第45話:【裏方の裏事情】生徒会室のクールな変態と、前世の血が騒ぐ路地裏
順位戦の模擬戦を終え、放課後。
私の固定パーティメンバーたちは、見事な成績を収めていた。
「うおおおっ、有希ぃぃ! 俺、ダンジョン・ラッシュで5位だったぞ!
5位! ギリギリ入賞だぁぁ!」
「私もソロバトルで3位!
有希ちゃん!私の有志みてくれたよね!?私の勝利は有希ちゃんのためだよ!」
修平と花梨が、顔をぐしゃぐしゃにして泣きながら喜んでいる。
青春だなぁ。
「あんたたち、みっともないから泣くのはやめなさい。
ま、私もマジック・オブスタクルで2位だったけど」
香澄は腕を組んでツンとそっぽを向いていたが、その耳はほんのりと赤い。
「香澄ちゃん、おめでとう。すごいじゃない」
「別に。……あんたのサポートのおかげなんて
これっぽっちも思ってないんだからね。……ありがと」
(出た! テンプレのようなツンデレ! ありがたく頂戴いたします!)
和気あいあいとしたメンバーたちを激励し
私は一人、重い足取りで校舎の最上階へと向かった。
向かう先は、学園の権力中枢――『生徒会室』だ。
***
(はぁ……結局、また労働が増えた。
私の平穏なニート生活はどこへ……)
しぶしぶ重厚なドアをノックすると
中から「入りなさい」と凛とした声が響いた。
「失礼します……」
部屋に入ると、そこには三人の男女が待ち構えていた。
「よく来てくれたわね」
中央のデスクに座っていたのは、銀色の長髪を揺らす冷艶な美少女だった。学年トップの実力を誇り、学園側すら手出しできないという権力者とのパイプを持つ生徒会長、東雲理沙だ。
彼女は足を組み、氷のようにクールな視線を私に向けている。
(うわっ、めっちゃ隙がない。怖い。でもなぜか
机の下の指先がピクピク動いてるのは気のせい?)
「えっと、自己紹介した方がいいですか?」
「そうね。まずは私からしましょう。私は生徒会長の東雲理沙よ」
理沙会長が短く言うと、隣にいた赤いショートヘアの女性が前に出た。
「アタシは副会長の高梨葵。
よろしくね! 堅苦しいのはナシでいいよ!」
明るくハキハキとした口調だ。氷属性の精霊使いという噂だが
本人の性格は夏真っ盛りのように明るい。
「で、俺がもう一人の副会長、東郷雄一。
有希ちゃん、よろしくね!」
もう一人は、爽やかなイケメンだった。
炎の精霊使いで双剣士、実力は学年No.3。間違いなく女子にモテるタイプだ。
「高橋有希です。……微力ながら、よろしくお願いします」
私がペコリとお辞儀をすると、理沙会長がわずかに「ッ!」と息を呑み
なぜか口元を両手で覆ってブルブルと震え出した。
(えっ、何!? 私、何か失礼なことした!?)
「か、会長……?」
「……っ、なんでもないわ。少し、咳が出ただけよ。コホン」
理沙会長は必死にクールな表情を作り直したが、耳まで真っ赤だ。
(実はこの時、理沙会長の脳内では
『尊い! 有希ちゃんのお辞儀可愛すぎる! ほっぺたスリスリしたい!』という
欲望の大暴走が起きていたのだが、ポンコツな私がそれに気づく由もなかった)
「有希ちゃんには、まずそこの書類作業をやってもらうわ。
それが終わったら、他の役員と校内の見回り(パトロール)をお願いね」
「分かりました」
指定されたデスクに座り、書類の山と向き合う。
(うっ……文字がびっしり。前世は脳筋の戦士だったから
活字を見ると三秒で眠くなる呪いにかかってるのよね……)
白目を剥きそうになりながらも、なんとか気合で書類仕事を終わらせた。
***
「それじゃ、巡回に行ってきます」
「ええ、頼んだわ(あぁん、有希ちゃん頑張って!
