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第49.5話:【大暴走の狂乱配信】と【新たなる伝説(トラブル)の幕開け】

第49.5話:【大暴走の狂乱配信】と【新たなる伝説トラブルの幕開け】



ヒカトさんがキッチンセットの準備に向かい、カメラの前には私一人が残された。


「えーっと……ヒカトさんが準備する間、私とお話しましょうか」


そう言ってカメラに微笑みかけると、待ってましたとばかりに

コメント欄が凄まじい勢いで流れ始めた。


【コメント欄】

[AKIちゃんマジ女神]

[あの憂いを帯びた表情がたまらん]

[清楚の具現化]

[踏んでください]


「いやいやいや! だから違いますって!

あれは完全に映像のマジックです! 監督の編集が凄いだけで

私は本当にボーッと突っ立ってただけなんです!」


【コメント欄】

[謙遜する女神、尊い]

[突っ立ってるだけであの破壊力は逆に怖い]


(くっ……! 否定すればするほど好感度が上がる!

このシーソー、どっちに傾いても私が負ける構造になってる!)


「あの表情だって、『今日の夕飯何かなー』って考えてた時の顔ですから!

清楚? ないない! 私、隙あらば寝たいだけの超絶怠け者ですよ!?」


【コメント欄】

[謙遜する女神、尊い(2回目)]

[夕飯考えてあの顔は逆に凄いわ]

[隙あらば寝たい(かわいい)]

[つまり添い寝枠!?]


(これが……トップ配信者のリスナーというやつか!

私のネガキャンが全部プラス変換されていく! 何を言っても無駄なのか!?)


私は一度深呼吸して、作戦を切り替えた。


「じゃあ、正攻法でいきます。私は泥水を啜ってきたような生活をしていたので

 清楚でも何でもないです」


【コメント欄】

[泥水を啜る女神、尊い]

[それがますます清楚に見える件]


(……どんな言葉も清楚に変換される! これは病気だ!)


「AKIちゃーん! 準備できたよー!」


画面外からヒカトさんの声が救いのように響いた。


「あ、呼ばれたので移動しますね。よいしょ……っ」


三脚から外したハンディカメラを持ち上げる。


重い。


(……これが、重力か)


(私の体力は2だ。このカメラ、軽く五キロはある。

五キロというのは、体力2の人間にとってどういう重さか。

答えは「限界に近い」である)


「う、うう……。カメラ重い……私のHPが削られていく……」


ぷるぷると腕を震わせながらキッチンへ向かう。


【コメント欄】

[守りたい]

[俺が持つ(物理)]

[カメラマンが欲しいなら俺が行く]

[募集してないよ]


もう見ないことにした。



***



キッチンに到着すると、テーブルの上には肉、魚、色鮮やかな野菜など

豪華な食材がズラリと並んでいた。


「今日はね、ここにある食材を使って、AKIちゃんと自由に料理を作ろうと思うよ!」


ヒカトさんがエプロン姿で爽やかにウインクを決める。


「自由……ですか」


私は並べられた食材をジッと見つめた。


肉。魚。野菜。調味料。大鍋。


(答えは一つだ)


「分かりました。じゃあ、これ全部大鍋にぶち込んで闇鍋にしましょう。

 手っ取り早いですし」


親指をグッと立てて提案すると、ヒカトさんの爽やかな笑顔がピキリと固まった。


【コメント欄】

[闇鍋wwww]

[女神の提案がエグい]

[待って、配信としては見たいんだが]

[ヒカト、やれ]


「ス、ストップストップ! 配信的にはすっごく美味しい提案なんだけど!

 当たり外れが大きすぎるから! ちゃんと作ろう!? ね!?」


「えー。……まあ、ヒカトさんがそう言うなら」


仕方なくメニューを考える。手早くできて

見栄えが良くて、私の労力が最小限のもの。


「じゃあ、唐揚げと彩りのサラダと汁物にしましょう。すぐ出来ますし」


「おっ、王道でいいね! じゃあ頼んだ!」


「よし、やりますか」


私は気合いを入れ、エプロンのポケットに偽装した空間収納ポーチから

愛用のナイフをスッと取り出した。


まな板の上に食材を置く。


そして、切り始めた。


【コメント欄】

[!?!?!?]

[え、今何が起きた?]

[包丁さばきエグッ!?]

[プロの料理人!?]


「え……AKIちゃん、今何をしたの?」


ヒカトさんが呆然と呟いた。


スタッフさんたちも全員が固まっている。


テーブルの上には、スタッフさんの分も含めた

大量の食材が宙を舞うように均等サイズに切り分けられていた。


「え、普通に切りましたけど」


「普通じゃないからね!? 今絶対に何かやったよね!?」


「料理ですよ」


「料理の速度じゃないからね!?」


(ふふん、前世で軍隊にいたおっさんを舐めないでよね。

 野営で何十人分もの食事を素早く準備するのは基本スキルよ)


(それより、揚げ油の温度が)


「あ、唐揚げそろそろ揚がりますよ」


ヒカトさんが「ちょっと待って、なんで揚げ始めてるの!?」と言っていたが

揚げながら話すのは効率が悪いので無視した。


手早くサラダを綺麗に盛り付け

揚げたての唐揚げをタワーのように乗せた特製プレートを完成させる。

残った野菜の切れ端と味噌で具沢山の味噌汁もササッと作り上げた。


「よし、完成しましたー」


「……は、速すぎる」


ヒカトさんが固まっている。


【コメント欄】

[AKIちゃんどこの家の子なの]

[戦闘訓練を受けた料理人説]

[包丁さばきと闇鍋発言の組み合わせが怖い]

[実は修羅の国の出身では?]


