表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
55/68

第51話:【砂浜リゾート(※ダンジョンです)】と【おっさん聖女のぶっちゃけ】

魔力Wi-Fi変換器の開発を決意してから数日後の放課後。


私は生徒会の山のような雑務をマッハでこなした後

お決まりのコースとして付与装備部の部室に引きこもっていた。


(ふふふ。すべてはダンジョン内でソシャゲを周回する環境を整えるため

未来のサボりのための努力は惜しまないわよ!)


そんな崇高な情熱を打ち砕くように、部室のドアが勢いよく開け放たれた。


「さあ有希、行くわよ! 準備はいい!?」


仁王立ちで現れたのは香澄ちゃんだった。

「今すぐ魔物を一網打尽にしてやる」と言わんばかりのやる気が

全身から漏れ出している。


「香澄ちゃん、めちゃくちゃやる気満々じゃない……。

私はもう生徒会と技術開発でHPがマイナスに突入しそうなのよぉ……」


机にドロドロの液体のように突っ伏す私を見て

香澄ちゃんが呆れたように息を吐いた。


「あんた、ずいぶん疲れた顔してるわね」


「当たり前でしょ。私は『将来楽してダラダラ生きるため』に動いてるはずなのに

どうしてやればやるほどスケジュールが過密になっていくのかしら。

世界のバグ? 労働基準法仕事して?」


「あんたの『仕事』が増えてるのは自業自得じゃないの」


「……まあ否定できないけど」


「それと香澄ちゃん、前はあんなにダンジョン行くの嫌がってたじゃない」


すると香澄ちゃんの後ろから

鼻息を「はぁー! はぁー!」と荒くした花梨ちゃんが

狂信者特有のギラついた目を輝かせて割り込んできた。


「有希ちゃん! 有希ちゃんの神聖なるレベル上げのためです!

さあ今すぐ修羅場へ向かいましょう! 有希ちゃんの御手を煩わせる不届きな魔物は

この私がすべて塵に換えてみせます!!」


相変わらず信仰心のブレーキが壊れている。


私が引き気味の目を香澄ちゃんに向けると

彼女はぷいっと顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。


「……っ、べ、別にやる気満々ってわけじゃないわよ!

ただ、割り切っただけ。せっかくあんたみたいな規格外のヒーラーとパーティを組んだのよ?

利用できるものは徹底的に利用させてもらうわ!」


「あ、ツンデレだ。かわいい」


「ツンデレって言うなっ!!」


「ツンデレって言われたくない人のリアクションがまさにツンデレだったわ」


「っ……! も、もういい! 行くわよ!!」


香澄ちゃんが真っ赤なまま先頭を歩き始めた。


(……本当にかわいいわね。前世で三十年

むさ苦しい野郎どもとしか過ごしてこなかったおっさんには

この尊さが五臓六腑に染みるわ)


「それじゃ行きましょうか」


私はのそりと立ち上がり、最低限の準備を整えて三人でダンジョンセンターへと向かった。



***



ダンジョンセンターのロビー。

タブレット端末がズラリと並んだ画面を香澄ちゃんが手際よく操作し

一つのダンジョンを指定した。


パーティリーダーである私のデバイスに受領メールが届く。

それを二人に共有して、私たちは専用のゲートをくぐった。


視界が開けた瞬間、目の前に広がっていたのは——見渡す限りの真っ白な砂浜と

どこまでも青い海だった。


「うわぁ、海だ……! ダンジョンの中に海があるなんてびっくりだわ」


潮風に髪を揺らせながら私が呟くと

香澄ちゃんが腰の得物を引き抜きながら解説を始めた。


「ここは『海沿いの砂浜ダンジョン(D級)』よ。

波打ち際や海の中から、甲殻系の魔物や巨大カニ

あとは一部の沿岸性昆虫が出てくるわ。

特徴としてはとにかく『殻がガチガチに硬い』か『信じられないくらい素早い』の二択

前衛の立ち回りが重要になるわね」


「さすが香澄ちゃんね、情報通だわ。……はっ!

私も負けていられません、すぐに有希ちゃんのための完璧な盾と矛になってみせます!」


花梨ちゃんが謎の対抗心を燃やして槍を構える。


そんな二人を見ながら、私はある確認事項を思い出した。


「ねえ、二人とも。本格的に狩りを始める前に、ちょっと試したいことがあるから少し待ってて」


「試したいこと?」


香澄ちゃんが不審そうに眉をひそめる。


私はすっと立ち上がると、まずは自分を中心に強固な多層結界を展開した。


そして次の瞬間——この砂浜全体

いや、ダンジョンの階層全体に向けて、全力で魔力を解放した。


どぉん!!