後でご褒美にお菓子あげなきゃ!)」
理沙会長の(内心の)熱い視線に見送られ、
私は同学年の男子役員と二人一組で校内を見回ることになった。
「あ、あのっ! 高橋さん、よ、よろしくお願いしますっ!」
一緒に組んだ男子は、私の顔を見るなりしどろもどろになっていた。
「こちらこそ、よろしくね」
私がニコッと微笑むと、彼は「ひゃいっ!」と
奇声を発して顔を真っ赤にした。……うん、初々しくてよろしい。
適度に雑談を交わしながら校舎裏を回っていると
薄暗い路地から物騒な声が聞こえてきた。
「おいコラ、痛い目見たくなかったら、さっさとポイント(金)寄越せや」
「ひぃっ、や、やめてください……!」
不良グループが、気弱そうな下級生をカツアゲしているテンプレのような現場だった。
(はぁ……どこにでもこういう輩はいるのね)
私が深いため息をついて足を踏み出そうとすると
同行していた男子が慌てて止めた。
「た、高橋さん! 相手は上級生です!
ここはいったん戻って、先輩たちを呼びましょう!」
「大丈夫よ」
私は制止を振り切り、不良たちの背後に歩み寄った。
「ねえ。そんなことして、楽しいかしら?」
不良三人組が振り返る。
「あぁ? なんだてめえ」不良①(リーダー格)が凄む。
「おっ、こいつ噂の聖女様じゃね?」不良②が下品に笑う。
「噂だと、実戦じゃクソ弱いみたいっすよw」不良③が嘲笑う。
なるほど。
「……じゃあ、やってみれば?」
私の言葉に、不良たちの顔色が変わった。
「舐めてんじゃねえぞ、アマァッ!」
三人が一斉に殴りかかってくる。
(遅い)
私は自身に『身体強化(ステータス倍化)』の支援魔法を軽く掛けた。
先頭の不良③の大振りのパンチを、防御魔法で滑らせるように受け流し
そのまま手首を掴んで円を描くように投げ飛ばす。
「ぐへぇッ!?」
不良③が吹き飛び、後ろにいた不良②に激突して二人揃ってすっ転んだ。
「て、てめぇ……!」
リーダー格の不良①が魔法を発動しようとした瞬間。
私は制服のスカートを僅かにまくり
太もものガーターベルト型ポーチから、拉致されたときに改良したナイフを引き抜いた。
ドンッ!
不良①の胸ぐらを掴んで壁に押し付け
その首筋に冷たい刃をピタリと添える。
「ひっ……!」
「これ以上やるなら、喉笛を斬るわよ?」
私は、前世の修羅場で培った『本物の殺気』をナイフに纏わせた。
「……い、いいのか? お前、そんなことしたら犯罪者だぜ……!」
不良①が震え声で強がる。
「いいわよ? 上等じゃない」
私は、口元に狂気じみた笑みを浮かべた。
「やってあげるわ。動脈を寸止めで斬って
治癒魔法で塞ぐ。これを十回くらい繰り返せば
自分の血の温かさで少しは反省するかしら?」
「ヒィィィッ!? や、やめろ! 俺らが悪かった! 謝るから!!」
不良①は涙と鼻水を流し、完全に戦意を喪失した。
「次やったら容赦しないわよ。
私、どんなことになっても生きていける自信があるから
精々気をつけることね?」
ズンッ、と魔力を少しだけ解放して圧をかけると
不良たちは脱兎のごとく逃げ出していった。
「あ、ありがとうございました……!」
へたり込んでいた下級生がお礼を言ってくる。
「仕事をしただけよ。気をつけて帰りなさいね」
下級生を見送り、私はふと我に返った。
(……あちゃー。やっちゃった)
同行していた男子役員が
「す、すっげぇぇ! 高橋さんマジでかっこいいっす!!」と
大興奮しているのを横目に、私は激しく後悔していた。
(弱い者が虐げられてるのを見ると、血が騒いで我慢できなくなるのよね……
目立たないようにするって決めたのに……)
***
「……遅かったわね?」
生徒会室に戻ると、理沙会長が相変わらずのクールフェイスで出迎えた。
「すみません。少し休憩してたら遅くなりました」
「……そう。ならいいわ。今日はご苦労様」
「失礼します」
私はペコリと頭を下げて、足早に帰路についた。
――しかし。
不良どもをナイフで制圧していたその瞬間を
校舎の陰から静かに観察していた『ある男』がいたことに、私は気づいていなかった。
「ふっ……高橋有希。ただの無能かと思いきや、あの躊躇のない殺気……」
男は、暗闇の中でネットリと笑みを深めた。
「俺にふさわしい女じゃねーか。……絶対に、手に入れてやる」
私の引きこもり計画に、また一つ、面倒極まりないフラグが突き刺さった瞬間だった。