「さて、じゃあ味見タイムですね」


私がお箸を取り上げようとした瞬間、ヒカトさんがパンと手を叩いた。


「はーい! お料理も一段落したところで、お待ちかねのAKIちゃんお着替えタイムです!!」


「……は?」


有無を言わさず、私は女性スタッフたちに両腕を掴まれ、控え室へと連行された。



***



控え室。


「いやいやいや! 露出多くないですか!? 絶対これ不評ですよ!!」


「大丈夫です! 絶対似合います! むしろこれが正義です!」


スタイリストさんとの謎の攻防を経て、私は無理やり一着の服を着せられた。


肩出しのオフショルダー白ニットに、黒のレザーミニスカート。


鏡を見た。


(……あ)


(これは、ちょっと)


(いや、かなり)


(前世も含めて、こんな服を着たことは一度もなかった)


真っ赤な顔でもじもじしながらカメラの前に戻ると、スタジオの空気が一瞬で凍りついた。


「うわぁ……! AKIちゃん、すっごく可愛いよ!」


ヒカトさんが目を輝かせてカメラを私に向ける。


その耳が、また赤い。


【コメント欄】

[うおおおおおおおおおおおおおおおお!!]

[破壊力ぅぅぅぅぅ!!]

[肩! 足! 肩! 足!]

[スタイリストに国民栄誉賞をあげてくれ]

[赤スパ(5万円)×10連発]

[画面が眩しすぎて直視できない]


(恥ずかしい! 前世も含めてこんな服着たことないわよ!!)


(……でも、このままボーッとしてるのはもっと恥ずかしい)


(どうせなら……)


(どうせなら、もうヤケクソでいこう!!)


私は深呼吸した。


おっさんの矜持とか、元英雄の威厳とか、そういうものを全部棚の上に置いた。


そして、お箸でアツアツの唐揚げを一つ摘むと

カメラ(とヒカトさん)に向かってニッコリと笑いかけた。


「はい、お兄ちゃん。あーん♡」


しーん、と。


スタジオの時間が止まった。


ヒカトさんが固まった。カメラマンさんが固まった。

スタッフさんが全員固まった。


三秒後、ヒカトさんが真っ赤な顔のままパクッと唐揚げを口に入れた。


そのまま五秒ほど、何も言わなかった。


「……っ! 美味しい!! すっごく美味しい! AKIちゃん、もう一個!!」


「だーめ。また後でね、お・に・い・ちゃ・ん♡」


小悪魔っぽくウインクして見せると、コメント欄が完全に崩壊した。


【コメント欄】

[俺がああああああ! お兄ちゃんだあああああ!]

[ヒカトそこ代われェェェェ!!]

[心臓止まった]

[今すぐ戸籍を弄って兄になってくる]

[あざと可愛い! 許す! 全部許す!]

[今日一番の破壊があったので帰ります]

[帰るな]


(……あ、これ意外と楽しいかもしれない)


(ヤケクソって、なんか清々しいわね)


私はさらに味噌汁を小皿に取り、ズズッと味見をした。


「うん、美味しくできました! 完璧です!」


そして、カメラのレンズに向かってペロッと舌を出した。


「でも、画面の向こうのお兄ちゃんたちはざんねーん!

 食べられませーん! あげませんよーだ!」


【コメント欄】

[ご褒美ありがとうございます]

[煽られてるのに幸せ]

[これが「あげませんよーだ」枠か]

[画面舐めていい?]

[駄目です]

[俺たちの心はもう満腹だよ……]


「さて! じゃあスタッフさんたちが味見している間、私とお話しましょうか!」



***



リスナーとの雑談を楽しみながら時間がたっていた。

ヤケクソ妹ムーブが完全にウケて、私も普通に楽しんでしまっていた。


「そういえばAKIちゃん、ご飯食べないの?」


ヒカトさんに聞かれ、私は振り返った。


「あ、私は後で食べますよ。まだ残ってたら……って」


カメラを料理の並んでいたテーブルに向けた。


そこには、一滴の汁すら残っていない、ピカピカに空っぽの皿と鍋が転がっていた。


背景には、昇天しそうなほど満面の笑みを浮かべ

親指を立てている大勢のスタッフたちの姿。


「…………」


「…………空っぽ?」


「…………全部?」


【コメント欄】

[草]

[スタッフゥゥゥゥ!!www]

[全部食い尽くしてて大草原]

[どれだけ美味かったんだよ]


「ちょっとスタッフさんたち! 遠慮って言葉知ってます!?

