備部」の部室へ息も絶え絶えに辿り着いた。
(まず物理的な火力を上げること。準備なき戦略は机上の空論よ)
(あと、旧校舎の階段が毎回私を殺しにくる件、本当にどうにかしたい)
部室のドアを開けると、ゴーグルを首にかけた巧兄さんが、満面の笑みで出迎えてくれた。
「あ、有希ちゃん! 待ってたよ、できたよ!」
巧兄さんが机の上にドンッ!と置いたのは、鈍い銀色の光を放つ2丁の特注魔道銃だった。
指で引くトリガーが完全に排除された、のっぺりとした流線型のフォルム。
魔力操作のみで撃発機構を作動させる、私専用の仕様だ。
「……ほんとにできてる」
「できてるよ! 仕様通りに!」
私はさっきまでの疲れも忘れ、銃を手に取った。
「……すごい。めっちゃくちゃ軽いです!
それにこの魔力伝導率……私の規格外の魔力を流しても
回路が全く悲鳴を上げません! 耐久力も完璧……素晴らしいです!!」
(これで、指を動かすカロリーすら節約しながら
遠距離から安全に敵を蜂の巣にできる……! サボり専用ウェポン、爆誕!)
感激が全身を駆け抜けた。
(……これは、お礼を言うだけでは足りないわね)
私はしばらく考えてから、
「ありがとうございます、巧兄さん!!」
巧兄さんにギュッと抱きついた。
「うおわっ!? ちょ、有希ちゃん!?」
顔を真っ赤にして慌てふためく巧兄さん。
(……中身がおっさんなので本人はそれほど照れていないが
こういう時は正直に礼を言うべきよね。前世では男の身で
仲間が武器を作ってくれた時に何をしていたかというと、無言で頷いて終わりだった。
今世では礼儀を大事にしようと思っているわ)
「あはは、これくらいどうってことないよ……」
「いえ、かなり無茶して徹夜で組み上げてくれたんでしょう?
目の下のクマを見れば分かりますよ。だから、今のはその特別なお礼ってことで」
私がウィンクを飛ばすと、巧兄さんは「お、おう……」と頭を掻いて照れ隠しをした。
(……まあ、美少女ムーブも道具の一つよ。使えるものは使う。おっさんの処世術ね)
「そ、それでさ! 前の続きの件なんだけど!」
巧兄さんは咳払いを一つして、話題を切り替えた。
「有希ちゃんと考案した魔力Wi-Fi変換器。とりあえず試作品はできたんだよね」
そう言って、机の下から黒い弁当箱のような機械を取り出す。
「ただ、これ単体だと耐久力に問題があるのと、有効通信範囲がまだ半径数十メートルとかなり狭くてね。
ダンジョン全域をカバーするには至らないんだ」
「なるほど、もう少しですね」
私は弁当箱(変換器)を撫でながら、前世と現代の知識をフル回転させた。
「範囲の狭さについては、基地局一つで補おうとするから無理が出るんです。
ダンジョンの構造に合わせて、途中にいくつか『中継アンテナ』を設置して
メッシュ状に電波を繋いでいけば解決するんじゃないですかね?」
「……ッ!!」
巧兄さんが固まった。
三秒ほど固まった。
「……その手があったか!!」
雷に打たれたように叫んだ。
「なんで気づかなかったんだ僕は! そんな単純なことが!
一点集中で考えすぎてた! 有希ちゃん、君は本当に天才だよ!
それなら今の出力でもダンジョンの深層までネットワークを構築できる!
よーし、善は急げだ、早速家に持ち帰って中継アンテナの回路図を試してみるよ!」
巧兄さんは猛烈な勢いで荷物をまとめ始めた。
「ありがとう有希ちゃん! また明日ね!」
「はい、お疲れ様ですー」
嵐のように部室を去っていく巧兄さんを見送り、私は手元の2丁の魔道銃を見つめた。
(海外マフィア、神宮寺、裏ギルド…)
(……まあ、全部後でいいわ)
「さあて! 急いで帰って、この可愛い相棒たちを私の魔力波長に合わせてチューニングしないとね!」
今この瞬間、世界で一番大事なのは新しい武器だ。
私はテンションをぶち上げながら、帰路についた。