大気が物理的に鳴動した。


潮風が逆巻き、砂浜の砂が舞い上がり、遠くの海面が波紋を描いて揺れた。


(よし。これでこの階層すべてが私の庭ね)


脳内に完璧な3Dマップが構築された。


一秒後、激しい立ちくらみが来た。


「あ……これ、ダメなやつだわ……」


魔力は無限にあるのだが、それを一気に放出した反動に

体力2のひよこ未満の肉体が耐えきれなかった。視界がぐにゃりと歪む。


「おっとっと……」


足に力が入らず、私は砂浜の上に派手によろめいた。


「有希ちゃんぁぁぁぁぁーーーっ!!!???」


花梨ちゃんが、まるで世界の終わりを目撃したかのような絶叫を上げて突っ込んできた。

スライディング気味に私の体を抱きとめる。


「有希ちゃん! しっかりしてください!

まさか不治の病!? ああ、私が代わりになれればよかったのに!!」


「ちょっと有希!? あんた今、何したのよ!?」


香澄ちゃんも驚愕した顔で駆け寄ってくる。


「大丈夫よ……ちょっと全力出しすぎただけ。体が追いつかなかっただけ。……はぁ、やっぱりダメか」


「ダメって……あんた、今この周囲の空気の密度が明らかに変わったのよ!?

何をしたか説明しなさい!」


「後で説明するわ。今は二人にバフをかけるから、狩りをよろしくね?」


私は花梨ちゃんに抱きつかれたまま

最高位の支援魔法を二人に重ねがけした。

攻撃・防御・速度・魔力、全部まとめて数倍にするバフだ。


「なっ……何よこれ、体が軽すぎる……!」


香澄ちゃんが己の手のひらを握り締めて震えた。


「相変わらず出鱈目な性能ね。……いくわよ、花梨! 来るわ!」


「はい! 有希ちゃんに賜ったこの大いなる力で、全ての害悪を駆逐します!」


海面が爆発したように弾け

そこから軽自動車サイズの巨大な「アイアン・クラブ(鉄甲蟹)」が三匹

ハサミを威嚇するように鳴らしながら猛スピードで砂浜を駆けてきた。


「一匹目は私がもらうわ!」


速度バフで残像を残しながら突撃した香澄ちゃんが

一瞬で蟹の懐に潜り込む。振り下ろされるハサミを最小限の動きでかわし

魔力を纏わせた一閃を叩き込んだ。


「せいっ!!」


バフによって威力が跳ね上がった一撃が

ガチガチに硬いはずの蟹の甲羅を豆腐のように真っ二つにした。

緑色の体液を撒き散らし、一匹目が沈む。


「残りは私が! 『ウィンド・カッター』!!」


花梨ちゃんが槍を振るうと、暴風の刃が二条、砂浜を削りながら放たれた。

通常の数倍の魔力補正がかかった風の刃が、素早い沿岸昆虫も巻き込みながら

二匹目の蟹の足をごっそりと切断した。


キチキチキチッ!! と傷ついた蟹が狂ったように泡を吹き

三匹目が花梨ちゃんの隙を突いて砂の中から奇襲を仕掛ける。


「しまっ――」


花梨ちゃんが体勢を崩す。蟹の巨大なハサミが迫った。


パキンッ。


「…………」


小気味良い音が響き、私が展開していた自動防御結界が

花梨ちゃんの手前で蟹のハサミを完璧に弾き返した。

ビクともしない透明な壁に、蟹の方が衝撃でひっくり返る。


「ナイス防御、私」


その頃、当の私はどうしていたかというと。


砂浜の上に完全に横になって、潮風に当たっていた。


(いい風ね。気持ちいいわ。これでスマホゲームができたら

本当に高級リゾートなんだけど。通信革命、急がないと)


しばらくして、残りの魔物を片付けた香澄ちゃんが

剣の血を払いながらジト目でこちらを見下ろしてきた。


「ちょっと有希。バフのおかげで一瞬で片付くのはありがたいんだけど

 ……さすがに緊張感がなさすぎじゃない?」


「いいのよ。私はこうやって後方で堂々とサボるために

 あなたと花梨ちゃんという優秀な前衛を仲間に引き入れたわけだし」


「その正直さは評価する。……あと、寝転がってるからスカートの中、丸見えよ」


「いいわよ別に。女の子になら見えても減るもんじゃないし

 むしろご褒美でしょ。ぶっちゃけ減るもんじゃないわよ」


私が大人の余裕で言い放つと、私の真横で花梨ちゃんが「カハッ……!」と

短い悲鳴を上げて鼻血を噴き出した。


「ゆ、有希ちゃんの神聖なる領域が……っ!