私の分は!? 私、まだ一口も食べてないんですけど!?

闇鍋を却下してまで作ったのに!? 味噌汁の味見だけで終わったんですけど!?

これ私は何のために料理したんですか!?」


【コメント欄】

[正論www]

[スタッフが悪い(満場一致)]

[味噌汁一口で終わった料理人の叫び]

[でも美味かったんだろうな(確信)]


スタッフの一人が恐る恐る近づいてきて、「ヒカトさんの分だけ残ってます……」と小声で言った。


ヒカトさんが「え、僕の分も食べていいよ!」と言い、スタッフ一同が「本当ですか!?」と目を輝かせた。


「ヒカトさんも人が良すぎる!!」


私は理不尽にキレながら、ヒカトさんが差し出した唐揚げを一口食べた。


美味しかった。


それはそれとして腹は立った。



***



「はい! じゃあAKIちゃん、2回目のお着替えタイムです!!」


「またぁ!? もういいでしょ!?」


再びスタッフに連行され、今度は見覚えのある衣装を渡された。

昨日公開されたPR動画の、純白のドレスだ。


「また着るのね……」


着替えてスタジオに戻ると、私は疲労困憊でソファにぐったりと倒れ込んだ。


「あはは、ごめんね。でもリスナーのみんなが本生であのドレス姿を見たいって言うから

 協会から借りてきちゃった!」


「私、これ全然似合ってないからもう脱いでもいいですか……」


「だーめ! 最後までこれでいくよ!」


「絶望……」


ガクリと首を垂れる私。


【コメント欄】

[羽休めする天使]

[絶望してる女神、尊い]

[絶望(かわいい)]


(なんで絶望してても尊いんだ、このリスナーたちは)



***



配信も終盤のQ&Aコーナー。


「じゃあ次の質問。『AKIちゃんは彼氏いるの?』」


ヒカトさんが読み上げた。


その声が、わずかに緊張していた気がした。


「彼氏? ……ああ、自称ならたくさんいますよ。学園の周りとか、よく分からないところに」


「……自称、が複数いる?」


「はい。勝手に名乗ってる人たちが」


「……どんな組織?」


「色々ですね。学園の信者の方々とか」


ヒカトさんの笑顔が少し固まった。


【コメント欄】

[お前らのことだぞ(俺たちに向かって)]

[それ自称彼氏じゃなくて護衛では?]

[誰だそいつら! 粛清するぞ!]


「じゃあ、そういう自称を抜くと?」


ヒカトさんが興味津々で突っ込んできた。声が、少し低くなった。


「いないですね。そんな余裕ないですし。私、毎日今を生きるだけで精一杯なので」


(体力2だからね。ちょっと階段から落ちたら死ぬし。恋愛なんてしてる暇ないのよ)


【コメント欄】

[よっしゃああああああ!!]

[俺にもワンチャンある!?]

[今を生きるのに必死って……苦労してるんだな(涙)]

[俺が養う!!]


ヒカトさんが何か言いかけて、やめた。


耳がまた赤かった。



***



「そういえば、AKIちゃんってSNSやってないの?

さっきからリスナーのみんながアカウント探してるみたいだけど」


「やってないですね。面倒くさ……ゲフンゲフン、忙しくて」


「えっ、もったいない! この場で作っちゃいなよ!」


ヒカトさんにスマホを渡され、半ば強引にアカウントを作成させられた。


「えーっと、アカウント名は『AKI』で。プロフィール写真は……」


私は純白のドレス姿のままカメラに向かって

少し困ったような顔でパシャリと自撮りした。


「はい、できました。これです」


スマホの画面をカメラに向けた。


数秒後、私のスマホがバイブレーションの限界に挑み始めた。


「……すごい音がしてますね」


「フォロワーが来てるんだよ! 今何人いる!?」


画面を確認しようとしたが、通知が多すぎて数字が読めなかった。


「……よく見えないです」


「じゃあ、そろそろお時間ね! 今日は本当に最高の配信だったよ!

AKIちゃん、最後に一言!」


「えっと……今日は巻き込まれ事故のような感じでしたが

皆さんとお話しできて楽しかったです。また機会があれば。ありがとうございました」


私がペコリと頭を下げると、画面は弾幕のような感謝と愛の言葉で埋め尽くされ、配信は終了した。


「お疲れ様! 視聴者数、過去最高だったよ! 大成功!

 AKIちゃん、また頼んでもいいかな?」


「……私が忙しくなければ、ですね」


引きつった笑顔で答えた。


その数時間後、配信アーカイブが切り抜き動画として世界中に拡散され

爆発的にバズることになる。


そして、その場のノリで作った私のアカウントのフォロワー数が

たった一晩で50万人を突破する。


そして、それがまた新たなトラブルを引き起こすことになるのだが。


今の私は、ただ早く家に帰ってベッドにダイブすることだけを考えていた。


(唐揚げ、一口だけだったわ)


(お腹空いた)

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