は、鼻腔から生命力が溢れて止まりません……!

ですがこれは有希ちゃんが私に『見せても良い』と判断してくださったという

絶対的な信頼の証……! ああ、私は今、猛烈に生きている実感を味わっています……!」


「花梨ちゃんが別の意味で限界迎えてるから、本当にやめてあげて!?」


香澄ちゃんが頭を抱えて叫んだ。


「はいはい。じゃあ支援魔法かけ直すわよ。

……次は、右に五十メートル進んだ砂の中に、さっきより一回り大きい蟹が二匹潜んでるわ。

奇襲される前に、花梨ちゃんの広範囲魔法で砂ごと焼き払いなさい」


「了解です! 『ファイア・ストーム』!!」


花梨ちゃんが槍を掲げると、指定した座標の砂浜から巨大な火柱が巻き上がった。

潜んでいた魔物が、奇襲を仕掛ける前に砂の中で焼き蟹へと変わる。


「……焼き蟹ね」


「焼き蟹ね」


「……美味しそう」


「美味しそうだけど今は狩りよ! 手を休めないわよ!」


それから数時間。私は砂浜に寝そべり、たまに飛んでくる流れ弾を

自動結界でパキンパキンと弾きながら、的確な指示を出し続けた。

二人はバフの暴力と私のカンニングじみた索敵のおかげで

ノーダメージのまま超高速ファームを繰り返した。



***



「うっそ……信じられない、レベルが『5』も上がってるわ……!」


「私もです! こんな短時間でこれほど成長できるなんて

 やはり有希ちゃんは勝利の女神……!」


ダンジョンの最奥から引き返してきた二人は、ステータス画面を見ながら大はしゃぎしていた。


「それじゃあ帰りましょうか。お疲れ様、二人とも。はい、ヒールね」


私が二人に手をかざし、極上の回復魔法をかける。光が二人を包み込んだ瞬間

香澄ちゃんが「えっ……?」と声を漏らして自分の体をペタペタと触り始めた。


「ちょっと待って……怪我が治るのは分かるんだけど、どうして筋肉痛も疲労も

全部消えてるの……? 探索前より体が軽いんだけど……」


「そうよ? 私の回復魔法、疲労もストレスも

なんなら寿命のすり減りまで全部リセットする仕様だから」


「……寿命のすり減りまで?」


「便利でしょ」


香澄ちゃんが信じられないものを見る目で絶句した。


花梨ちゃんは完全に目がハートになっていた。


「有希ちゃんの回復……っ! ああ、体の中に有希ちゃんの魔力が満ちていく……!

これ、実質的に有希ちゃんとの共同作業(婚姻)なのでは……!?」


「花梨の脳内がおかしなことになってるから、さっさと帰りましょ!!」


香澄ちゃんに引きずられるようにして、私たちはダンジョンを後にした。



***



学園のゲート施設に戻り、回収した魔石を換金窓口へ提出。

今回の依頼完了報告を送信する。これで報酬ゲットだ。不労所得へ一歩前進。


「あー、今日もよく働いたわ(※寝そべっていただけ)。早く帰って冷たい麦茶でも——」


私のスマホが、ブブブッ、ブブブッ、と同時に二つのバイブレーションを鳴り響かせた。


画面を見ると、二つの名前から同時にメッセージが届いている。


沢井さん(ヤクザの若頭)。


橘さん(覚醒者協会会長の側近)。


内容はどちらも同じだった。


『先日ご依頼のありました、学園の覚醒者「神宮寺豪じんぐうじごう」についての

調査結果がまとまりましたので、ご報告いたします』


私はスマホを握りしめたまま、しばらく海の方角を眺めた。


砂浜の潮風が、まだ髪についている気がした。


(……麦茶、飲みたかったなぁ)


「はぁ…………。どうしてこう楽しかった後は

こうもめんどくさいことがやってくるのかしら」


裏社会と表社会のトップクラスから同時に届いた不穏な調査結果。


「……前世でも、こんなんだったわね」


三十年間、ずっとそうだった。


楽をしたいと思いながら、でも目の前のことを放っておけなくて

いつの間にか英雄になっていた。


(今世も、同じ感じになりそうね)


私は深くため息をついて、スマホをポケットにしまった。


どうやら私の夢見る「悠々自適なダラダラ不労所得ライフ」への道のりは

まだまだ遠そうだった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